世界は君を愛しキミを憎む
君
1. 転換
あの日、あの時...私は歴史が変わる瞬間を見た。
魔王を打ち破った勇者様、その功績を称え彼は祖国に凱旋することになった。いつにも増して数が多い出店や華やかな装飾品が目に映る。初めて見る光景にだいぶ驚いた。
私は、そんなおとぎ話のような存在を一目見たかった。小さな女の子が王子様に恋い焦がれるように、私は勇者様に想いを寄せていたのかもしれない。
そうして私の夢は叶った。
凱旋に間に合わせるために急ごしらえで作った演説台の上で、彼は照れを隠しながらも民衆に感謝の意を伝える。
急造の設備に文句を言うことも無く、自分のしてきた栄光の数々を過剰に誇ることも無い。「自分はあちらの世界ではただの一般人」だと謙遜している様を見て、さらに民衆の心を掴む。彼は誰がなんと言おうと勇者そのものだった。
そして殺された。
突如として現れた男に...いや、初めからそこに居たようにも見えた。為す術なく殺され、積み上げた栄光は一瞬で瓦解する。
周りにいた仲間や関係者は、目を血走らせて男を殺そうとする。強大な力を持つ人は勿論、世界でも唯一無二の連携を誇る勇者様の仲間たちが立ち向かう。けど男が死ぬことは無かった。
...同じ力を使って相殺してる?
そうして仲間を含む関係者は全て殺され、男の名は世界中に響き渡ることとなった。
あの時私は何を思ったんだろう。
ただ分かるのは、あの瞬間、世界は確実に変わったということ。
それがいい方向になのかは...分からないけど。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
朝起きて伸びをする。
茶色の長い髪はボサボサで寝癖が酷い。ふと身体を見ると、衣服が乱れて肌着まで見えている。とてもじゃないけど人前には出れないな、そう思い私は身だしなみを整えた。
「お疲れ様です。よくお眠りになられましたか?」
王国の統治局、そこの局員が私に話しかける。王宮で寝泊まりできるなんて...少し前までは考えられなかった。
「うん、良く眠れた。ありがと」
軽い挨拶を済ませて廊下を歩く。
髪を束ねながら歩いていると、どこかから局員の世間話が耳に入ってきた。私はこういった話を聞くのが大好きなので、色々な工夫を凝らして盗み聞きすることにした。
「 / とエドガーが例の魔女を撃退したらしいな。だから最近昇進してたのか...」
「『契約』の力は噂通りかなりのモノらしい...。絶対遭遇したくねぇ...」
「王宮から出なければ大丈夫だろ」
王宮は『契約』の魔女の話で持ち切りか...。
よくエドガーは生き延びたなと思う。まぁ、あくまでも魔女を撃退しただけだ、また遭遇する可能性は十分にある。
あいつ女運が異常にないくせにモテるからな〜、また遭遇するかも。というかその前にリュカに難癖つけられて殺されそう...。
「...」
「エドガーよ、強く生きろ」
王宮を出て街の中を歩く。
商業の都というだけあって活気に溢れてる、この光景が私は好きだ。
歩いている途中、大通りから裏路地が見える。そこには、この国で職をなくした人や捨て子が何をするでもなく座っていた。
これが私の嫌いな光景。
この国で唯一許せない部分。
その中に一人、萎れた花を地面に並べている少女がいるのを見つける。銀色の髪色をした華奢な女の子...華奢というより痩せ細っていた。ちゃんと手入れすれば輝くだろう銀色の髪も、薄汚れていては意味が無い。
「ねぇ、これいくら?」
私はその子に近づき、並べられた花を指さす。少女は私を睨みながらも、消え入りそうな声を出した。
「...200、200ちょうだい...」
200か、ぼったくりもいいとこだ。
普通の露店でその額を出せば、昼食ぐらいは余裕で買える。それを萎れた花に使う...か。
「いいよ、一個ちょうだい」
「このお金は節約して使いなよ? 私は慈善家じゃないから何度も助けない」
私はあの子が物を売ろうとしてたから買っただけ。初めから何もしようとしない人に、私は手を差し伸べない。
そうして国の関所へと辿り着いた私は、通行証を関所へと提出する。
「なになに...っと、レイ様でしたか。どうぞ、お通り下さい」
そうして門をくぐり抜けた先には、私の仲間たちがいた。
「珍しく遅かったね、どうした?」
「珍しく良いことしてたのよ。で、今日の目標は?」
久しぶりに異能狩りの活動だ、『異界』を取りに行く。
「さ、行こうか」
何の因果か、私は今この男と共に行動している。
世界中を恐怖に陥れた男、メアリー・スー、異能狩り、この男を表す言葉は多々ある。
あぁ、本当に
何の因果だろう。
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