第10話 陰り。
異能者が借りている訓練用の道場。
「ふぅー……」
「……」
竹槍を持つ俺に竹刀を持った英次が剣先を向けてくる。
緊張を解すように息を小さく吐いて、一定距離を保ち踏み込むタイミングを図っている。
構えは我流気味であるが、実戦向けの悪くない。真剣ではないが、良い具合の緊張感であった。
――そして
「ハァァァ!」
「……!」
俺の首元を狙った鋭い突きを僅かに横へ移動して躱し、踏み込んで来た奴の胴体を槍で打つが……。
「ッ!」
「……」
吹き飛んだ勢いに比べても手応えが弱い。
読んでいたか、寸前で後ろに飛んだ英次は転がりながらも、駆け出して今度は躊躇わずこちらに迫って来た。
「アァァァァ!」
力はやや弱いが、速さがある剣技を繰り出して来る。槍を回転させて刃を叩く俺の防御を掻い潜ろうと、鋭い目つきで俺の動きを観察する。
「ハァッ!」
そして、鋭い一閃が来る。
俺の防御の隙間を掻い潜り、英次の刃が脇腹を斬り裂こうと……
――ガシッ
「いっ!?」
「惜しかった」
寸前で奴の手首を掴んで止める。
引き寄せて片手で持つ槍で片足を払い、クルリと回転しながら空中に放り投げ……。
「――ッ!?」
槍の乱れ打ち。
ギョッとした顔をした英次と目があったが、特に気にせず放り投げた奴を槍で連続で叩きつけた。
*
夕方、寒々い屋上にいた俺は、暇潰しに冬祭のパンフレットを読みながら、疲れからくる白い息を吐いていた。
「結局……今日1日中、大工仕事とはな。凪どころか由香さんまで頼んでくるし」
黒河に言われただけなら、流石に面倒になっていたかもしれない。
その後、ごく普通に俺を手足のように扱う凪を通してか、俺の大工の腕前? を知ってやって来た由香さんに生徒会の手伝いを頼まれた。……中学校の催しにしては大工仕事が多すぎないか?
「大して興味もないが、まともな学校じゃないのか? うちの学校は」
お化け屋敷に使う吊り天井に隠し扉。演劇関連の看板や武器類などなど。
……この学校の生徒達は何か普通じゃない気がするが、気のせいだろうか。……普通に作ってしまう俺が言えた義理じゃないが。
「やっと解放されてさっさと帰りたいっていう時に……――何でお前まで俺を呼び止めるんだよ英次」
「……悪い」
「暗いなオイ」
突然メールで学校に居ないはずの男から屋上に呼び出された。
要件は『2人っきりで話したい。屋上に来てくれ』だ。もう少し説明文を多くして欲しいものだが、なんか異様にテンション低くないか? 俺も似たようなものだからあまり突っ込まないが。
「で、どうしたよ英次? 休んでいたと思ったら、放課後に学校に来てこんなクソ寒い場所に呼び出すなんて。新手の嫌がらせか?」
「オレだって寒いんだよ。能力を使い過ぎて疲れてるし」
「それは自業自得だろ? 俺が止めただろうが、どうせオバさんにも怒られた口だろ?」
「ぐっ、何も言い返せん……」
悔しげに睨むなら自重すればいいと思うが……。
まぁ、こんな時間にこんな場所に呼び出したってことは……何か引っ掛かったか?
「他の拠点ではなく、ここの時点で察するが、凪にも内緒な案件か? 俺は構わないが、バレたら面倒だぞ?」
「全くもってその通りだが、どうしても話したいことが出来た。場合によっては九条さんにも相談するが、まず協力してくれたお前に話したい」
「零、冬祭……サボれないか?」
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