緑の桜、木漏れ日は月明かり
倉井さとり
1
ある春の
2人分の足音が
春は
「すごいですね」
スーツ姿の女が言った。
「何が?」
「桜ですよ」
女は、
「
男が言う。
「桜の木はいいですよね」
女は、
「ああ」
「
「大変だよ」
「大変? 何が大変だって言うんですか?」
女は、
「
「ああ。でもいいじゃないですか。木からはいつだって、実や葉っぱなんかが落ちてくるんですから。そんなのよりずっと
「ずっとこんな
男は、桜の散り終わった
「いいじゃないですか、この
「
「甘ったるくて、誰にでも優しそうで、
女は、身を寄せたまま男の顔を
「まるで、私たちみたい」
言って女は、男に抱きついた。そして、男の胸に顔を
「おい、こんな
男はそう言うと、辺りを
顔を
「いいじゃないですか、こんなに遠くに来てるんですから。知ってる人なんていませんよ」女は、熱い息を一つ吐くと、吐いた息よりずっと多く、男の
その言葉を受けてなお、男はやはり、周りの目が気になるようだった。
今日は火曜日だった。2人きりで会うのは、月曜日か火曜日と決まっていた。
2人は同じ職場の上司と部下の関係だった。職場での片岡は、女に
「いいじゃないですか」女のその言葉に、片岡は
こんなに
夜が
「……ごめんなさい」
女は言った。
「どうして
「分からない」
女は身を離すと、片岡の手を取り、指を
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