第17話 女子会
……。
私の感じた全てを、そして醜い部分を伝えて、私は二人の応えを待った。怒られる覚悟はできている。
「普通にそのナンパ男がゴミ。頭悪い」
「ていうか、夢子のお兄ちゃんってターミネーターか何か?」
「……あれれ?」
想像の斜め方向を上下する言葉だった。
「待って。私結構キツイこと言われると思ってたんだけど」
理子が言う。
「キツイことって、確かに夢子は色々考えたかもしれないけど、実際に起こったことは夢子がナンパされて、お兄さんがぶたれて、夢子が泣いただけでしょ?逆に私たちがそうなったとして、夢子は怒ったりするの?」
逆の立場で考える。さっきお風呂で私が思っていた事そのものだ。
更に理子が言う。
「仮にお兄さんが怒ってたならまだしも、別になんともなかったんでしょ?」
確かにその通りだ。一切騒ぐこともなく、むしろうろたえる私の手を引いてくれた。パニックになっていたとは言え、私が起きてもいないことで一喜一憂するなんて全然らしくない。らしくないがいい返さずにはいられなかった。
「悩んでいたのは、私がお兄ちゃんを信じてなかったかもって部分なんだけど」
「でも夢子はお兄ちゃんのこと好きじゃん」
正論過ぎて逆に意味が分からなかった。
私が困っていると、真琴がおもむろに笑いを吹き出してこう言った。
「むしろ夢子の兄ちゃんって何者なわけ?普通少しくらい動じるでしょ。無反応はウケる」
確かに、話に聞くだけならかなり面白い気がしてきた。
「でも、本当に怖くなっちゃったんだもん」
怖かった。確かに怖かったのだが、他の意見を聞いて段々笑えてきてしまった。しょげてるのかにやけているのか自分でもわからなかったから、とりあえず下を向いておくことにした。
「まあ、好きな人の事だもんね。心配もするよね」
他人事だと思って、そうやって大人みたいな意見を言う。私たちは三人ともそうだ。
「まだ高校生だし。そういうこともあるよ」
なんか恥ずかしくなってきた。どうして私はこんなに悩んでいたのだろう。しかし、ここで焦ったのがよくなかった。
「そっ、そこにいたら絶対そんなこと言ってられないから!」
しまった。いじられる。
「かわいいね、夢子ちゃんは」
「私たち、そこにいたことないからわかんないよぉ~」
思ったときにはもう遅い。二人に頭を執拗に撫でまわされ、なぜかおっぱいまで揉まれた。
こうなってしまってはもうお手上げだ。何を言ってもいじられる。大人しく負けを認めて、二人が満足するまで黙っていよう。
……ありがとう。
「ん?何か言った?」
聞き返された。当然だ。わざと聞こえないように言ったのだから。
「何も言ってないです」
照れているように見えるだろうか。しかしその実、私の心の中は感謝でいっぱいだった。
いじられ倒して、ふいに真琴がこう言った。
「夢子の兄ちゃん、見てみたいな」
むっ。
「確かに、こうして相談に乗った以上私たちも無関係じゃないしね。見てみたいかも」
理子がパチンと手を叩く。
「嫌だよ」
だって取られるかも。お兄ちゃん年下好きだし。
「安心してって、別に私たちは見てみたいってだけなんだから」
それが問題なのだ。二人とも自分がものすごくかわいいことを知らないのだろうか。などと心配してしまうところが、私の自信の無さを表しているようでどこか惨めに感じる。
「う~ん」
「私も理子も見たいし」
その気にさせる努力ゼロか?とはいえ、弱味を握られている以上今日の私の立場は弱い。仕方なく承諾することにした。
「やった。じゃあ早速明日泊まりに行くね」
決まってしまった。この二人は間違いなく一般職より営業の方が向いている。
その後、私たちは夜中まで話して、眠った。
翌日、理子が着替えを取りに行きたいというから三人で理子の家に行き、そして私の家に帰ってきた。途中文房具店を見たり、夕飯の買い物をしていたからあっという間に夕方になってしまった。
人を招くなら掃除をしておけばよかったと思ったのだが、家の中はきれいに片付いていた。きっと、お兄ちゃんが片付けてくれたのだろう。ありがとう。
そんなことを考えながら、買ってきた食材をしまおうと冷蔵庫を開けると。
「うわっ。何にも入ってないね~」
後ろで見ていた理子がつぶやいた。別にここまできれいにしなくてもいいのに。
ご飯を炊飯器にセットしてから、豚肉のロースを叩いて下ごしらえ。味付けした溶き卵にそれを付け、パン粉をまぶしてから高温の油で揚げる。前にお兄ちゃんが読んでいた漫画に、カツは二度揚げするとおいしいと書いてあったから、それを読んで以来私はこうやってとんかつを作るようにしている。
キャベツを刻み、味噌汁を作る。お米の香りのする蒸気がキッチンに蔓延する。さて、これで準備は完了だ。
午後の七時。時計を見たとき、ちょうど玄関から物音が聞こえた。
「帰ってきたの?」
「うん。多分」
しかし、待てど暮らせどお兄ちゃんは現れない。きっと何かの危険を察知して上へ逃げたのだろう。
「ちょっと連れてくるね」
そう言って、私は廊下へ出た。
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