よくできた玩具

「ふんっ。その反応。大方キミは魔道具レガリアを見るのが初めてなんだろう?」



 魔道具(レガリア)? 

 その剣の名称か。初めて聞く言葉だな。



「まったく……呆れてものが言えないよ。魔道具レガリアも知らずに生きてきたとは……。キミは酷い田舎に住んでいたようだね」


「う~ん。別に田舎暮らしっていうわけではないのだが……」



 改めて考えてみると、俺の境遇を他人に説明するのは難しいな。


 俺の正体が200年前から未来に転生した魔術師だ、ということは誰かに言っても信じてもらうのは厳しいだろう。



「そうだな。少なくともそういうのは見たことがない」


「ならばハンデ代わりに教えてやる。このアイテムは魔術の構築をサポートするアイテムさ!」



 バースが吐き捨てながら剣を振り上げる。



「――この剣のおかげボクは、圧倒的に速く魔術を発動できるのだよ!」



 またも発動された風列刃ウィンドエッジ。


 それを軽く避けてから、もしやと思い、目を凝らして剣を見る。


 俺は身体強化魔術を応用した《解析眼》を発動する。


 ふむふむ。

 そうか。なるほど。


 どうやらボンボン貴族(兄)が使用している剣には、あらかじめ魔術構文がセットされているようである。


 つまりは自分で魔術構文(ソース)を組み立てなくても、魔力を流し込んでしまうだけで簡易的な魔術が発動する仕組みとなっているのだ。



「どうだ! このスピード! 丸腰のキミにはついて来られまい!」

 


 なんというか……。よくできた玩具、だな。


 そう形容するより他はない。


 俺から言わせたら、そんな道具は足の不自由な老人が杖を突いて歩いているようにしか見えないぞ?


 魔術というものには、絶対にこれが正しいという構文は存在しない。

 戦況に合わせてベストな構文を探り、構築していくのが魔術同士の戦いの醍醐味であるのだ。



「ほらほらっ! これがボクの力だぁっ!」



 次々に剣を振るうバースであったが、何一つとして驚異を感じることができない。


 遅い。

 そんな身の丈に合わない剣を使っているからだ。

 

 軽く避け、距離を取る。

 バースはここぞとばかりにまたも同じ《風列刃ウィンドエッジ》を繰り出してくる。



「くだらん」



 流石にそろそろ飽きてきたな。

 俺はバースの放った風列刃を左手で軽く叩き落とす。



「なっ!? ボ、ボクの魔術を、素手で!?」



 ずっと疑問に思っていた謎がようやく解決をした。


 魔道具レガリア。


 おそらく、この道具の登場こそが、魔術師たちのレベルを下げた要因の1つなのだろう。

 

 たしかに、魔道具は便利だ。

 便利だからこそ現代の魔術師は、こう考えた筈だ。



『魔道具があれば魔術構文(ソース)を自分で構築しなくても良いや』、と。



 実際、魔族という天敵のいない世界ならば、インスタントな簡易魔術でも十分に通用したのだろう。


 だが、悲しいかな。

 俺の暮らしていた200年前の時代では、魔道具などという玩具が通用するような環境ではなかった。


 結果的に、魔道具は魔術師たちから『考える頭』を奪ってしまったのだ。



「それが魔術か。風船でも飛ばしているかと思ったよ」


「――ッ! キミのっ! そういうところがっ!」



 怒り狂ったバースは全く同じ魔術構文(ソース)で作られた魔術を連打する。


 仕方がない。

 ここまで検証作業に付き合ってもらった礼である。


 俺が混じり気なしの本物の魔術というものを見せてやるとしよう。



「風列刃(ウィンドエッジ)」



 選んだ魔術はバースの使用していたものと同じ、風列刃(ウィンドエッジ)である。


 一閃。

 俺が構築した《風列刃(ウィンドエッジ)》は、バースの魔術を貫通して飛んでいく。



「ふべらっ」



 瓦礫が崩れ、バースは大の字になって転がった。


 もちろん手心は加えておいた。

 実力の差を知らせるために派手なエフェクトをかけてはおいたが、威力に関しては相当に落としたはずだ.


 魔道具に頼った戦い方では、こういった臨機応援な対応は不可能だろう。

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