学生寮

 本一冊読み終えた頃、外から入ってくる風の匂いが変わっていた。


 ふむ。どうやら王都ミッドガルドは、目と鼻の先にまで迫っているようだな。


 規則正しい整備された町並みを横目に、馬車は進んでいく。


 

 そして、見えてきたのはあの城のような学園だ。


 

 銀竜の門が開き、馬車ごと敷地へと入っていく。学園の門を潜るのは、入学試験以来、これで二度目か。


 馬車はそのまま、城の裏手に停車する。



「着きました。あちらの建物が学生寮となっております」



 リリスが馬車から降りて直ぐに指さした先には、石造りの長い建物がある。

 赤煉瓦で作られたこの5つの建物は、それぞれが貴族の屋敷を遥かに凌ぐであろう敷地面積を誇っていた。



「大きいな」


「そうですね。学生全員がこの建物を使っていますから。一部の部屋は研究室としても使われているみたいですし、売店なんかも入っているそうです」



 おそらく建物が5つに分かれているのは、学年ごとに居住場所を分けているからなのだろう。


 聞くところによると、アースリア魔術学園は1年~5年の5学年制を導入しているらしい。



「アベル様、ワタシは一度ここで別行動をさせていただきますね。一応、新米教師なので挨拶回りと授業計画の提出をしてこなくてはいけないらしいので」


「そうか。了解した」


「はい。では、また後ほど」



 リリスを見送ってから、さて、と俺は一息つく。

 

 俺は馬車の中で『音を立てずに』寝こけているテッドの方に視線を移す。


 厳密には、コイツのイビキがうるさかったので、音を消しておいたのだ。



「ぐががががあああっ」



 やれやれ。消音魔術を解除すると、音が割れんばかりイビキが聞こえてきた。



「火炎玉(ファイアーボール)」



 空中にこぶし程度の炎玉を作る。

 火傷しない程度にまで威力を落としてやったのは、俺にできる精一杯の優しさだ。


 俺は目覚ましのために作った火属性魔術をテッドの顔面に落とす。



「熱ぁあああああああああ!?!?!?!?」


「テッド。着いたぞ」


「え、ええ! 今、なんか顔にっ」



 テッドは未だに訳が分からないといった表情を浮かべている。

 火属性魔術を応用した目覚ましの方法は、200年前の時代には割と一般的に使われていたのだが、今となってはすっかり認知度が下がっていたようである。



「夢だ。夢。ほら行くぞ」


「な、なんだ、夢っスか……。なんか酷い夢を見ていた気がするッス」



 テッドは慌てて馬車から荷物を下ろして、俺の後に続く。

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