第20話 雨音の特殊能力

「ウチの異眼はね……」



右目を閉じて左目だけを開けておく。すると、雨音さんの眼が一輝さんの眼と同じ、青色に変化した。何故この二人の異眼は左右非対称の色でなおかつ二人の色が一緒。不思議で仕方がないが、今は雨音さんの説明を聞こう。



「やっぱり実戦じゃないと説明しにくいな……一輝さん、相手してよ。」


「了解。」



一輝さんと雨音さんは闘技台へ上がっていく。



―――相手ってまさか、立ち会いを!?



雨音さんの戦闘技術もすごいと思ったが、明らかに一輝さんの双剣の方が、雨音さんの拳銃よりも接近戦に向いているのは明らかだ。そんな一輝さんに接近戦を挑むなんて……



「じゃあ、行くよ。」


「はーい。」



気の抜けたような返事を返す雨音さん。拳銃を逆手に持ち、腰を落として構える。その刹那、一輝さんが無防備な雨音さんの首元にまるで閃光のような一撃を放った。



―――あんなの避けられるわけがない!



しかし、驚いたことに雨音さんは必要最低限の動きであっさりとそれを避けてしまう。一輝さんのナイフの軌道と雨音さんの体の距離は一センチも無かった。


一輝さんは顔を引き締めると次は二連撃の攻撃。上と下に切り分けているにも関わらず、当たるどころか掠りさえしない。



「ほっ!」



そして、遂に雨音さんから攻撃に出た。拳銃を持っている方で一輝さんの胸に拳で一撃。鈍い音が鳴って軽く体勢を崩す。攻撃を受けた一輝さんをよく見てみると眼が青に光っていた。これは瞬間移動の方の異眼だ。


一輝さんの視線が雨音さんの後方にある。一秒ほど見つめていると、一輝さんの体がブレてなんと雨音さんの後ろに現れた。



「はあっ!」



この攻撃なら防ぎようが無いはずだ。上方からの斬りおろし。容赦の無い攻撃が雨音さんに襲いかかった。しかし、まるでそれを予想していたかのように雨音さんは後ろを即座に振り返った。一輝さんの重い一撃を拳銃の遊底部分で受け止めて、いとも簡単に弾き返す。


そして引き金部分を利用して持ち替えた拳銃から弾丸でのカウンターの一撃。なんと一息に五発。胸に当たった五発の弾は一瞬で一輝さんの防護膜の耐久値を全て吹き飛ばして決着が着いた。


決着が着いたことを確認すると両脚のホルスターに拳銃を押し込んで俺と凛の前にやってきた。後ろから一輝さんも着いてくる。


凛はと言うと、口をパクパクさせて驚愕の表情で雨音さんを見ていた。驚きのあまり声も出ないようだ。


そんな凛を見てニコッと笑うと、雨音さんは説明を再開させた。



「こんな感じ。ウチの異眼は見たものの動きを完全に予測することができるんだ。次の行動のイメージが視界に現れるの。」


「全く……簡単に言ってくれて。おかげて私は歯が立たないんだからな。」



少し拗ねたように言う一輝さん。そんな一輝さんを見ながら雨音さんはクスッと笑った。



「一輝さんだってウチに対抗する術はあるでしょ?赤い方使ってウチの武器、破壊すれば良いんだから。それに次の動きが分かってても体がついて行かなかったら意味無いしね。」



ということは雨音さんに対抗する術は高速での連続攻撃にあるのか。でも一輝さんならそれぐらい容易かと思われる。もしかして、わざと連続攻撃を使わなかったってこともあり得るのかな。



「どうした?戮。」



考え事をしているとそれに気がついたのか、一輝さんが話しかけてきた。意を決してさっきまで考えていた仮定を話す。



「あの、雨音さんの異眼に対抗するには高速の連続攻撃が有効ってことになりますよね。それも雨音さんが避けられない程に速い。」


「うん。そうなるね。それで?」



目を輝かせて、次の言葉を待つ雨音さん。まるで自分の弱点を暴いて欲しいかのように。



「一輝さんなら双剣ですし……高速技を繰り出すのは容易いかと思われるのですが。さっきそれを出さなかったのはわざとですか?」


「よく気がついたね。そうだよ。」


「もし一輝さんが本気の本気を出してたらウチ、十秒ぐらいで肉塊にされてるよー。だって速いんだもん。」



肉塊って……



「物騒なこと言わないでよ。私が雨音にそんなことするわけないだろ?」


「そうだね。一輝さんは優しいから。」



雨音さんが一輝さんに寄り添う。一輝さんはその腰に手を回して自分の方へと引き寄せた。


この仕草……もしかしてこの二人も付き合って居たりして。



「あの……非常に申し上げにくいのですが……」


「なに?どうしたの?」



凛がおずおずと雨音さんに話しかける。もしかして付き合っているのか聞くつもりなのか!?



「もしかしてお二人って付き合ったりしてます?」



ビンゴ。質問を受けた雨音さんは白々しく凛から目逸らし、一輝さんは顔を真っ赤にして目を見開いていた。



「な、何故分かった!?」


「なんとなく雰囲気で。」


「ほらー、ちゃんと隠さなくちゃダメだよ。」


「先に寄ってきたのは雨音だろ?」



くしゃくしゃと乱暴に雨音さんの頭を撫でる。それに目を細めながらも抵抗して一輝さんの腰をペシペシと叩く。



「そう言えば、戮と凛も付き合ってるんだよね?」


「へえっ?」



つい間の抜けた声が出てしまった。これこそ、いつの間にバレたんだろう。一輝さんと雨音さんのようにくっついたりしては居ないはずなのに。



「い、いつ気がついたのですか?」



若干慌てたように凛が一輝さんに聞く。



「気がついたのは凛が戮の手に自分の手を絡めていたところかな。」



仮想訓練が終わった直後のあれか。まさか、見られていたなんて痛恨のミスだ。隣の凛もあっちゃー、という顔で俺のことを見る。



「そうですね。俺らは付き合ってます……と言ってもつい、最近のことなんですけど。」


「そうなんだね。ちなみに私達は付き合って五年くらいになるよ。」



五年か……二人の息がピッタリなのもこれで頷ける。長年の間に培った連携なのだろう。



―――俺らの五年経ったら。この二人のようになれるのかな。

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