第10話 陰り。

 異能者が借りている訓練用の道場。


「ふぅー……」

「……」


 竹槍を持つ俺に竹刀を持った英次が剣先を向けてくる。

 緊張を解すように息を小さく吐いて、一定距離を保ち踏み込むタイミングを図っている。

 構えは我流気味であるが、実戦向けの悪くない。真剣ではないが、良い具合の緊張感であった。





 ――そして


「ハァァァ!」

「……!」


 俺の首元を狙った鋭い突きを僅かに横へ移動して躱し、踏み込んで来た奴の胴体を槍で打つが……。


「ッ!」

「……」


 吹き飛んだ勢いに比べても手応えが弱い。

 読んでいたか、寸前で後ろに飛んだ英次は転がりながらも、駆け出して今度は躊躇わずこちらに迫って来た。


「アァァァァ!」


 力はやや弱いが、速さがある剣技を繰り出して来る。槍を回転させて刃を叩く俺の防御を掻い潜ろうと、鋭い目つきで俺の動きを観察する。


「ハァッ!」


 そして、鋭い一閃が来る。

 俺の防御の隙間を掻い潜り、英次の刃が脇腹を斬り裂こうと……



 ――ガシッ



「いっ!?」

「惜しかった」


 寸前で奴の手首を掴んで止める。

 引き寄せて片手で持つ槍で片足を払い、クルリと回転しながら空中に放り投げ……。

 

「――ッ!?」


 槍の乱れ打ち。

 ギョッとした顔をした英次と目があったが、特に気にせず放り投げた奴を槍で連続で叩きつけた。





 夕方、寒々い屋上にいた俺は、暇潰しに冬祭のパンフレットを読みながら、疲れからくる白い息を吐いていた。


「結局……今日1日中、大工仕事とはな。凪どころか由香さんまで頼んでくるし」


 黒河に言われただけなら、流石に面倒になっていたかもしれない。

 その後、ごく普通に俺を手足のように扱う凪を通してか、俺の大工の腕前? を知ってやって来た由香さんに生徒会の手伝いを頼まれた。……中学校の催しにしては大工仕事が多すぎないか?


「大して興味もないが、まともな学校じゃないのか? うちの学校は」


 お化け屋敷に使う吊り天井に隠し扉。演劇関連の看板や武器類などなど。

 ……この学校の生徒達は何か普通じゃない気がするが、気のせいだろうか。……普通に作ってしまう俺が言えた義理じゃないが。


「やっと解放されてさっさと帰りたいっていう時に……――何でお前まで俺を呼び止めるんだよ

「……悪い」

「暗いなオイ」


 突然メールで学校に居ないはずの男から屋上に呼び出された。

 要件は『2人っきりで話したい。屋上に来てくれ』だ。もう少し説明文を多くして欲しいものだが、なんか異様にテンション低くないか? 俺も似たようなものだからあまり突っ込まないが。


「で、どうしたよ英次? 休んでいたと思ったら、放課後に学校に来てこんなクソ寒い場所に呼び出すなんて。新手の嫌がらせか?」

「オレだって寒いんだよ。能力を使い過ぎて疲れてるし」

「それは自業自得だろ? 俺が止めただろうが、どうせオバさんにも怒られた口だろ?」

「ぐっ、何も言い返せん……」


 悔しげに睨むなら自重すればいいと思うが……。

 まぁ、こんな時間にこんな場所に呼び出したってことは……何か引っ掛かったか?


「他の拠点ではなく、ここの時点で察するが、凪にも内緒な案件か? 俺は構わないが、バレたら面倒だぞ?」

「全くもってその通りだが、どうしても話したいことが出来た。場合によっては九条さんにも相談するが、まず協力してくれたお前に話したい」


 



「零、冬祭……サボれないか?」




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