第18話 対人戦闘訓練
「戮。」
何者かに体を揺さぶらて現実世界に復帰した。目を開けると眩しい光が一気に襲ってきて、つい目を閉じてしまう。
もう一度目をそっと開けると、俺を揺さぶっていた張本人の凛が隣に座っていた。凛も目をこすっていてまるで寝起きのようだ。逆の隣には一輝さんが居て俺のことを見つめていた。
「はい、おはよう。どうだった?仮想空間は。」
「そうですね……」
体を軽く動かしてみたが、現実で本当に戦闘したかのような心地良い疲労感が体に残されていた。さっき左肩に攻撃を受けた場所の感覚も残っている。
「まるで本当に戦ったような疲労感を感じます。」
正直にそう言うと、一輝さんは愉快そうに笑い凛を指差した。
「君たちって本当に息が合うね。さっき凛も全く同じことを言ってたよ。」
驚いて凛を見ると何故か、凛は嬉しそうに顔を少し赤くしていた。そして一輝さんに見えないように自分の手を俺の手の上に乗せて絡める。
「一輝さん。本題。」
雨音さんが一輝さんの服の袖をキュッと握りながら、上目遣いで見つめる。すると何故か若干顔を赤くした一輝さんは慌てたようにこちらに向かって振り返った。
「ん?ああ、ごめん。それじゃ、えーと……今日から一週間までにさっき倒したレベルの魔獣を一人一匹倒せるようになってもらうから。」
「一人一匹!?」
「一週間で!?」
これは想定外のセリフで、思わず声を上げてしまう。凛もその跡に続いて素っ頓狂な声を出した。驚きのあまり、凛は握っていた力を強める。
「そうだよ。ウチも一人で倒せるようになるまで時間がかかったからね。……一輝さんは最初から出来たみたいだけど。」
「うーん。私は幼少期から戦闘訓練積んでいたからなー。慣れと言うか、経験というか。」
ポリポリと頭を掻きながらまるで言い訳のように雨音さんをなだめる。そんな一輝さんは自分に付けられていた機械を外して、箱から出した双剣を腰に装備し直す。
「ま、とりあえず頑張って、二人とも。この機械はいつでも使えるようにしておくから。」
雨音さんも箱から対物ライフルを取り出して、背中に背負う。そして俺たちに向き直った。
「それじゃあ、次の訓練ね。装備を整えたら教えて。」
そう告げると一輝さんと会話を始めた。何やら真剣な顔つき。二人のことを待たせるのも悪いので、急ぎ足で準備を始める。
「準備が完了しました。」
「はい。じゃあ、ウチに着いてきてね。」
先導にしっかり着いていく。しばらくの間歩いていくと、雨音さんがある扉の前で立ち止まる。掛けられた札には対人訓練場と書かれていた。その扉を雨音さんが開く。開いた扉を一輝さんが押さえてくれているので礼を言って先に中に入った。
部屋の中には中心に闘技台が設置されている。これは寮の修練場にあったものと同じで防護膜が使用出来て怪我をさせなる心配が無いもの。そして、木剣の貸出施設。これは一体?
