第六ルート「ヤンデレ乙女ゲーヒロインに転生してしまった……!?」

らい

幼少期編

第一話 記憶、思い出しました。

――――眠ってしまっていたようだ。


 地面が、椅子が、私の体がガタガタと揺れている。荒い揺れに私のぼやぁっとした意識が浮上する。「ふわぁ」なんて我ながら随分可愛いあくびが出たななんて思いながら口に手を添えた。


 ……なに、これ……


 なにこれ……!?


 瞬間、私の思考は混乱の渦の中に叩き落とされた。


 前の記憶の象牙色とは全くかけ離れた白色の、枯れ枝の様に細い小さな手、これまるで……子どもの手……!?


 手をグーパーグーパー動かすと、同じくその手も動く。感覚もある。……私、私の手だ……。


 混乱、混乱、混乱。


 服もありえないほどに貧相だ。

 いつもTシャツにジーンズと逃げの姿勢ばっかり取ってきた私。そのおしゃれのかけらもない服装でも、この服よりはずっと綺麗に見えるだろうなってことが分かった。


 くすんだ青のワンピース。ボロボロで糸がほつれててシミが目立つ。

 ひどい、かなりひどい、どうしてこんな服装を? てか新手のドッキリ? 最新のVRかなにか? それとも夢? でも感覚あるし……なにこれ、なにこれ……。


 私は混乱に頭を抑えて下を向く。すると、見たことのないふわっとした金髪が肩からこぼれ…………私の……?





――――違う、私は……これ、私だ……。




 ふと、かけめぐるように脳がこれまでの記憶を思い出した。

 目まぐるしく、これまで見てきたもの、感じてきたこと全てが頭の中を回って。


「……思い出した」


 鈴の鳴るようなコロコロとした可愛らしい声では呟いた。




 ……私は、アリス。名字はない。ただのアリスだ。


 コルネ村の神父様のところで生活していて、昔はお母さんと一緒に暮らしていたみたい。覚えてはいないけど。


 孤児院教会ではダニエルやレナといつも遊んでいて、特に私は森で遊ぶのが大好きだった。


 皆にはが出るから危ないって止められたけど、私が襲ってきたのお腹に1発入れて返り討ちにしたら皆そういう事言わなくなったっけ。


 ……そこから確かあだ名がつけられて、ラゥイダェ……前の世界では似たような姿のサイクロプスっていう幻獣……? が居たっけ……。じゃあ分かりやすいからサイクロプスでいいや。

 

 ……前の世界……?


 

――そうだ。私は有馬 アリマ 涼乃スズノ


 平和な日本で生まれ育った現役高校生でその時『血染めの白薔薇』っていうヤンデレしか出てこないはたからみたらトチ狂った乙女ゲーにハマってて……。


 友達に幻とも言われてたシークレットルートへの入り方教えてもらってウキウキ気分で家路について……それから?


 二つの全く違う記憶に混乱する……が、何となく状況を理解する。異世界転生物なんて何度も読んだし、自分がもしそうなったらどうするかなんて何度も妄想した。はこういう事の理解が早いのだ。


――――私、転生したのか。


 ストンっと状況が頭に入ってきた。


 ……そうだ、私は多分転生した。私がなんで死んだのかは覚えてないけど、転生したって、なんとなく分かる。


 ……そして、今世の記憶を振り返ってみて唖然とする。




 …………ここ、魔法の世界だ、と。


 


 まず、ここの世界についてまとめると、多分ここは科学の代わりに魔法で文明が発展してきた……んだと思う。

 少なくとも私のいた村、コルネ村では大人は皆、魔法で火種を出したり魔力を使う道具を使ったりして生活していた。


 

 ……いやなにそれ!! すごい興奮する!!


 魔法の世界て完全に俺得なんですけど!?


 ……魔法、それは子どもの頃誰もが憧れるものだろう。私だって例外じゃない。

 某中二に発症する病気の頃、私は実は魔法が使えるのだ、なんて妄想していた黒歴史がまさか現実になるとは……!


 ……ゲフン、興奮した頭を押さえ、もっと状況を整理する。


 ……で、そう私はコルネ村ってとこにいた。

 どこの国とかは分からないし教えられてない。

 

 ……その村だけ見て思ったことだが、文明レベルは多分そこまで高くないのだろう。

 電気もなければ白黒テレビ、冷蔵庫、洗濯機、かつての日本の新・三種の神器すらない。まぁ電気ないから当たり前だけども!


