5. 自由
人は常に救いを求めてる。
それは趣味だったり神だったり、愛だったり規律だったりする。人か物かなんて関係ない、自分を救ってくれるのならなんにでも縋るのが人間だ。
今もそうだ。
死ぬしかなかった人間は得体の知れない未知に救いを求める。そしてその結果、俺と母親は異界の地であるこの場所へと辿り着いた。
今の俺は全部分かる。
この世界のことも、俺にどんな力が与えられたのかも。失踪者が続出してるというニュースを見た時から疑問に思っていた、まさかこんな所で繋がるとは。
「悠...。コレって...」
「夢じゃないよ。紛れもない現実だ」
この世界にはややこしい法律や歪な人間関係なんて存在しない。1から人生を再び始められることに、母は心底感激してるようだった。
「母さんの得た力は?」
「多分だけど、『慈愛』だと思う」
「悠は?」
俺は...。
次を言おうとした時、森の奥から何者かがこちらに近づいてくるのを感じ取る。
「やぁやぁ、ようこそコッチの世界へ」
「別に説明はいらないよね? じゃあ早速だけど持ってる力を確認させてもらうよ」
黒い髪の男。
何処にでも居そうで、唯一無二の美貌を持ってる感じ。有名人を生で見た時のような、他の人とは違うオーラを目の前の男からも感じる。
男は俺を見ると少し反応を示し、そして再び飄々とした態度で話し始めた。
「君...面白そうな力持ってるね。『阻害』か何かかな? 君に関する全てが読めない」
「いや...コレは『阻害』じゃないのか...?」
「もしよかったらさ、君の持ってる力について教えてよ」
当然教えるはずもない。
俺たちが現れるのを当然かのように予期して近づいてきた、そんなの怪しすぎるだろ。
沈黙を貫き、母さんに逃げるよう目で訴えかける。言葉なんか交わさなくても逃げてくれるだろ、明らかにこの状況はおかしい。
俺の意図を感じ取ったのか、母さんは逃げる姿勢をとる。誤算だったのは、母は俺と共にこの場所から逃げようとしていたこと。我が子を危機から救おうとする彼女の優しさが、逆に俺の心に混乱をもたらしていた。
「あー、もしかして君のお母さんの存在が邪魔だったりする?」
「じゃあ...」
そう言って男は軽く指を鳴らす。
次の瞬間、俺の母親は面影すら残らないただの肉塊へと『粉砕』されていた。
「彼女の持つ『慈愛』は流石に要らないからね、こうしといて良かったでしょ?」
「彼女を殺してあげた代償にさ、教えてよ」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
何言ってんだ? こいつは。
「あはははHAHAHAはははははははははははははは!!!!」
頭が混乱する。
目の前にあるものが何なのか理解できない。
「ハハハハハハハハハハハハハ!!」
「あれ? なんで君死んでないんだろ...。まあいっか」
そう言って立ち去ろうとする男。
そうだ、なんで今まで気づかなかったんだろう。法律や規則に縛られない世界とは、強さこそ正義の世界であるということ。
「ハハハハハハハ!! アハハハハ!!」
男の言う通り、俺には背負うものが無くなった。もしも母さんが生きていたら、これから俺がすることを全力で止めてたと思う。もう一度強く深く、母さんにサヨナラを済ませた。
俺は自由だ。
だから...出来るよね?
「
銃を打つ仕草と共に、屈託の無い笑顔でそう言い放つ。手の指先から出た火花が目の前の男へと着弾する。すると、耳を
「...おかしい」
!?
「なんで君が『爆発』の力を持ってるんだい?」
半身が吹き飛んだのを確認した次の瞬間、男の身体は何も無かったように元に戻っていた。
「感情も読めない、思考も読めない、『契約』も受け付けない...」
「そうか!! そういうことか!!」
「神はなんて事をしてくれたんだ! 力を二つ持つ転移者なんて! 壊れてる!」
楽しそうに笑う男へと静かに近づいていく。
どうやらコイツは消せるらしい。コイツもそれに気づいたのか、俺に背を向け歩き始めていた。
「俺を殺したいんだったら『エデル』に向かうといい。そこに着けば自ずとやる事が分かるはずだよ」
「それじゃあ...。ね...?」
歩きながら男はこちらに戻ってくる。自分の意思とは関係なく、逃げることすら許されなかったように戻ってくる。
「逃げんじゃねぇよ」
「こりゃあ手を焼きそうだ...」
そう言う男へと触れる。
すると、男の身体は溶けるように消えていった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
誰もいなくなった森の中、俺はこれからのことを考えて高揚が抑えきれなくなる。この世界が力による強さで成り立っているなら、間違いなく俺がその頂点に立っているから。
俺には二つ力がある。
一つは『爆発』の力。
触れた物を爆弾に変えられる、火花とともに遠距離も吹き飛ばせる力。
二つ目は、
『無効』の力。
全ての力は俺に届かない。
もちろん、攻撃や逃げといった行動も、力と同じく『無効』に出来る力。
「エデルとか言ったか」
「適当なやつ殺しながら行くか。ストレス発散、皆殺しだ」
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