第46話 ハンター試験{中編}
俺が生を享けたのは、ヴァルハ=オルレント家と言う貴族の家。
王家の分家であり公爵位の中で最も格の高い家柄である。
父の名はレツセンブルグ公シャルル・ファン・ヴァルハ三代目当主、妻はすでに二人いる。
その家の次男ラモラール・ファン・ヴァルハとして俺は成長していった。髪は父譲りの黒髪、容姿は普通、兄は母譲りの金髪まじりだったのが羨ましいが、兄は俺の黒髪が羨ましいという。
記憶が徐々に戻り初めた七歳の頃俺は親に「官吏の職につきなさい」と、言われた。
そう驚くおことではなかった、中世においてヨーロッパは子供時代と言う概念が存在していなかったそうだ、世界史で習ったことだ。
俺がなれるのは、騎士団・ハンター協会・官僚・入国管理局・軍隊の様々な職があった、この数が就職先にあるのも、貴族としてのコネだろう。
俺の兄は騎士団に入ったとのことだったので、騎士団と連携をとっているハンター協会に十歳で入ると決めた。
十歳になるまでの三年間で主に剣術の所業に励んだ。週に二日帰って来る、兄にも指南してもらい。人前に出ても恥ずかしくないくらいにはなった。
今でもとてもいい兄を持ったと思う、優しく、頭も良い上、美形ときて人望も厚い。期待の次期当主だった。
最近になって思い出したので思ったが、あの老人に言われて生まれていたはずの、レリクセーズ第二帝国ではなく、ルベリア王国だったとういうことだ。あの老人は雰囲気的に嘘をつくとは思えないが…見た目で人は判断できないって言うし。まあ、問題になっていないので追求しないが。
試験当日俺は家族に見送られ試験へと望んだ。
室内に入る前から緊張していた。前世でも就職試験は受けたことがない、この緊張感を味わうのは、はじめてだ。
試験が一向に始まらない、何でもまできていない受験者がいるとのことだった。それが非常識である事は、わかる筈だが、なぜ遅れているのだろうか?
外が少しざわつくと、扉が開き三人の女性が入ってきた。先頭を歩く人は中性的な見た目だが、きっと女性だろう。あまり目を向けすぎると変に思われてしまうと思い俺は机に向かうことにした。
まずは試験会場となる島へと移動するらしいが、その移動する用の船がなんとも見窄らしい。
勉強した中には、大航海時代はとっくに来ていて、つい最近入った情報だがアメリカ大陸らしきものも発見されたそうだ。
そのため、こんな古い船が出るのは些か、不自然だ。
ヴァルハはそうは思いながらも、重い足を運び船上に乗った。
出航して間もなく、大半の受験者が慣れてきだした頃嵐はやってきた。船を覆い被さんとする高波、マストが軋むほどの強風。どれをとってもこの船に乗る人に恐怖を与えるには十分だった。高波に煽られ、至る所ではどこかに掴まってみな嘔吐している。その中にも仲間を気遣う若年の男性や最初から冷静な女性三人、そして俺はこの波もなんとか乗り越えていた。
その時、今日一の高波と強風が船を襲った。
甲板の手摺りに捕まっていた小太りの男が宙に放り出された。
俺はとっさに動き、手を伸ばす。
「っう!」
なんとか足を掴んだが、今度は俺がいや、俺もピンチだった。足が船から出ているのだ
「うわ‼︎」
高波立つ海面が、俺たちを喰らわんとする怪物に見えた。
視界がブレる足が一気に掴まれ引っ張られた。
そこに立っていたのは女性三人の最初に入ってきた人だった。
「ありがとうございました!」
先程俺が足を掴んだが小太りの男が例を言いにきてくれた、遠心力で、俺よりも少し離れたところに戻されたらしい、幸い怪我はないようだ。
「本当にありがとう」
と言った後彼はスタッフのいる室内へと入って行った。きっと棄権するのだろう。
先程の女性はその男を見ていた、この人は彼をどう思うのか気になった。
俺も彼に見習ってお礼を言う。
「ありがとうございます。助けていたただいて」
彼女はこっちを向いて答えた。
「気にするな、君の行動に便乗したまでだ」
そう言った彼女は一つ付け補正ようにこう言った。
「それと、私はこうゆう見た目だが男だ」
「……えーーーー‼︎」
確かに中性的だけど。この美少女が男。これはイエス様でも気付くまい。いや、これは変な言い回しだった。
それだけ行って彼女もとい彼は元の位置に戻っていった。
色々あったがなんとか、島に到着した。
最初の試験として生き残りをかけたバトルロイヤルを始めるそうだ。人数は他から来た船の人数を含め総勢約二百人。ここで半分以下まで減らすのが目的のようだ。そしてこの試験をする上での最大のルール島に来て渡された腕にはめるリングは試験の要と言っていい。魔力を込めることで、使用者のちょうどいいサイズに変化し、倒されるか外す意思があればば緩む仕組みになっているようだ。ライバルを倒すと相手のリングを取るそしてそれを最後までキープすればポイントとなる。勿論リングを取られればマイナスポイント、最終結果で失格となる。故に戦いにならないことがない。