そんなことを考えていると、一輝さんが前に出てきて説明を始める。それに身構えつつ、真剣に聞く。
「お次は対人訓練。どうやら最近、魔獣だけでなく人型の魔族が目撃されたみたいなんだ。……あ、これは将官以上だけの機密ね。」
「それで、お互い接近戦の腕を磨く為に訓練をしているんだ。」
なるほど。未知の生物への対策として対人訓練をするらしい。でもライフル使いの雨音さんはどうするのだろう。
「一つ質問宜しいでしょうか。」
隣で右手を上げて質問する凛。どうしたのだろうか。
「どうしたの?」
「雨音さんは遠距離タイプですよね。それでも接近戦の訓練をするのですか?」
気になっていたことをビシッと質問してくれた。雨音さんはその質問を聞いた途端、レッグホルスターから自動拳銃を取り出す。
「ウチはこれで接近戦をするんだ。」
「まさか拳銃でですか。」
「そ、試しにやってみる?」
ニコニコと笑いながら拳銃を凛に向ける雨音さん。それを見た凛は遠慮なく。と言わんばかりに槍の準備を始めた。
「ルールはどうしたら良いですか?」
「何でも使っていいよ。奥義でも必殺技でもドンドン使ってね。」
闘技台の縁に行って防護膜起動のスイッチを押した。すると機械の起動音と共に二人のことを防護膜が包んだ。
「では、行きますね。」
「うん、どうぞ。」
凛が間合いを詰めるために地面を思い切り蹴った。それを見た雨音さんが拳銃で凛の進撃を食い止める。足元に華麗に拳銃を連射。弾丸により、地面が穿たれて破片が飛び散る。丁度穿たれた場所を踏んでしまった凛は一瞬だけだが、バランスを崩してしまう。
その隙を雨音さんは見逃すはずがなく、拳銃を手にしたままなんと前に躍り出た。いとも簡単に凛の懐に侵入することに成功。そして拳銃を逆手に持ち替えてそのまま拳で勢いよく凛の腹を殴打。
顔を歪ませた凛は持っていた槍を縦に一回転させようとする。これは俺との組み手の時に見せた技。
「――はっ!」
通常通りなら槍の石突が顎に命中するはず。しかし、なんと雨音さんはサイドステップでそれを軽々と躱す。驚愕のあまりか、凛が目を見開いた。
その後、顔を引き締めて雨音さんとの距離を詰めようと凛がを踏み出そうとした。しかし、体が動いていない。
何故かと思い、凛の足元に注目して見るといつの間に発射したのか、足元が完全に凍りついていた。これのせいで凛は動くことが出来ないのか。そんな凛の額に銃口を当てて、弾丸を撃ち出した。ドンッと嫌な音がして凛の防護膜が消え去って決着がつく。
「はい、そこまで!」
一輝さんが雨音さんを止めると、雨音さんがレッグホルスターに一丁だけ拳銃を仕舞う。そして残った拳銃を凛に向ける。
「はーい。」
のんびりとした返事をすると、雨音さんが凍りついたままの凛の足に拳銃を向けた。一体どうするつもりなのか、思わず腰の長刀に手を掛けてしまう。
「大丈夫だよ。」
サッと右手でこれを制す一輝さん。俺が動きを止めると雨音さんが凛に向かって弾丸を発射した。弾丸が凛の足を覆っている氷に命中すると一瞬だけ赤い光が瞬いて氷が溶ける。
「ありがとうございました。」
凛が雨音さんに一礼。そこからゆっくりと上げた顔は少し悔しそうに見えた。
「うーん。なかなかやるね。凛。雨音に属性弾を使わせるなんて。」
「そうなんですか?一方的にやられただけだと思うのですが……」
「雨音の属性弾は奥の手なんだよ。やばいって思ったときだけ使うんだ。」
「だっていきなり槍が縦回転するなんて思わないじゃん。ビックリしちゃったよ。」
やっぱりあの技は初見だと対応に困るらしい。俺は対応出来ずにしっかりと食らったが。
「それじゃ、次。一輝さんと外山ちゃんの訓練だね。」
「私もやるのか?」
「ウチも動いたんだから一輝さんも動いてよね。」
「……わかったよ。じゃ、やろうか。」
一輝さんがまっすぐ俺のことを見据える。威圧感のある瞳。その瞳をまっすぐ見つめる。
一輝さんが闘技台へと向かうのでその後に俺も着いていき、闘技台の中心でお互い向かい合う。さあ、一輝さんはどんな戦い方をするのか。魔獣討伐のときには全く戦闘を見る暇が無かった。
特殊部隊の隊長で戦闘のエキスパート。その実力を肌で感じるチャンス。何処まで通用するのか楽しみだ。
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