第2話 日常。
『フッシャー!!』
迫って来るのは真っ赤な猫に似た怪物……獣系の魔獣である。
二メートルはある巨体を揺らして、大きな牙を生やした顎門で噛み砕こうとする。
「……」
無言のままに避けると、背後の古びた柱が噛み砕かれる。場所が廃墟の工場で良かったと思ったが、このまま続けたら建物自体が倒壊する。
『シャーッ!!』
再度、俊敏よく迫って来る化け猫。倒壊の危険から避けるのをやめた俺に向かって、噛む砕くどころか丸呑みも余裕な顎門を大きく開いて、獰猛な獣の如く飛びかかって来た……ところで。
「【黒夜】……突き刺せ」
『シャ!?』
何もない空間から出現した数本の真っ黒な刃。突っ立っている俺を囲うようにして、歪であるが檻のように形状になると……。
勢いよく噛み砕きに来た化け猫の牙を……その大きな顎門ごと内側から切り裂いた。
「――シャァァァァァ!?」
自慢の牙ごと口の中が切り刻まれた。化け猫は口から『瘴気の煙』を吐きながら泣き叫ぶ。
目の前の相手がいることも忘れてのたうち回るが……。
「アウト」
『――』
脳天に突き刺された槍の一撃によって、叫び上がっていた化け猫はあっさりと沈黙。
しばらくすると、今度は全身から存在の力である『瘴気』が煙となって漏れていく。それが続くとやがて猫の存在自体が薄れていき、俺の視界からも猫の姿が完全に消滅した。
『グ、グル……』
『キュ……』
『シャ、シャァァァ……』
そして、同胞が消えたのを見ているしかなかった、他の魔獣らが恐怖で震えていた。
そもそも、この廃墟は魔獣たちの拠点の一つ。街にいる狩人の異能使いの目から逃れるようにして、こうした場所を利用していたようだが……。
「次はどいつだ? 俺の街に土足で踏み入れた以上、一匹たりとも逃しはしないぞ」
魔獣狩りの『死神』なんて呼ばれている俺に目を付けられたのが、こいつらの運の尽きであった。
俺が放つ威圧に恐れて逃げ出そうとするモノは、槍の一投で蹴散らす。
束になって挑んで来る奴らは、生み出した刃の餌食になってもらう。
また、慈悲を求めるモノには選択を与えて、利用するだけ利用して最後は一撃で始末を付ける。
「【黒夜】……全てを一掃しろ」
生み出された黒き光が工場内にいる全ての魔獣を捕らえた。
怯え出して泣き叫ぶモノ、または最後まで恨みの視線を浴びせるモノもいるが、黒き異能【黒夜】を握り締めるように操作した途端、全ての魔獣の存在が消えるのを感じた。
人の魂の源である『心力』を喰らう魔獣は、決して生かしておくわけにはいかない。
それが異能使いとなった俺が最初に学んだことであった。
これは中学1年の冬だった。
クリスマスが近い頃、街が賑わっている中、異能者の俺は何処か冷めた気持ちで過ごしていた。
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