20. 流星

夜空を流星が駆ける。



その下で行われているのは、神話に出てくるような戦いだった。


様々な種類の武器や物が創り出され、そして瞬く間に消えていく。そんな贅沢を極めた戦い方はまさしく神に相応しい、『創造』の転移者らしい戦い方だと思った。


「弾け」


攻防の合間、僅かに出来た隙を突く。

これ以上ない速度、完璧な軌道で目標の元へと刃物が飛んでいった。普通であれば命中する状況だが...。


瞬間、戦闘によって生じた瓦礫などが視界を塞ぎ、刃物が命中したか見えなくなる。そして視界が晴れた時、僕は目の前の光景を疑ってしまった。



結果として、僕が放った刃物は命中していなかった。神が即座に人間を創り出し、向かってくる刃物の威力を全て削いだからだ。


「おい...冗談だろ?」


おい、おいおいおい。

それだけはやっちゃダメだ。仮にも神を名乗る男だろ? まで捨てるのか?


神が創り出し、そして僕の刃物を受け止めた人間。



その名前はヴェイル。

悲しい最期を遂げた、心優しく勇敢な少年だった。


「その顔、酷く動揺してるな」


「どうだ? コイツを自分の手で殺した気分は、最悪だろ」



それで、


「あと何回でお前は? あと何回繰り返せばお前は壊れる? 教えてくれよ」




その言葉を聞いた時、僕は初めて純粋に殺意を抱いた。


メアリー・スーにすら抱いたことの無いこの感情に、僕は少し戸惑ってしまう。初めてだ、こんなに目の前のヤツを殺したくなったのは。



そんな時、ベンは僕の肩に手を置く。


「アイツは俺が殺すよ」


驚いた、ベンの表情は冷静そのものだったから。あの二人が死んだ時の反応を見て、ベンと彼らの関係性はなんとなく分かっていた。


だから余計に今の表情が理解できない。

ただ、声にだけは怒りがこもっていた。今まで聞いた事のない、純粋な殺意を含んだ声。



「任せた」


その声を聞いた時、吹っ切れたように迷いが無くなる。清々しいくらいの気持ちで、僕はそう言った。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



投石や爆発を避けつつ、僕は攻撃の隙を窺う。


地形を変えるほどの攻撃を避けていると、いつの間にか上から鉄格子が降ってきていた。檻に閉じ込められ、一時的に身動きが取れなくなる。


「ファウスト! 壊せ!」


巨大な腕が鉄の檻を殴るも、壊れるには至らない。仕方なく僕は『移動』の力を使い檻の外に出る。そして僕は死を悟った。



目の前には、いくつもの弩が僕へと照準を合わせている。



『移動』も使えない、半端な避け方をしたら間違いなく致命傷になる状況。一瞬の間で思考した全ての状況で僕は死んでいる、詰みだった。


「前に思いっきり転がり込め!」


ベンが言い終わると同時に弩から大量の矢が放たれる。僕は何も考えず、迫りくる矢へと自分から進み転がり込んだ。


「うそ...全部避けきった...?」


そのままの勢いで前へと走り、以前として余裕を身に纏う神へと距離を詰める。


「ファウスト、一体顕現」


魔物が一体僕の隣へと現れ、神へと刃を突き立てる。局所的に創られた盾によってそれは防がれるものの、僕は構うことなく刃を生み出し振りかぶった。


横で顕現した魔物が剣に突き刺される。

そして僕の攻撃を見切るかのように、振り下ろす先には盾が創り出されている。



そうして僕は腕を振り下ろした。




「...っクソが!」


神は赤く染まった脇腹を抑えて喚き散らす。純白の礼服を彩るように赤が侵食し、罵声を浴びせる様はどす黒く醜かった。


「...外した...!」


心臓を狙ったはずなのに位置がズレた。『加護』の力か別の力か...とにかくこの機を逃すと次はない、僕はすかさず攻撃を繰り出す。


が、手ごたえがない。

僕の目は神を映している。、なぜか届かない。


「...っぐ!」


無防備な腹部に蹴りを入れられ、僕は後ろに仰け反る。


理解不能な現象を目の当たりにして混乱する頭。それを助長させるように、今見ている景色が目まぐるしく変化していた。



星が...分裂してる...?


この場所へと迫っていた大きな星、今はソレが分裂していた。広範囲にが降り注ぎ、夜空を明るく照らしている。




夜空を、流星が駆ける。

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