第53話 出発点
その後落ち着いた一行は、ロビーのソファーに座り事の顛末を話す。
あの後、あの大男を倒して、外に出て知らない場所でこの数日間をかけてここに戻ってきたと。
やはり真実は伝えられなかった、俺が吸血鬼でこの怪異が自分のせいで起きたこと、きっと彼らには騙されたと思われることだろう。特に舞には語る事はできない、彼女こそ俺の都合でこんな関係になったのだ。
俺は存外友人を失うのが恐ろしいのかもしれない。
「にしてもよかったよ、有栖川が戻れて」
「せやな、と言ってもすることないが」
友人お二人さんはそんなことを言っている。
「ところで有栖川くん凪ちゃんはどこ?」
想定していた質問がついに投げられた。この質問により気になっている今この場にいる全員の視線が集中する。怪しまれてはいけない、この大衆の前ではひとつひとつの言動が重要になる。真実を語るにはまだその時ではないのだ。故にバレる事はおろか、悟らせることも許されない。難易度の高いミッションだ。
視線を逸らさず間隔開けず。極々自然に応える。
「凪なら、今は疲れて宿屋で寝ているよ」
勿論嘘だ故にこれが最良の回答のはずだ。 此の街にすらきていない。しかしここで疲れて寝ていると言う、言葉を使うことにより日本人特有の遠慮が生まれる、つまりここで起きる可能性があったら詰み、つまり会いたいと言った趣旨の言葉を無意識化で阻害することが可能。さらに俺に寄せられている日常の中での信頼性と此の場で嘘をつくはずがないと言う楽観的思考のおかげで成り立つものだ。
此の手は高校生という大人なりかけだからこそできることであって、これが小学生レベルだとそうはいかない、小学生は遠慮がないから、居る子もいるがいない子の方が一般的。
「そう、つまり無事なんだね?」
心配が解けたのか、皆質問者につられて安心している。感情は伝染する。今まで俺がいなかった不安心配も伝染していたことだろう。
俺は彼らに心配などしていなかった、彼女が守っていたからだろう。
しかしこれからどうしたものか。如何にかして脱出ポイントを伝えて、極点、南極に行って術を作動させ帰還させなければならない。此の世界に長いは体に悪い。
しかし場所は南極は人類で最も未開の大陸。その航路は危険を大きく伴う。最初に南極に到達したのはそう昔ではない。1911年の年だ。此の時代の科学技術文明力では、寒さに対する策も船もありはしない。猛吹雪の中遭難する可能性も高い。
俺の支援が必ず必要になるのは明白。どうしたものか・・・。
かくして俺たち学生は奇跡の再会を果たした。しかし俺はもうここを離れなくてはいけない。その理由を此の街へ向かう時から考えてはいたのだが未だ思いつかない。
「ハンター全員、東外壁門へ集合だ!」
二階の吹き抜けからこの建物全体に伝わった響くような声は筋肉質な男から発せられた。その瞬間に先ほどまであった和やかな雰囲気はガラッと変わり、一人一人の表情が真剣になる。室内は慌ただしく、人の動きが活発になる。
俺たちはそぞ通り門へと向かった。その間のクラスメイトの顔が妙だった。
門付近に到着すると。そこには箱詰めされた大量の物資が置かれてあり。それらを運ぶ人は目まぐるしく行き来している。
「整列!」
急な号令がかかる。訳もわからずここに来てはいるが、今は周りに合わせて行動していく。
そんなヒロトのことはつい知らず、周りは端からきちんと整列していく。俺もクラスメイトと溜まり何とか列に入ることができた。石畳の踏みつけるガシャガシャという金属音はピタリと止み今か今かと待ち望む集められた者たち。
『今日、この時より国防会議から依頼されたミッションを開始する。敵はサクソン州オスニングの森。長い道のりとなる……それでも俺たちは受けたミッションを完遂させる。敵は強大で手強いだが、これは国を、家族を守る戦いだ』
演説後各班のリーダーが集まり作戦概要の会議が開かれた。程なくして各リーダー達は班の兵に説明を始めていた。
勿論クラスメイトのこの班も作戦会議には参加していたようだ。いつの間に出世したのか。
作戦が全員に伝達される。
作戦概要は、一般的な包囲襲撃になるようだが、場所が場所だけに周りに潜む怪物からの対処が先に行われるようだ。
臨時会議室テント内
「お疲れ様です。ギルドマスター」
「ああ」
隣に並ぶ少し鍛えている男は秘書官のデイク。
「今回の依頼成功するんですか?」
「それは間違いないと思うぞ、今回の件に関してはメテオライト級ハンターに昨日報告書に上がっていた、渡来人が参加しているようだこの戦力なら間違いないだろう……ところであのソロモンとか言う奴は参加しているのか」
「はい、お連れの方はいらっしゃいましたし先ほど届いた名簿には名前は記されていらっしゃると思われるのですが、お姿が見えません」
「そうかわかった、居たら教えてくれ」
「分かりました」
報告書通りなら、メテオライト級を実質動かせないこの作戦では主力になる可能性があるが、未だ入ったばかりあまり信用はできないな。
先ほど届いた名簿を眺めていると誰かが中に入ったようだ。陽光を背に入って来たのは
『運河区』の最高責任者パウル・アンジェイ。いくらハンターが国の物になったとは言え、既存の常備軍であった分の幹部にはそれなりの礼儀を示さなくてはダメだろう。
「アンジェイ殿どうされました!」
「いや、この
彼の人は印象的な眼鏡をクイっと上げて見せ、聞いて来た。
俺たちが邪魔だとでも思っているのか?
俺たちは民間の組織がそのまま国の所有物となた組織だ。勿論今までの建物を利用して今の仕事などを行っている。正規の軍のような駐屯地などの広い敷地を持たないため、恥を買ってまで、外での準備が要求される。
「気を悪くさせたのなら謝ろう、決して
「滅相もない」
「一つ質問のついでに世間話でもと思ってね」
「はい……もうすぐ出発します」
会話が消極的になってしまっている。これでは出世は見込めないな。
「ソロモン、
「───えっ?ソロモン殿ですか?」
なぜ知っているんだ。彼の情報はまだハンター内だけ止まっていたはず。
「
今年一番驚いた正規の軍からは疎まれていると思っていたが。厄介者を押し付けたと考えられなくも無いが、そんなことのために一々言いに来はしないだろう。
「そうだったのですか!しかしなぜ?」
「
「そのように思っていらしたとは……ありがとうございます。」
「いや、気になさらず。それとこれは助言だがフランク訛りは直して置いた方がいいね。そうだこれも、もう少しだけ会話を練習しといた方がいい」
そう言って彼はテントの外へ
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