決闘のルール

 面倒なことになった。

 ボンボン貴族(兄)、バースに決闘を申し込まれたのだ。



「ちょっと待て。別に俺には戦う理由が何もないぞ?」



 当然、俺にとってボンボン貴族(兄)は、取るに足らない存在である。


 敗北は考えられない。

 たとえ1万回戦ったところで結果は全て同じだろう。


 だが、俺はあくまでこの世界で平和に生きたいのだ。


 今だって騒ぎを聞きつけた街の人間たちが俺たちの周りに集まっている。


 こんな街中で悪目立ちをするのは賢い選択肢とは言えないだろう。



「ふ、ふざけるなよ! キミは貴族の誇りまでコケにするつもりかっ!」



 あー。バースの怒りが燃え上がっている。

 そうだな。良く考えれば相手は子供だからな。


 怒っている時にそんなに怒るなよって言ったらより怒るよな。

 

 うむむ。

 どうしたものか。


 もしかしたら素直に決闘を引き受けて、一瞬で勝負を付けた方が目立たなくて済んだりするのだろうか?


 バースを怒らせれば怒らせるほど、余計に騒ぎが大きくなってしまうような気がしないでもない。


 俺は溜息を深く深く、それはもう深く吐いてから。

 


「分かった。その決闘を受けてやるよ」



 仕方がない。

 ここは大人しくバースの遊びに付き合ってやるとするか。


 ちょうど今の時代の貴族がどれくらい魔術を使えるのか、『サンプル』が欲しいと思っていたところだしな。


 あまり派手な魔術を使わないでサクッと戦いを終わらせてしまえば、周囲からの注目もさほど受けずに済むだろう。



「ふふふ。それでは決闘のルールを説明するっ! ボクとキミの一対一! 先に『参った』と言わせた方が勝ちだ! ま、これだけ歳が離れているんだ、ハンデとしてボクは……」


「分かった。分かった。ハンデはなしでいい。さっさと終わらせよう」



 そんなことよりテッドのケガが心配だ。


 ケガの原因の一端がこちらにある以上、俺にはテッドのケガを治療してやる義務があるわけだからな。



「なっ……! キ、キミは一体何処までボクを侮辱すれば……!」



 ヤバイヤバイ。

 どうやら俺の投げやりな態度がバースの逆鱗に触れちまったらしい。


 プルプルと声を震わせたバースは、今にも斬りかかってきそうな殺気を全身から放っていた。



「いいだろう。ボクを侮辱したことを一生後悔するといい!」



 バースは腰にある剣を抜く。


 ふむ。 

 子供が持つには少し長めの片刃の剣。おそらく成人向けの真剣だろう。


 しかし、普通の剣とは違い妙な細工があるな。



「風列刃ウィンドエッジ!」



 剣を振り下ろすと同時に風の刃がまっすぐ向かってきた。


 うん?

 思ったよりもやるな、コイツ。


 威力そのものは特に語ることのない平凡なものであったが、いくらなんでも構築のスピードが速すぎる。


 こんな速度で魔術を構築できる奴は、前の世界じゃ俺くらいしかいなかった。


 となると怪しくなってくるのは、ボンボン貴族(兄)が握っている見慣れない形状の剣である。


 あの剣、何か細工があるな。


 そうでもなければバースのような子供がこんなに素早く魔術を構築できるはずがない。

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