第6話 重複

 「息が上がってるぞ集呉郎!」

「やはり人間、限界が早いな。

はやく姿を変えたらどうだ、なぁ!」


「ねぇ、なんで変えないのよ!」

取り囲むアニマル達、縛られ囚われる制服の女。

「…くっ、何でこうなった?」


〜数分前〜


 幼稚園での激闘を終え、安全を確保したのち直ぐの出来事であった。


「貴様、集呉郎だな?

厄介者草美を討つとは中々の腕前。」


「何奴であろうか、名を名乗るという礼儀も知らぬようだが。」

塀にもたれかかり集呉郎共に草美の名を知る男。詳細は分からないが、敵という事だけははっきりとしていた。

初見で既に奴の身体は、獣の皮膚を纏っていたからだ。


「おい、連れてきたぜ?

コイツが例の〝思い他人〟って奴か」


横から出てきたもう一人の獣の男、手元には縄で括った瑠璃の姿が。

「よくやった」

「ルリ殿⁉︎

貴様、何をするつもりだ!」


「喚くなよ集呉郎。

我たちは何もしない、するのはお前」


「分かっているよなぁ、従えよ?」

選択権は無い。

テリトリーに居ても、手は出せない。

「..何をすればいい?」


「利口だな、着いてこいよ!」

言われるがまま跡をついていく他無い

文句を言わず、足を動かすと辿り着いたのは廃屋と呼ばれる不良の聖地。

成る程わきまえている、現代の拘束場所といえば廃屋がベストだ。


「何が目的だ」


「獣になれ、集呉郎」「...何?」


「わからねぇのかよ、獣のなるんだよ

好きな女の前で好きなモノに変われ」

侍の中には姑息な輩も存在する。

一連の戦を見ていたのだろう、頑なに獣に姿を変えず苦しむ集呉郎の顔を。

苦痛と理不尽を好むのだ。


「先程も申したが、断る..!」

水を纏う刀の一撃はキリンをも蝕んだ獣に代わる戦術は持ち合わせている。

「おっと、危ねぇっ!」「何?」

あてがった男の腕に刀の水分が吸収されみるみる渇いていく。やがて剥き出しになった刀は腕力に弾かれ集呉郎の身体に衝撃を与える。


「おかしな身体だ..。」


「知ってるか!

ラクダは水を蓄えるんだぜ?」


「力封じか..厄介だな。」

人の腕のみで動物を扱えという事らしい、飼育員は偉大な仕事だ。

「ゆるりとしている暇は無いぞ?」

ラクダの対象に深く頭を使っていると脇から槍が飛んでくる。

改めて目をやれば細く鋭い脚であった

「赤い鳥か?」

「フラミンゴだ!

古い時代のみを生きているお前はわかるまい、現代の生き物の事はな!」


「..格好悪いな。」「なんだと?」

フラの逆鱗に触れた、まさかそんなものがあるとも知らず失敬な事だ。


「こうなれば耐久戦と行こうか!

お前が獣の姿に変わるまで、存分にじっくりと相手をしてやる!」


そして、現在に至る。


「侍さん!

何してるの、ボロボロじゃない!」


「..気に留めるな、心配ない。」

無事である筈が無い。

力は封じられ、一人間のみの腕力では太刀打ちするすべが極端に少ない。


「不思議だろ女?

こいつは頑なにカバになろうとしねぇお前がカバを好きだから、触れるのを無理矢理避けてんだとよ!」


「ウソ、私の為..?

確かに私は貴方が直接ヒポタマちゃんに触れようものならマゲをちょん切って首をはねてるけど、そんな事気にして耐えてたら死んじゃうよ!」


「…結末は同じではないか。」

断固同化する訳にはいかない、仮にも

相棒だが元は人の思うモノ。力を借りても憑依させては思いを砕く。


「諦めたらどうだ?」

「その方が身の為だぜ。..てか女の考えすっげぇ怖いな。」

耐え続ければ光があるかと考えたが凄まじい連携に膝を落としかける。流石共謀して徒党を組むだけの事はある。


「フラミンゴ!」

「ラクーダ!」止め処ない暴力が続く


「侍さん!」


「意識が余り..安定しない。

だから嫌なのだ、戦というものはな」

鋭い脚に水を溜めた腕力の殴打、幾度も受ければ気力を失う。


「ひぼたま...無事か?」


「誰の心配してんだよっ!」

フラミンゴの脚が再び突き刺すと飛び出した矢先、集呉郎の全身が強い流水で覆われ隠された。

「どうしたよ、やる気になったか⁉︎」


「ああ、力を貸してくれるようだ。

..しかしやはりお互いに、領域とやらを干渉させたくはないようだ」

流水が晴れるとその先に立つのは鎧の騎士、ゴム質に似た茶の色彩を纏う水の騎士。プロテクターのようなマスクで顔の上部を多い、握る刀の刀身は、肌と同じ茶の色に染まっている。


「みっともねぇカッコだな!」

「下手に拒んだ事で中途半端に結合したのか、捻くれた連中だ」


「すまぬルリ殿、これでも拒んだ。」

「…なんでもいいから倒してよ!」


「御意..!」

刃を研ぎ澄まし水を纏わせる。

秘歩魂一閃ひぽたまいっせん

神憑水浸斬かみつきみりたりぎり」

茶の色をした刀身に浸る水が白銀に煌き真剣のいろを魅せる。

「馬鹿がよ!

水は吸収されるだろうがっ!」


「お前は無知か?

水は元々人に宿る恵み、刀はそれを拡散させて炸裂させる棒に過ぎぬ。」

魂は元々人に在る、戦をしなければ刀は道具。腰に下げただけの刃物だ。


「これは俺の体じゃねぇよ!

ラクダの力を言ってんだ初めから!」


「話が通じんな、人もどき。」

刀が水の源の表面を通る、向こうはラクダの腹と呼んで効かないが水は確実に中に在る。

「ぐっ..痛てぇ..なんだよ、コレ。」

背中のコブが蠢き痛みを伴った後、音を立てて破裂する。ラクダの動力源はこれで断った、後は人の部分。


「何しやがんだよテメェッ!」

「人の話は聞くべきだ。」

ガラ空きの腹を貫いた、光の粒子のように原型を溶かし、現代を後にする。

「おい、これで終わりかよ...?」


「一人。」「ウソ、すごっ..。」


「ふざけるなぁっ!」

急かし焦ると冷静な判断を失う、それは人も獣も同じようだ。

「足蹴にするとは品が無いな」

隙が大きく生まれれば、一撃与えるのみで大方は静まる。逃げの一手は隙から生まれ、確立するのだ。


「ぐっ..。」「他愛も無い」

「ヒポタマちゃんかっけぇ!」

集呉郎を褒めない所、性格が出ている


「同化の御赦しも出たようだな。」

ひぽたま並びに集呉郎、新たな境地へ

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