一人ずつ三十秒おきに森へ入っていく。俺の番になると俺も森へ入っていく。バトル開始は全員が島への上陸が完了した二分後。
とりあえず俺は、この中でも最年少最初に狙われるのは必然、安全ポジを見つける為中央に向かって走った。
ここでの注意事項を思い出す。
(この島の中では本来のポテンシャルを測るためにも、殺傷がなどの行為が許可されています)と言うものだ。それが何よりも危険。まだ成長しきってないこの体では十分に戦えない。
少し走ると岩が乱立する岩石地帯を見つけた。近くには小川があり、水の確保も出来そうだ。
そこに俺は岩と岩の間にある隙間に入って時を待つことにした。
巌窟に篭ってから三十分が過ぎた頃『パンッ』という乾いた音が島中に響き渡った。最後の人は不幸だったのかもしれない。後が来ない分、待ち伏せにあい攻撃を受けるから。
その時、岩陰の入り口から中に向けって何かを投げ込まれた。投げ込まれたそれは『ッパリン』と音がしたかと思うと白い煙が立ち込めた。
俺は咄嗟に外へ出た。辺りを確認すると岩裏から剣を持った男が一人出てきた。相手が遠距離であったら、今頃体のどこかに攻撃が刺さっていただろう。
しかしこいつはどうやって俺の場所を特定したのだろうか、追ってきたとしか考え付かないが。
「おい坊主、降参するか、俺と決闘しろ」
男が願ってもないことを言ってくれた。決闘は俺の得意分野だ。
「……では、決闘を選択しよう」
「決断が早いな、それでは決闘をしよう。もしお前が負けても命だけは、取らない。俺にもお前くらいの息子がいるからな。親の気持ちはよくわかる」
「そうですか。それはありがとうございます」
二人は離れたところから、少し声を上げて会話をした後、剣を構えた。会話は最小限、こういうのに離れていないが、あまり時間をかけると危険なのだろう。
距離を取り回りを確認する、この男が誰かと共闘している可能性も捨て切れないからだ。
(周りには警戒しておくか)
相手は勢いに任せて切りかかってきた。
周りを気にし過ぎた俺は、少し反応が遅れすれすれで避けて、顔に傷を負ってしまった。
じんと、伝わる刺激は空気に擦れることでヒリヒリとした痛みへと変わる。
俺は手荷物レイピアをいつものように、回転させながら呼吸を整える。
刹那、刺突。自分が一番磨いた技。攻撃において初手は、どの手よりも大事な攻撃であるそれを支配できて、一流の剣士である。
高速の刺突は距離があったために避けられてしまうが瞬時に追尾する。
服を切り裂きその下にある皮膚を傷つける。それでも攻撃は止まらない、後退する男に次次と斬りつける。
無理な追撃をせずに息が切れない程度のところで、攻撃を中断する。
「坊主良くやるな!こんな子供を見るのは初めてだ」
確かにあの翁から貰った力があれば、子供ができないことでも軽々出来てしまう。ゲームで言うと強い成長ボーナスアビリティを得た感覚に近い。
男は言葉を続ける。
「うちの子供もこれくらいできるようになってくれたら、嬉しいな」
男は再度、突進をしてきた。しかし、同じ手は食わない。今は目の前の戦いに集中できている、さっきの様なヘマはしない。
攻撃を交わし、空いた背中に剣を刺す。
俺の剣が追う形となったため深傷にはなっていないが、肩の骨に穴が空いたから大きく肩は回せない。
かと言って油断は出来ない、相手は大人、子供の俺では筋力差が大きくありパワー勝負では負けてしまう。
男は肩を押さえこちらを睨む。
(ッチ。これ以上肩が上がらねぇ。…どうしたもんかなぁ)
突如、男と俺が見合っている。合間に青い炎の柱が立つ。
「やれやれ、マスターに似た空気が一瞬感じたと思ったが違ったか」
森陰から姿を現したのは、長い刀を持つ、漆黒の女剣士であった。
俺は彼女に見覚えがあった。船内にいた女性三人組と勘違いしていた内の一人だ。
「お前は、船の乗っていた子供か。・・・お前はよしみで見逃してやろう・・・そうだな後でマスターにも聞こう」
彼女は男を一瞥すると刀をより一層傾ける。
「起きろ大紅蓮」
刀を抜き構えると既に終わっていた。
神速で進んだ彼女は、男を文字通り微塵切りにしていた。肉は砂同然、血は霧状と化し空へ消えてゆく。
「やり過ぎてしまったな、・・・何だと大紅蓮!私が天然ボケだと⁉︎」
確かにそんな気がする、マイペースという感じだ。先程人が死んだとは思えない場の空気、その事実に俺自身が恐れていた。
「…確かに、これではリングは回収できないな……」
又もや一瞬にして移動し、死体(原型はないが)の近くに立ち眺めていた。
確認するや否や、颯爽と来た森の方へ戻って行った。
その数分後、青い火柱が立ったのは全参加者の知れ渡った。
「早くここを離れるか」
ここは先程の火柱のお陰でライバルが向かってきているはずだ。日本的に言うならば漁夫の利である。
ということでおれは更に島の中央を目指した。
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