 でもそれらの代替え品すらなく、村の暮らしは農作物を育てたり狩りをして、それの一部を領主様に納め、残りを村で食べて暮らしているっていう……ふっる!! なにそれいつの時代の話!?


 今現在進行系の話である。


 ……と、まぁこの世界の文明レベルは私のいた世界と比べるとかなり低いのだろう。予想だが、転生物あるあるの中世ヨーロッパとかド○クエ的な世界観なんだと思う。多分。あるあるだし。だから知識チートができるかもしれない。


 ……顎に手を当てると唇にも指が当たる。あ、唇パサパサビリビリだ。通りでカサカサすると思った。リップ……は無いんだっけ。


 ……一応村の人が通貨を持ってたり、村を出て都市へ働きに行くなんてこともあるみたいだから、一応都市とかとの商売? っていうか売り出し? 出荷? はしているみたいだ。


 ……で、魔法の世界の次に驚くこと。


 この世界、モンスターが居る。


――モンスター、それは人間に害をもたらす生物全ての総称らしい。……ちなみにこの世界の言葉は日本語ではない。けど、日本語訳すると多分モンスターか化物だからゲームっぽくモンスターだって考えとこう。


 ……で、そのモンスターを退治する人間達がいる。……そう! 冒険者!


 この世界には、という役職があるのである!!


 この事実に気づいたときにも、どれだけ興奮したか……! ……ゲフンゲフンッ。


 ……この冒険者っていうのはいわゆるモンスターを倒す仕事の人……ってよりは、何でも屋? みたいな、そう、日本でいうフリーターみたいなものだ。

 ちょっと夢が壊れるが、どこの世界でもこんなもんだろう。

 

 で、冒険者ギルドってのも実際にあって……まぁ言っちゃえば依頼……バイトの紹介所なんだけど、そこで登録することによってなれるみたい。


 ちなみに身分は関係ないみたいだ。


 ……小さい頃、ってか今の私確か9歳なんだけど、もっと小さい頃から冒険者になることが夢だった気がする。……お母さんが亡くなって、孤児院に入った後くらいだったっけ?


 ……私はお母さんのことをあまり覚えていない。ただ、亡骸の顔だけは覚えてて……金髪の、すごく綺麗な人だった。


 ……もう今は大丈夫なんだけど、亡くなってすぐはすっごいショックで孤児院に入ったあともずっと落ち込んでて、後に友達になるダニエルとレナの励ましもずっと無視してたっけ。

 

 ……そんなときだったかな、ある冒険者パーティーがうちの村に来て、私達のいる孤児院……教会に泊まったんだよね。

 その時にこれまで彼らがしてきた冒険とかの話を聞いて、楽しそうだな、とか凄いな、とかこんな人になりたいな、なんて思ったんだっけ。


 今考えてみると、その人の話割と誇張してそうだなって思うんだけど、そのおかげで私は元気が出た。本当に感謝してる。……今頃何してるのかなぁ、あの人達。


 ……で、元気が出たあと、割とデカくて強そうな牛型モンスターが襲ってきたから腹パンで返り討ちにしたってので付いたあだ名が“サイクロプスの乙女”よ。命名ダニエル。

 人をゴリラに例えるのと似たノリだと思うけど……それはちょっと……。

 

 サイクロプスって村一つ簡単に壊滅できるほどのモンスター、A級モンスターだ。うら若き乙女(7歳)をそんな野蛮なヤツに例えるとは……。


 ……まぁどうして腹パンでモンスター返り討ちになったんだっていうと、私、かなりの怪力みたい、とだけ言っとく。


 ぬかるんだ道にハマった牛車(多分荷物運ぶための)を軽々持ち上げたからね。

 その時はなんで皆できないのって思ってたんだけどコレ確実に私がおかしいわ、うん。

 

 よく考えたらこのぼっろくてほつれだらけの服も私が力加減誤って昔破ったやつだった。今はだいぶ加減できるようになったけど、昔はそんなのお構いなしだったから。でも、この服お母さんから貰ったお気に入りの服なんだよね。

 しみじみと思い出す。


 今思うとこんな化物じみた力持った私によくあれだけ村の人は構ってくれたと思う……ってあれ、これかなり話がズレてってる気が……。


 そう、今は現状把握が必要なのだ。

 そして、真っ先に確認しないといけないことを忘れてる。


「ここ、どこっすか……」


 グラグラと揺れるその空間は前世今世あわせても初めての感覚で、見た目からして馬車……の中のように思えた。



 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る