7. 過怠
ライザが今まで消されなかったのはなんでだと思う?
「それは、良くも悪くもヤツが生粋の商人だからだ」
「そこに利益が生じれば国だろうが一市民だろうが構わず商品を売り渡す。この国は幾度となく甘い汁を啜ってきたが...その度に問題も起こった」
今もだ。
「お前は本当ならもう死んでるはずだ。それが何故だか...どうしようもない奇跡に救われて今俺の目の前にいる」
ロイは終始表情を変えずに話すものの、その目は忌々しげにこちらを見ている気がした。
お前の存在に心底腹が立つ。
「エドガーも本来ならお前に負けるような男じゃなかった。それに、いつもの俺なら最初の一撃でお前を殺していた」
「何かがおかしいんだ。理解できない何かに阻まれてるみたいだよ、まるで...」
言葉を続ける前に、僕はもう一度ロイに向けて刃を飛ばす。当然のように周りにいた人が身を投げ打って、そして死ぬ。先程も見た光景だった。
「いつまでもそうやって喋ってるつもりかい?」
「いや...そうだな。俺も早くお前を殺したいよ」
僕らを逃した人たち、人形の群れが広場へと集まる。その数は莫大、数えるのも億劫になるほどの人数。
「ファウスト、顕現」
六体の異形が僕らの周りに現れる。
六体全てが違う武器を持ち、違う形であり、違う大きさをしている。
「お前は無慈悲に、醜く殺してやるよ。だから早く死ね」
僕はホロに目配せをし、押し寄せる大群に目をやる。
「後は任せたよ?」
「御意」
今までに起きたことは、言ってみれば些細なことだった。人が何人か死んだだけ、国が動くほどのことでもない。
でも、今起こっていることはそんな細事とは比べ物にならないものだと思う。
阿鼻叫喚、それしか言い様がなかった。
自分の意思に反して、体は僕たちを殺そうと動いている。現状が理解出来ず動揺し、傷つけばなぜ自分たちが傷を負うのかと不条理に泣き叫ぶ。
そうして一つ、また一つと死体が積み重なっていく。
僕は、ただひたすらに殺した。
異形を使って押し潰し、切り殺し、射殺し、殴り殺し...僕自身もたくさんの人を殺した。
前に進もうとしても物量で押し返される、無尽蔵に湧いて出るみたいに。そしてそれらを殺す度に傷が増え、息も荒くなってくる。ホロを見ると、僕と同じく傷ついているようだった。
でも...あと少しだ...。
もう少しでロイの喉元へと辿り着ける。そうして刃を振りかぶった時、何かがおかしいことに気づいた。
息ができない。
周りにある空気が極めて薄くなったように、満足に呼吸すら出来なくなっていた。
たまらず『移動』を使い距離をとる。
なんだアレは。というより、どこまで適用できる?
「いま、油断したな?」
「誰が人だけを操る力だと言った? 操る範囲に限りがあると言ったか? 操れる数に限りがあると言ったか? そもそもこれは力だと言ったか?」
「甘いんだよ。甘い甘いあまいアマイamai甘い
あー、あまっ。
思ってたよりもだいぶイカれた奴みたいだ。
隣を見るといつ抜け出したのだろうか、ホロが傷だらけの状態で立っている。
「まだ戦える?」
「はい、何ら支障はありません」
そうして再び始まる、前よりも熾烈さを増して。
人が、空気が、地面が、様々なものが操作されていく。地形は瞬く間に変わり、気を抜けば一瞬で死んでしまうだろう。
操られた人形たちは地形が変わろうとも関係なく、流れるようにこちらへと向かってくる。圧倒的不利、しかしこの状況を打開する術が見当たらなかった。
苦し紛れに短刀を弾き飛ばす。
「無駄だ、それはさっき見た」
人の盾が、地面の盾が作り出される。そうして短刀は盾に阻まれる...はずだった。
ロイの体が不自然に揺れ、前のめりに倒れる。その背中には...あるはずのない短刀が突き刺さっていた。
「...クソが」
さっきと同じことを言おうか
「いま、油断したよね?」
そうして辺りを見渡す。
血の海、死体、瓦礫、綺麗な街並みを新しく塗り替えるように、不快が辺りを彩っている。
殺しすぎた?
まあいいか、もうすぐ全て終わる。
「ホロ、もう十分だ。終わらせよう」
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