第14話 前日。

 どうでもいい話だが、俺と親父は仲は別に悪くない。

 学校の知り合いなど、特に女子たちは思春期だからか毛嫌いしている者が多いと聞く。幼馴染の凪や由香さんはそうでもないが、凪の方はどちらかと言うとシスコン気味な兄の方に困っているようだ。……凪の幼馴染な所為で会う度に俺に殺気を向けて来るので、結構苦手な相手である。


 要するに俺と親父の関係は周囲よりは良好だと言うことだ。

 朝、出掛ける直前で呼び止められる程度で、イラつくことなどないし、周囲がよく言う「偉そうな小言、説教?」もそんな気にしない方であった。




 ただし、気にはしなくても理解出来ているとは言えなかった。

 てっきり僅かな仮眠のみでほぼ徹夜続きの生活に対して、親として何か言ってくるのかと思われたが、親父からの話は少しズレたものがあった。





異能者そっちとしては確かに合格かもしれない』



『巻き込みたくない。お前の気持ちはよく分かる』



『だが、そんな正しいさも伝わらなければ、相手を傷付けるだけだ』



『守りたいはずの存在を逆に自分で傷付ける行為、それは言葉でも十分起きてしまう』



『たとえ無意識な対応だとしても、相手のことを思って向き合わなければならない。……だからな、零』



 短めであるが、有難いお言葉だと思う。親父なりに俺と妹の歪な関係をどうにかしたいと、考えての発言だと理解はした。



 けど、どうしても分かる気がしなかったのが本音である。

 親父の言葉を否定しようとは思わなかったが、どこか理不尽な気持ちが込み上げて……




 ――ちゃんと妹のことも見ないとダメだぞ。



 だったら、どうしたらいいって言うんだ。

 自然と不満を口にしたところで、俺は乱暴に学校鞄を持ち家を出て行った。







「何が言いたいんだ。あの親は」


 無駄に長い校長の話を聞き流していると、ふと朝のやり取りを思い出した。

 別に怒っているわけでもイラついたわけでもないが、どこか回りくどい話し方。ちっとも答えが見てこない会話を思い出して妙な引っ掛かりというか、モヤが生まれる。


 ……まさか謎かけじゃないだろうな?


「何のことだ?」


 ひそひそ声で近くにいた武が聞いてくる。校長の話なんて完全に耳から抜けているくせに、俺の独り言はしっかり聞いているんだな。


「なんでもない。ただの独り言だから校長の無駄話に集中してろ」

「興味ねぇのは賛成だが、無駄話とか言い過ぎじゃねぇ?」


 軽い感じでいつもの調子。呆れている武から意識を離して、少しでも精神を休めようとボーとしていたが、不意に……



 ――ゾワ……



「……」



 無意識領域から意識領域へ。

 瞬間的に集中力を跳ね上げた俺は、異能の源である『心力』を使ったを発動。



(【詠みの手】)



 感知範囲は学校の敷地内。感知系の異能者でもないが、『心力』を使いこなしている為、それが可能なのだ。


 元々は異能使いである親達が編み出した技法。他所でも似たような技術は伝わっているらしく、使える人も心力操作がある程度出来る人のみに限られているが、本来はここまで範囲が広い訳ではない。


 感知にしろ、強化にしろ、自身の能力の向上程度にしか伝えられておらず、感知も精々周囲、目に入るくらいが平均的な技術力であるが……。



 指導の際にすぐ会得した俺は、改良甲斐があるとかなり打ち込んでみた結果。

 予想を遥かに超えて、その気になれば街全体……は言い過ぎだが、かなりの範囲、何十キロも遠くの魔獣の瘴気を感知出来るようになった。




(見付けた。校舎の屋上か)




 必要ならさらに拡大してみようとしたが、流れる海のような感覚の中に微かに異物を感じ取った。


 そして流れてくるのは、異物の力『瘴気』である――


 そこまで分かったところで話する壇上の校長から背を向ける。全員が立ちぱだったので出口へ向かい出しても、そこまで目立たないが、それでも周囲から怪訝そうな視線をいくつも浴びてしまう。


 それは当然武からもだが。


「どこ行くんだ?」

「トイレだ。腹が痛い」

「あー、そうか、ご愁傷様」


 といった感じで対処法は慣れていた。教員からも呼び止められはしたが、腹が痛いからトイレだと言えば仕方ないと通してくれる。まぁ、多少恥ずかしくもあるが、体は大事にが常識だな。




 ……立ち去る際、凪から不審そうな視線を向けられ、英次から意味ありげな困ったような視線が飛んできたが、立ち止まらず全校集会の体育館を後にした。


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