第54話 覚悟の価値


「ヒロト様如何なさいますか」


 一度クラスメイトの目を盗んでオーストと合流し周囲にバレないように会話する。


「今のところはこのままこの遠征軍と共に基地を目指す。その後基地内に潜入後基地駐屯メンバーと合流そこで実験開始だ。」


 実験と言うと聞こえが悪くなるのが世の常、特に生物を使った実験など非難されることもしばしば。モルモットならまだしも、人間を実験台に使うと言うのは、今まで人間界で住んでいた俺は些か抵抗があったが、それも些細なこと、いくら人間界に住んでいようとも吸血鬼の俺はそう哀れに思っても、倫理的に如何とかは思いもしない。


 しかし彼女はどうだろう、唯一私が愛した人間。彼女はどう思うのだろう。また笑ってくれるだろうか。私があちらに連れ出した過去があっても。


「それでは、私は持ち場に」

「わかった」


 ヴィルジナルは人混みの中へと消えていった。


「ヒロト」


 警戒状態の俺は後ろから呼ばれ物凄いスピードで後ろに振り返る。そこにいたのは、月ヶ瀬 瑠濟だった。


 すらりと細身の人で長い月日を生きたとは思えないほど若々しく、真実を知ってもまだ少女の域を出るか出ないかの年頃と疑うだろう。容姿端麗なことと言ったらこの世に二人といない。こんなにも小さく整った顔は誰とも間違え難い。目鼻立ちは小造りで、色は抜けるように白い。亜麻色、いや、亜麻色混じりの黄金色というべき長い髪は万人を魅了した。その美貌から悉くを手に入れることができながら、我が儘でありながら、多くは望まなかった王。同胞を守るために俺と相対したかつての彼女のまま、その魅力を保ち続けている。それは一重に彼女が人間ではないからだろう。


「久しいな我が従僕、先は皆の前故声をかけはしなかったが、まだ元にこんのでな迎えに来たぞ」

「いつから俺は君の従僕になったんだ」

「そう気にすることはない、これも繰り返された戯れ合いルーティーンと言うやつだ」


 月ヶ崎がいうと何か違う気がする、と思うの俺だけなのだろう長い間共にいて知っている俺だけが。


「それより」


 話変えるのはや!


「元の世界にはまだ帰らんのか?」


「え、ああ帰るのは今じゃない全部終わったら帰るよ」

「そうか、お前がそう望むなら共に居よう」


 まだ共に居ようという彼女は、どこか無関心でこの世界に関してはあまり興味がないのかもしれない。それは彼女が自らの目的や大義がないからだろう。俺のはある彼女を守ることそして真の自由を手に入れる、それももう少しで手に入る。


「……みんなを守ってくれてありがとう」

「礼は無用だ」

「それと、命を奪う行為に抵抗が無かったけど知ってる?」

「アレは私がやった、まだ幼いヒトが命を奪う現実は良くないのでな。それにもう深層意識の方は慣れた頃だからコレも実用なかろう」

 そう言って彼女は手の中にある黒いモヤのようなものを握りつぶした。そのモヤは霧散し、天に上っていく。


 ここは人混みの中、無意識の中で人々が避ける、意識にも上らないほど強い結界。


「あと、ある程度この世界では戦えるようにした、魔術は無理だったが、剣と弓くらいは

使えるから、安心しておけ」

「ありがとう、基地に着いたらもう会うことはなくなるだろうな……マグナティア君はどうする」

「先も述べたであろう、お前と共のいる」


 彼女は何時も俺のそばにいてくれた。

 

 

 

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