6. 梏桎

僕は手元に短刀を生成し、それを宙に放り投げる。


「弾け」


途端、巨大な人間の手のようなものが現れ、手先を使って宙に浮いている短刀を弾いた。回転していたそれはありえない程の力を加えられ、一点を目掛けて勢いよく飛んでいく。


短刀は頭に深々と突き刺さり、そしてめり込む。




しかしそれはロイの頭ではなく、見知らぬ誰かの頭だった。


不思議そうに僕たちを見つめる野次馬の中から、なんの脈絡もなく唐突にその身を投げ出してきた。死んだ男の恋人だったであろう女は、突然のことに状況を理解出来ていない。



悲鳴が上がると共に、広場には混乱が訪れる。


逃げ惑う人々、僕らを殺しに向かってくる人々。その顔は動揺が隠しきれないような、ように見える。


一歩たりとも動かないロイを後目に、僕たちは迫る群衆から逃げることにした。





そうして近くにある民家へと強引に押し入る。


「この辺りは入り組んだ路地があまりありません。あの大群を撒くのは不可能でしょう」


窓を割り、大通りへと向かって進み続ける。ふと後ろを見ると、とてつもない人数があらゆる場所を伝って僕たちを追いかけていることが分かった。


「これからどうしますか?」


住宅地を抜け、大通りへと出る。


「...あそこにいた野次馬、その全員が僕らを追ってきた訳じゃない...。間違いなく全員に追わせた方が良いのに、そうしなかった」


通り行く人々を避け、少しでも早く前に進む。後ろからは通行人を撥ね除けてこちらへと迫る姿が無数に見えた。


「おそらく人を操る力、それも操れる数に限りがある。だったら...」


暗く狭い路地から、先回りしていた人たちが僕らに向けて刃物を振りかぶってくる。

応戦しようと構えるも、どの胴体も既に二つに別れており、全員が刃物を振りかぶったまま絶命していた。


「なにか策が?」


併走するホロの手には、いつ抜かれたのか分からない剣が握られている。

その刀身は細く綺麗で、血で濡れるとさらに美しさが増すような気がした。


「一個だけ思いついた」



大通りに並ぶ店、その一つに入る。

間髪入れずに群衆たちもその店に押し入ったものの、そこに僕たちの姿はなかった。





先程ロイと遭遇した広場、その近くにある路地裏に僕達はいた。


『移動』の力を使って追っ手から逃れたのはいいものの、一か八かの状況だったのには変わりない。



初めて使うこの力は...正直言って使い勝手が悪い。


行ける場所は自分が見た場所のみ、人や物を移動できる距離にも限りがある。そして一度力を使うと、次に力を使うまでの間に僅かな時間が生じてしまう。ハッキリ言って使いどころがないように感じる。


でも、イリスの元へと向かうにはこの力が絶対に必要だ。



それに...


「キミの力って........だろ?」


「その通りです」


ホロは迷うことなく即答する。


「僕が..........................してくれ」




そこまで言うと、ホロは仮面越しでも分かるくらいの笑みをこぼす。



「ふふ、貴方...イカれてますね」



そうして僕たちは前を見据える。

既視感を感じるけど、確実に事態は進展してるはずだ。





次は仕留める、確実に。

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