警視庁特殊部隊員 新見秋水②
――クソっ! あの龍火の玉吐いてきやがる!
――こちら3班、狙撃ポイントが破壊された。別の場所に移る。
――あの巨大な手、弾が通らない!
とある建物の中、爆発音や悲鳴が聞こえるこの場所で、俺はある一点を見つめる。無線から聞こえてくる音も耳に入らないくらい、ソレが気になって仕方ない。
壁の壊れた箇所から手が見えた瞬間、俺は反射的に建物へと避難していた。本能的に分かる、アレは龍なんかよりよっぽどヤバい。
今はナニカが誕生するのを待ってるんだ。羽化、開花、それらと同じように。
そうして手は花開く。
なんだあれは...。
金剛力士のような出で立ちをした化け物、それも二体。
二体に顔は無い、あるのは口だけだ。
顔の側面にはどちらか片方の手がついている。二体が横に並んだ時、ちょうど手のひらが合わさるような感じ。これほど悪意のこもった造形美はあるだろうか、醜悪だと感じるのに目が離せない。
そしてその二体は、思いっきりビルの外壁を踏み込み...飛んだ。
はやっ。
ビルの真下にいる騎士には目もくれず、二体は急速に隊員へと距離を詰める。そして、そのうちの一体が足を思い切り踏み込み、隊員を空中へと打ち上げた。
人間の身体では耐えられないレベルの衝撃を受け、空高く打ち上がった隊員は口から臓物を吐き出す。しかしそんなことなどお構いなく、化け物は地に足をつけると...再び飛んだ。
何度も、何度も何度も何度も、原型など無くなるくらいに殴り続ける。そして一定の高度に達した時、化け物はソレを掴み地面に思い切り叩きつけた。
嫌な音がする。
肉塊と成り果てた隊員を目の当たりにし、皆が正気ではいられなくなっていた。その場は錯乱状態となり、悲鳴や銃声で溢れかえる。
「撃つな! 絶対に!」
「仲間たちの犠牲が無駄になる...」
俺は隣で銃を構えていた仲間にそう伝える。他の奴らももう分かってるはずだ、あの化け物はこんな銃なんかで倒せるような存在じゃないと。
俺たちはアイツらから見たら玩具だ。
あの化け物共は武器や異能の類を一切使ってない。純粋な武力だけで、この惨状を作り出している。
――こちら
「ありがとう、助かるよ」
――急ごしらえの爆弾だから起爆装置は無い。撃って爆発させてくれ。
幸い、アイツらはまだ俺たちに気づいていないようだ。その前に片付けなきゃいけない存在がいる。
「1・3、2・4班はそれぞれ合流し、狙撃ポイント間を絶え間なく移動しろ。あの龍に的を絞らせるな」
「材質はコンクリートだが生きている。爆発物が届いたら目を潰すぞ、視界を無くす」
――『了解』
まずはあの龍を片付ける。
そしてあわよくば、あの化け物も殺る。
「気張れよ、行くぞ」
ビルの屋上まで来ると、既に到着していた3班が静かに下で起こる惨状を見届けていた。
「隊長、
狙撃位置には一際大きい狙撃銃が既に置かれている。ビルへと避難する際、予め3班に持たせておいた貴重な銃だ。
「これを使うことになるとはな...」
口径は12.7mmで装弾数は5発+1、使用する弾は全て徹甲弾、これでぶち抜けないなら素直に死ぬしかない。戦車の装甲すら貫ける代物、俺たちの切り札だ。
あの化け物たちは驚異的な身体能力で弾を避け、殲滅を繰り返している。その中には勿論野次馬気取りの民間人も含まれているが...まあ自業自得だろう。
化け物たちは射殺されそうになっていた男の仲間を守りながら戦っている。それなのにこちらの数は減る一方だ、じきに地上に展開してる部隊は全滅するだろう。
思うに、ヤツらはそれほど防御力が高くない。
ヤツらへ直撃した弾は弾かれるのではなく肉にくい込まなかった。つまりは規格外の弾を浴びせれば殺せる可能性があるってことだ、俄然やる気が湧いてくる。
――こちら5班および6班、目標を視認した。合図があるまで上空で待機する。
遠くの方からヘリの音が聞こえてくる。
一時は絶望すら感じたが、今は仲間たちのおかげで希望が見えてきた。
「2・4班、一人を残し全員撤退しろ」
――『...』
少しばかりの静寂の後、名乗りをあげる者が現れる。
――自分がやります。
「...有坂か...。強制じゃないんだぞ? いいのか?」
――自分がやらなきゃ誰がやるんですか。国のために死ねるなら本望ですよ。
俺たちがいるビルの向かい側、猛威を振るう龍が誕生したビルの屋上に有坂はいる。
「いいモン吸ってるな。
――ビル内にあったんで拾っちゃいましたよ。こうなる事が分かってたんで、仲間の制止を振り切って...ね。
そういう彼は一服する。
美味そうに吸いやがる、あいつ。
「どうだ? 美味いか?」
――ええ、悔いが残らないくらい...美味かったです。
...。
「そうか」
「有難うな」
今まで散々仲間を殺してくれてありがとう。
おかげで、やっとお前を殺せる。
「さ、行くぞ」
「反撃開始だ」
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