第19話 冬祭。
予定通り12月24日。
零達が通っている学校では、恒例の催しである『冬祭』が始まっていた。
既に校舎の外や内部では大勢のお客さんが来ており、担当の生徒達が誘導や案内をして、客引きの生徒らが呼び込みをしている。バイトもしたことがない中学生なので、大半が慌てた様子であるが、気合いの入っているクラスは色々と策を練って客を引き寄せていた。
ところが、中でもやる気満々であった零達のクラスはといえば……。
「零が休みとはどういうことじゃ! さっさと説明せんか武っ!」
「だから知らねぇよ! 集合場所に来なかったら寝坊したのかと思ってたんだ! 電話しても返事がねぇし、家にも連絡したが、アイツの母親が代わりに出て風邪だって言われたんだ! ……以上!」
「そこをおかしいと思わんのか!? あの零じゃぞ!? 絶対にありえんじゃろう!」
「思ったさ! けどどうしろと!? 連絡しても返事がねぇんだ! どうしようもないだろう!?」
ムムムと睨み合うのは石井武と黒河美希。ようやく待ちに待った本番だというのに大戦力である零の不在。無駄に万能な彼にはやらせたい企画が多々用意されていたが、突然の休みにクラス全員から戸惑いの声があがる。
「仮病なのは間違いないのじゃから、すぐ家に行って引っ張ってくればよかったんじゃ!」
「ムチャクチャ言ってんなこのロリ……! 教師が許可するわけねぇし、今からじゃ間に合わねぇよ」
自称クラスの責任者である美希が憤慨したのは言うまでもないが、責められている武の方はいち早く冷静になったようで、自然と視線の方を零の幼馴染へ向けた。
「九条なら知ってるんじゃないか? いや、そもそもクラスのまとめ役のお前が零のサボりを許容するとは思えねぇ……。いったい何があったんだ?」
「……」
しかし、話を振られた凪は無言のまま出し物の準備をする。何を考えているか読み取れない無表情で、2人からの視線を無視して手作業に集中していた。
「「……」」
あの余裕な笑みがお似合いな凪の無表情。
騒いでいた美希まで黙らせる程で、ザワついていた教室内も次第に静まり返っていた。
「あ、空いている奴らを集めてすぐ出来そうことでも検討するか?」
「そ、そうじゃのぉ……」
とりあえず予定変更の為の話を進めた。
*
賑わう校舎内を歩く小さな女の子――零の妹である葵。
付き添うように並んで歩く青年――凪の兄である冬夜。
行き交う人を避けながら、冬夜がエスコートするように手を繋いでいた。
「連れて来てくれてありがとう。トウヤおにぃちゃん」
「葵ちゃんが気にすることはないよ。元々凪から誘われていたからね。小学生を1人で行かせたりはしないさ」
人混みが苦手な葵を庇うように歩く。流石に子供の彼女に対して、下らない男が寄って来る可能性は低いだろうが、不安になる要素が可能な限り避けたい冬夜。
どこか不安そうにする葵へ常に微笑みを見せていた。
「オレにとってもう1人の妹でもあるからね」
「う、うん!」
暖かそうな格好した葵が笑顔で頷く。……ここに来るまでは何処か落ち込んでいる様子だったが。
(凪の話だと零が原因でかなり落ち込んでたようだけど、この調子なら何とか大丈夫そうだ)
他所の学生服とコートを着た冬夜は心の中で頷く。基本人見知りな葵であるが、幼い頃から凪と一緒によく面倒を見てくれていた。もう1人の頼りになる兄であり、あまり乗り気ではなかった葵も素直について来てくれた。
そして、色々と忙しい葵の両親達に代わり冬夜が連れて来た。
彼女に話した通り来る予定であったが、もう1つ理由があった。
それは……
「あっちも間に合ったようだな」
「え? ……あ!」
冬夜が呟いたのは、気配を感じたから。
キョトンとする葵であるが、彼の視線を追うとその表情が満面な笑みへと変化した。
「なぎおねぇちゃん!」
「葵ちゃん……待ってたよ」
視線先で人混みから現れた凪を見て、葵は嬉しそうな声音で上げた。
凪も微笑を浮かべて手を振って彼女を導いた。
「本当にいいんのかい? もし彼が知ったら……」
「このチャンス……逃したら多分あとがない。兄さんは予定通り見張ってて……何があってもあちら側から動きがあるまで、絶対こっちに来ないで」
「それは……お前の身に危険があったとしてもか?」
「私がーーーーに殺されそうになっても……絶対」
兄に対して彼女の声音に迷いがない。
先を行く彼女の背中を凪は冷たい眼差しで見つめていた。
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