第8話 準備。

 ――『冬祭』とはクリスマスイブ、学校で行われる催し物である。いわゆる文化祭のようなものだ。……なんで、そんな日にやるのか知らないけど、みんな意外とやる気満々であ。


 中学校なので規模はそれほど大きくはないが、各クラスや部活などでもそれぞれ企画を決めている。俺のクラスもベタな射的ゲームを行う為に、自由時間の合間で準備を進めていたが。


「さぁ、期限までもう残り1週間切ってる。我々も急ぐのだ!」

「急ぐのはいいが、なんで俺が?」


 無い胸を張って言う黒河にノコギリを持たされて、加工が必要な木材の相手をしていた。どうやらそれっぽい的や屋台風な屋根がご所望らしい。

 『冬祭』まであと5日。のんびりしている暇ないのは分かるが。


「無駄に万能な貴様なら余裕で作れるじゃろうが! 無駄口ばかり言ってないで、さっさと加工せんか!」

「無駄には余計だ」

「無駄口も多いじゃろうが!」


 反論は認めないと言った様子で黒河が睨み付けてくる。正直俺にってどうでもいいイベントでしかないが、本気な黒河は万能らしい俺の手が必要だそうだ。


(ま、どうせ暇になるしいいか。にしても……)


「景品がお菓子なのは分かるが、なんで特賞がティアラなんだ? あんなの誰が欲しがるんだ」


 別に作るわけではなく、事前に百貨店で買った物を使うそうだが、見本用の表を見て首を傾げる。男の俺には理解出来ない物だが、もしかして女子には人気が高いのだろうか? 出し物が射的だから男子の方が多い気がするが。


「ふふふふっ! 理由を聞きたいか? 零?」


 ただの独り言だったが、同じく大工作業を任された武が不敵な笑みで絡んで来た。どうでもいいが、釘とトンカチの持ち方が危ないぞ?


「いや、別にいい。それよりも武が持っているトンカチが」

「そう言わずに聞けって! この学校の素晴らしい伝説なんだから!」

「なんだよ伝説って」


 いや、聞くべきはお前の方だと言いたいが、何故か調子に乗った武がノリノリで釘を叩きながら言って止めるタイミングを見失った。……そのうち指に行くな、アレは。


 興味がない話だから色々と端折るが、要約するとこうだ。


「ようするにラブレター代わりってことか」

「他のクラスの景品や物作り体験とかにも、商品のティアラがあるくらい有名だぜ? 本当に知らなかったのか?」

「告白したい相手が居ないからな」


 基本的に男性が女性にプレゼントするのが決まりらしい。

 他にも彼氏募集の意味を込めて女子が自ら着ける場合もあり、これこれで中学生には、なかなか勇気がいるようにも思えるが、聞いて見る限り結構緩い。


「はぁ、やっぱり姉貴は眼中になしか」

「は? なんで由香さんが出て来るんだ?」

「あ、いやーまぁ、祭り的な感じだから! みんな結構やってるっt――ラァァァアアアアア!?」

「そうかそうか、とにかく人気があるのか」


 ま、気にもならん断末魔よりかはマシな話ではあった。由香さんの件は少し気になったが、深入りすると面倒だと俺の中の警戒センサーが鳴っているので、そんな武みたいなバカな真似はしない。


 喧しいわ!と黒河に注意&蹴りをくらっている武を無視して、俺は残っている木材の加工に意識を向けた。指定通りに進めば、早めに終わりそうだ。


「……」


 ……暇になりそうだから、葵を誘ってみるか?

 どうせクラスの催し以外は、凪は自由に動いて武は運動系のイベントに行ってそうだ。由香さんは多分生徒会の仕事が忙しいから無理だろう。


 英次は……来るかどうかも怪しいかもな。

 最近、良くない未来ばかり視えるのか、今日も休んでいた。


「……」


 つまり俺は当日、恐らく1人になるわけだ。葵を誘おうかと言えば、凪も付き合ってくれるかもしれない。仮に俺と一緒なのが嫌だったとしても、凪が一緒なら多分大丈夫なはずだ。


 ふと脳裏で浮かぶ寂しそうにする妹の顔。泣きそうであるが、一生懸命堪えているような悲しげな顔が見えた気がした。


「一応、確認しておくか」


 対して興味がなかったイベントであるが、無意識にイブの日に異能関係の予定がないかと、頭の中でチェックしていた。

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