エリザとデート
無事に学園を出ることに成功した俺は、ゆっくりと川沿いの道を歩いていた。
ふむ。
待ち合わせの時間までには、まだまだ余裕があるようだな。
散歩がてらに街の景色を見物しつつも、王都の中心部に向けて歩いていく。
俺たちのいる西地区はアースリア魔術学園の他にも、研究機関や学園が多くある地区だ。
その為、学生たちの姿もちらほらと目に入る。
同じ学園の生徒もいれば、全く見たことない制服の学生もいる。
彼らを横目に中央地区へと歩いて行く。
天藍石(ラズライト)のように青を含んだ石畳の道を抜けた先に、待ち合わせ場所として指定された時計台があった。
どれどれ。
時間は11時前くらいか。ちょっと早く付き過ぎたな。
しかし、どうやら待ち合わせの人物は俺よりも更に早く到着していたらしい。
「すまない。待たせたか?」
人ゴミを掻き分けて進んで行くと、目的の人物はそこにいた。
普段と同じ制服姿ではあるが、バックに時計台があるだけで雰囲気が違って見えるものなのだな。
この女の場合、なまじ見てくれが良いだけに何処にいても絵になってしまうのが腹立たしいところである。
「いいえ。今来たところだけど……」
「けど?」
「少し驚いちゃって。アベルの口から『すまない』なんて言葉が出るとは思っても見なかったから」
はあ。相変わらず口の悪い娘だ。
この女は俺のことを一体何だと思っているんだ。
「さあ。行きましょう。今日はアタシが貴方のことをエスコートしてあげるわ」
ふう。エスコートねえ。
我ながらこんな小娘を頼りにしなければならないとは情けないものである。
だが、俺としても早いうちに王都の中心部に足を運び、この時代の最先端文化を学んでおきたいと考えていたのだ。
エリザのやつが何を思って俺を外出に誘ったのかは不明であるが、ここは彼女の厚意を利用させてもらうとしよう。
「まずは、そうだ。せっかくだからこの時計台見て行かない? 中が展望フロアになっているのよ」
「ああ。構わないぞ」
どうやら俺たちの今いるこの時計台は、『ルーウェン記念時計台』というらしい。
一体何を記念して作られたものなのかは定かではない。
俺にいた200年前の時代には、見たことも聞いたこともなかったような名前である。
「ねえ。アベル。知ってた? この時計台、今日みたいな晴れた日には王都全域が見えるんだって」
子供のように声を弾ませるエリザを尻目に、時計台の中の狭い階段を登っていく。
その階段の途中で、少し面白そうな機械があった。
なるほど。
これは面白いな。
この時計台についている巨大な時計の中身の部分だ。
大小様々なゼンマイと、絶え間なく動くアンクル。
巨大なカラクリ仕掛けの時計の仕組みは、精巧で規則正しく、何時間でも見続けることができそうな不思議な魅力あがった。
「見て! 今日は海まで見える!」
少し先を歩くエリザが時計台の中の小窓を覗きながらもそう言った。
ふむ。
春先らしく天候に恵まれているからか、随分鮮やかに海が見える。
その海に浮かぶのは、船……いや。
「あれは何だ?」
「えっ。あれって、あの蒸気船のこと? アベル、蒸気船をしらないの?」
「蒸気船というと、魔石燃料を使って海を渡るあれのことか」
煙突から雲みたいにもくもくとした煙を吐きだしながら海を行く蒸気船。
この距離からはっきり見えるということは、中々の大きさだろう。
その他にも大小様々な物をエリザに尋ねた。
エリザはなんだかんだと言いながらも答えてくれる。
ふむ。
やはりエリザがいてくれて少し助かったな。
大抵のものは本で知識として頭の中にあったのだが、やはり実際に自分の目で見るのは感慨深い。
今日は一日、色々な物を見ることができそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます