第3話 代償。
俺が所持している【黒夜】は特異な異能。……つまり異質な能力である。
普通の異能は火や雷を出したり、物を動かしたり、武器や物の生成、回復に探知など、よく聞く定番なものが多い。
中には変わったのもあるそうだが、少なくとも枠に外れたような規格外な物が確認されていない。どんな凄い能力にも必ずリスク、代償が存在した。
それは俺の異能である【黒夜】も同様であった。
真っ黒な原型がない何処までも黒い異能。
心力を操作することで形態変化させて、扱い易い武器に変えているが、本来の能力とは全く関係がない。
その能力は――大きく分けて3つある。
1つ目は――『理に反した存在を裁くチカラ』。【黒夜】の基本能力であり、簡単に言うと異能者の『心力』や魔獣の『瘴気』といった、常識から外れたチカラのみを消し去るチカラ。魔獣の能力や異能までも無効にすることが出来る。
2つ目は――『防御不可な魂のみを狩るチカラ』。最初の能力に似ているが、こちらの【黒夜】の効果は魂のみを狩り取るチカラ。そもそも『心力』や『瘴気』は魂のエネルギーであり、本来は最も無防備な急所である。そこを心臓よりも手薄な守りであるため、防御が不可能に近い人間が相手なら一撃必殺の能力であった。
そして、最後に3つ目は――『使い手である宿主を――』
*
聞こえるのは断末魔であった。
それは嘆きにも似ていたが、これは絶望だと俺は思った。
薄暗い中、足元には血の池が満たされている。
誰の血かなんて分からなかったが、いくら眺めても心に響くことはない。
そして、伸ばしていた手の先にあったのは、血塗れな真っ黒な鎌。
慣れた感じで肩に乗せる。気配がしたので視線を先に向けると、そこには瀕死の姿をした敵が立っていた。
敵である以上は一切容赦しない。
勢いよく駆け出した俺は躊躇うことなく、瀕死の敵に鎌の一閃を浴びせた。
感じるのは鎌の刃が敵の体をえぐり込んだ手応えと、体から舞う血飛沫の雨。たとえ暗闇の中でも、超人の俺にはハッキリと分かっていた……筈だった。
突如、空から光が指した。暗闇だったそこに突然、柱のような光が降りたのだ。
瞬間、敵の姿が露わになる。
さっきの一撃で事切れている筈の敵の顔が間近で見えた。
「お、おにぃちゃん……?」
血塗れの彼女は
俺の妹だった。
「どう、し、て……?」
胴体から溢れんばかりの血を噴き出した妹は、不思議そうに小首を傾げて問う。
「おにぃちゃん……」
無言のまま俺は、問い返す代わりに鎌を持ち上げる。驚きの顔は一切ない見せない。何故なら彼女は敵なんだ。敵である以上、絶対に倒さなくてはならない。
「おにぃちゃん……」
何も感情を映さない瞳が不思議そうな顔をする葵の首に狙いを定める。
「たすけて、れいくん……」
*
「ガガガガガァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッーー!?」
「零!? どうしたの!? 零!」
そこでようやく悪夢から目が覚めたが、目覚めた俺の思考回路は吹っ飛んでいた。
今にも置かれてあるテーブルを砕きそうな勢いだ。それどころか荒れ狂う激情のままに辺り一面を壊してしまいそうな程、俺の精神状態は異常を来していたが……。
「零!!」
「――っ!」
目の前で座っていた幼馴染の凪から抱き締められる。思わず引き剥がしそうになるが、耳元に届く彼女の声を聞いていると……次第に荒れていた思考が正常に戻り始めた。
「落ち着いて。大丈夫、大丈夫だから……ね?」
「はぁ、はぁ、はぁ……」
優しく背中や頭を撫でられる。こいつに抱き締められるなんてずっと子供の頃以来である。中学生になりお互い成長しており、当然懐かしいと思うような感触とは異なっていたが……。
「はぁ……はぁ……わ、悪い……」
何処か暖かさを感じた俺は、少しだけ懐かしい気持ちになった。
それは捨て去った過去の思い出か、確認したくても遠い昔の気持ちを呼び起こすほど、俺の感情は安定には程遠かった。
悪夢とは即ち『代償』である。
3つ目の能力で得たチカラの反動によって、人間らしい感情がどんどん消えていたのだ。
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