そこはどこでもない世界

@epopo

第1話

その日はとても暑かった。

空に浮かぶ入道雲がどこまでも広がっていて、僕もそのなかに溶けてしまいたいと願った。


ガタンガタン…河原で寝転ぶ僕の真上の鉄橋を今日も電車が走ってゆく。

いつもならあの電車に乗り、学校を目指している筈だ。


だけど、「もう学校なんてどうでもいい」

そう思ってしまったのは両親の会話からだった。


いつもはお互いの顔をみないようにしている両親が、珍しく家にいたあの日

「話しがあるから」と呼びだされてリビングに行った。


「夏海、話しがあるの。

母さん達離婚しようと思うの」


唐突にそう言われても、受け入れられる筈もなかった。


「夏海が納得できないのも無理はないわ。

だけどこれ以上無理して父さんと一緒にいてお互い嫌いになりたくないから」


そう言った母さんの顔はどこか清々しかった。

「はっ?!なんだよ、勝手に決めんなよ」

リビングテーブルをガタンと揺らし、僕は席を立った。


「俺、まだ中学生になったばっかりなんだぜ?!苗字変わるのもやだし、なんで急にそんな話しするんだよ?!」


ドラマや映画では、もしかしたらものわかりの良い子ども役が出てきたりするのかもしれないけど、僕はそんなに聞き分けが良いわけじゃない。


そうやって散々ダダをこねてみたけれど、

その願いも虚しく呆気なく両親は離婚をしてしまった。

唯一願いが叶えられたのは、俺の苗字が変わらなかったことだけだ。


職人肌の父さんは、僕の頭を撫でながらひとこと「ごめんな」と言ったきりだった。


子ども心に愛しあって結婚したと思っていたのに、どうしてこんなことになってしまったんだろ…と思ってしまった。


なにも両親に限ったことじゃない。

愛しあって結婚した2人もいつかは覚めて、

またもと来た道を戻ってしまうのだ。


ときには違うひとを引き連れて…

そんなことを考えていると、


「あーーー、夏海こんなところにいた!」

頭上から俺の顔をのぞき込む咲子の顔が見えた。アイツが3歳のとき、我が家の隣に越して来てから10年来の付き合いになる。



「咲子、おまえもうちょっと前」

手をクイクイと前にし呼んでみる。


「え、なんで?!」

「いやパンツ見えないかなーと思って」


すると咲子は顔を真っ赤にして

「バカっ」と言った。


それから

「あー…なんか心配した損した。そんな口きけるなら大丈夫だね」と言った。


「咲子…おまえ、心配してくれたの?」

「…べつにっ、ただ母さんから夏海のこと聞いて」

そこまで話して、しまったという顔になった。


「べつにいーよ。咲子になら知られても別になんてことない。」

そうして僕はまた空を見上げた。


咲子はちょこんと、僕のよこに座った。


「ねぇ、夏海なんかあったら言ってね?」

そういわれて、柄にもなく今まで堪えていた涙がツーとにじみ出た。


「なんかさ・・、一人っ子だったせいかずっとやせ我慢してたんだ。

 いわゆる親が望むようないい子になろうとして必死に取り繕って。

 親は俺のことなんか・・眼中にないっていうのに・・」


そういうと咲子は、僕のあたまを優しく撫でながら


「うん・・なんとなくわかるよ。だって夏海は他人から見たら優等生に映ってるもん。「俺」っていうのもわたしの前や怒ったときだけだもんね」


気づいてたのか、そうか・・ずっと息をひそめて親のいうことを聞いていたのだ。


「夏海・・いままで黙っていたけれどわたし・・魔法が使えるの」

唐突に咲子は僕に向かって言った。


「夏海がいやじゃなければ・・あっちの国にいこうか」

その瞬間、風が舞い僕のからだは宙に浮いた。


「落ちないようにつかまっててね!」

そうして僕らは手をつなぎあちらの世界へと飛び立っていった。




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