21. 天上
「何が起こってる...?」
各地に降る星の欠片もそうだが、一番分からないのは先程から攻撃が当たらない事だ。目では捉えられているのに、手応えを一切感じない。空を切っているような感覚に陥る。
「今見てるのは幻だ! 本体は別の場所にいる!」
イリスは大声でそう言う。
その直後、突然イリスの目の前に甲冑を着た人間が創り出され、手に持つ剣を振りかぶっていた。
「ファウスト」
魔物が五体現れ、それぞれが敵を串刺しにする。その光景を見たイリスは間髪入れずに話し出した。
「神は新しい物理法則を生み出して虚像を作ってる! 理屈は分からないけど...とにかく『移動』は使えない!」
攻撃を避けながら僕は考える。
どうやってこの状況を打開するかと。
『移動』も使えない、攻撃も当たらない、ならどうするか。
...いっそ僕以外の全てを悪魔に食べてもらうか?
そう考えていた時、どこからか声が聞こえる。
「お前たちがなぜ死ぬべきなのか分かるか?」
それは、お前たちが持つ『契約』の力が破滅をもたらすモノだからだ。
「現人神と直接契約を交わせるお前たちは世界の脅威だ。『契約』の力さえあれば世界中の人間を殺す事など容易い、だから畏れられる」
「アレは原初から生まれる恐怖そのもの、この世界に関わらせるなどあってはならない。世界中がお前たちを殺そうとしてる理由はそれだ」
...なんだ? 身体に違和感を感じる。
「そういえば...お前たちは『毒』の娘に随分入れ込んでたようだな」
「喜べ、お前らは神の毒で殺してやる」
僕は酷く咳き込む。
そして口を抑えていた手を見ると、そこには少量の血が付いていた。
どんどんと意識が遠ざかっていく。身体中の感覚が次第に無くなり、目が血走っていった。
また僕は死ぬのか? 何も出来ずに?
打開策なんて思いつかない。
考える頭も...もう働かなくなってしまった。
「あぁ...またか...」
そうして僕は目を閉じる。
最後に何を思っていたのかは、自分にも分からなかった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
何もない世界、そこにはシャルロットがいた。
「腑抜けた顔ね」
なんで? もう死んだはずじゃ...?
「そんなのどうだっていいわ。今重要なのは、貴方は私の姿を見てて、そして対話してるってことだけ」
...笑いにでも来た?
「確かに今のあなたを見てると笑えちゃう。でもね、それ以上に貴方には負けて欲しくないの」
「貴方が死んだら誰がベンを守ってあげられるの? それに、もし生き残ったとしても世界が壊れてるんじゃ意味がない。だから勝つ必要があるの」
でももう僕は死んで...
「馬鹿ね、あの程度の毒で死ぬと思う? まぁ、あの神父さんは死んだと思ってるみたいだけど...」
「いい? 目を覚ましてからが本番よ。貴方は何も考えず、ただあの神父さんを攻撃すればいい」
でも攻撃が...
「私が何の根拠もなくこんなコト言うと思う?」
「一回だけ、全部無くしてあげる。毒も虚像も全部使えなくする。まぁ、それをするのは彼なんだけどね」
「そんな顔をするのはもうお終い。貴方の弱いところは、私と貴方だけの秘密ってことにしといてあげる」
どうして僕を助けてくれたの?
「別に打算なしに助けたわけじゃないわよ? でも、強いて理由をあげるんだったら...」
「世界を救おうとしてる人がカッコ悪かったら...なんか嫌じゃない?」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ねえ! お願いだから...目を覚ましてよ!」
目を覚まして辺りを見渡す。
気を失ってからあまり時間が経っていないらしい。少し離れたところで涙ぐんでいるリズを見た後、僕は目の前で驚愕している神を見据える。
「なぜ生きてる...?」
その問いに答えることなく、僕は前を向いたままリズを呼ぶ。
「リズ、頼んだよ」
そうして僕は走り出す。
目の前の神へと再度攻撃をするために、走り出す。
「弾け」
飛ばした刃物は壁によっては防がれる。だけどその行動で理解した、アレは間違いなく虚像ではないと。
目の前には様々なものが創り出される。
用途や形がバラバラな武具、武装している人や何も持たない平民、かつて存在していた魔物や伝説で語られる空想上の生き物まで、創り出せるものが全て目の前に現れた。
「ファウスト、逝け」
その光景を見てもなお僕は走り続ける。
魔物たちが戦っているのを横目に、僕は神へとひたすらに距離を詰める。そうして手の届く距離まで辿り着くと、僕はそのままの勢いで神を手に持つ刃物で突き刺そうとした。
が、地面から生えてきた蔦が足に絡まり身動きが取れない。でも、まだ『移動』の力がある。これを使って刃物を送れば...。
刃物を移動させる瞬間、何処からか飛んできた矢が僕の手を突き刺す。その痛みのせいで一瞬意識が乱れ、体内へ移動させるはずだった刃物は僕らの足元に広がる地面へと突き刺さっていた。
「二度はない、死ね」
神は自らの手に剣を創り出し、それを振りかぶった。
その瞬間、僕は勝利を確信する。そして笑みを溢しつつも、もう片方の手で口元を隠しながら小さく呟く。
「...悪魔、僕の
異変に気付いた神が鬼気迫る表情で剣を振り切ろうとする。しかしもう遅い。『視線』によってそれ以上体が動くことはなかった。
盲腸を捧げます、だからベンを呼んで」
身体から何かが抜け落ちた感覚がした後、僕は眠りにつくように気を失う。
神は力ずくで『視線』の力を解き、持っていた剣を振り切る。目を閉じるまでの僅かな時間、倒れゆく僕の目の前には剣先があった。
「任せた...」
そして僕が最後に見たのは、神の後ろで拳を振りかぶっているベンの姿だった。
「了解」
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