神様、早く楽にさせて下さい
俺の生まれた村ではこう言われていた。
神様はこの村全ての人間を生み出し、建物を生み出し、規律を生み出した存在であると。そして来る裁定の日、その範囲は村人だけにとどまらず、この世界全ての人間を裁くのだと。
当時からその話に懐疑的だった俺は、神の存在なんて信じていなかった。どうせ神父様が村を治める為に創った存在だろうと、そう思った。
だけど、それは違った。
神はいたんだ、ほんとに。
人間が出来る範疇を超越した神の御業を目の当たりにし、俺はその存在を疑わなくなった。神の前では、アイツでさえも太刀打ちできない。
そんな全能の神様にお願いです。
早く、俺の存在を消してください。
十分に罪を重ねてきました、裁かれる程のことをしてきました。
もう...楽になりたいです。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
目を開けると、***とイリスが俺の事を不思議そうに見つめていた。
生きている姿のアイツを見ると自然と涙が出てくる。また同じ過ちを繰り返してしまうんじゃないか、また殺されてしまうんじゃないかと感じてしまう。
「あ、あぁ...あ...」
あれ? 何も話すことが出来ない。
「...イリス、今ベンはどんな状態?」
「これはパニック障害に近い...一時的に呼吸などが乱れてるだけだと思う」
「情報が多すぎて頭が混乱してるのか、精神が相当揺れ動いてるのか...。少なくとも、今彼が見てるのは何人目の私たちなのかは大体予想がつくね」
俺の状態が元に戻ったとして、これからどうすればいいんだ?
俺は、本当に必要な人間なのか?
「これから私たちがどうなるのかを知りたいところではあるけど...これじゃあねぇ」
「そうだね、ベンは暫く寝かせといた方が良いのかもしれない」
「彼の変わり様を見ると、明日この村に留まったとしても僕達が死ぬ可能性は高い。明日は予定通りバルティアへ向かう、ベンには...ここに残ってもらおう」
それでいい、俺はこれ以上お前たちが死ぬのを見たくない。
翌朝。
アイツは俺の部屋へと入り、天井を眺めていた俺を背負い始めた。
「おいおい、何してるの? 昨日ベンは連れてかないって言ってなかったっけ?」
そうだ、何をしている。
今の俺は一歩たりとも進もうとしない完全な足でまといだ。置いていかれるためにそうしてるのに...何で連れていこうとする?
「僕もさっきまではそう考えてたよ、このままだとベンがあまりにも可哀想だと思ってね」
「でも今は違う、ベンは連れていくよ。酷いかもしれないけど、彼にはここで立ち直ってもらわないと困る」
バルティアへと着き、いつものように国の人々から命を狙われる。もちろん俺はこれから何が起こるかを話してない、ただ見てるだけ。
アイツはそんな俺を背負いながら塔を目指し、立ちはだかる人々をいなしていった。戦いづらいだろうに...何故そこまで俺に拘るんだ。
ほっといてくれ、じゃないとまたお前たちを殺してしまう。
塔の階段を登り異常に気づいた頃、***はこれ以上登るのをやめ、何度も続くこの階層に留まることにした。
「イリス、そろそろ言ってもいいんじゃないかい?」
「なんのこと?」
「とぼけないで、ベンについてだよ」
イリスは観念したように口を開く。
今までの試行で一度も話されることのなかった、俺自身も知らない俺の全て。
「...彼はね、神に創られた人間なんだ」
「彼だけじゃない、あの村の住民やこの国の市民も全て神から生まれてる。彼らにはちゃんと親がいるけど、それはホンモノの親じゃない。親がいると認識した上で産み落とされてる」
「...」
?
イリスは何を言ってるんだ?
俺が創られた人間だって? 訳が分からない。
「認識を創造することだってできるんだ、正直彼が何をしてくるか分からない。私たちを襲ってきたのも、神からの命令を受けとったからだろうね」
その説明を聞くと、***は俺の肩を強く揺さぶった。
「ベン! 聞こえてるんだろ?」
「何度でも言うよ、僕と君は似てる。だから痛いほど君の気持ちが分かるし、僕自身もそうなる未来があったかもしれない」
だけど、
「もし僕が君と同じ状況になったとしても、絶対に諦めない。なぜなら、負ければ負けるほど憎しみが強くなるから」
一番端で話を聞いていたリズが突然倒れる。建物の構造を組み替えられ、上の階から『毒』が漏れ出しているようだ。
「僕は...君に晴れた気持ちで死んで欲しいと思ってる」
「だから諦めないで。この先にある脅威を打ち破って」
イリスが血を吐き倒れる。
「僕はね...生まれた町にいる人を全て殺したんだ。総勢4613人、この数字は忘れちゃいけないものだと思ってる」
「僕が死ぬのは気にしなくていい。4613回死んだって、町の人たちにした事よりは軽いから」
***は血を吐きながらも、死ぬ間際まで話すことを止めない。
「ねぇ...最後にさ、一個だけ教えてよ...」
「僕は...何回死んだ...?」
俺は微笑みながら言った。
「これを含めて、あと4000回だ」
笑ったアイツの顔を見て、俺は目を閉じる。
逃げてはダメだと教わった。ナニカを託された。
そのおかげで立ち直ることが出来た、諦めずに済んだ。
そしてようやく分かった。
この状況を打開する方法が。
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