第40話 人外との接触

樹海の中、毛の生えた二足歩行の狼、獣人の集団が歩いていた。


「本当に行くんですか、村長」


 村長と呼ばれた者の直ぐ後ろにいる、獣人が話しかける。

 今この集団は、近日に出現した、神殿に赴いている。


「ああ」


 流石にこちらがコソコソ、観察しているだけでは、入手できる情報にも限りがある。そんな怪しい行動をして、バレでもしたら何があるか分からない。だからこっちから赴き、存在を認知してもらい、あわよくば、友好的に済ませたい。


「そこで止まれ」


 横から五人の人間と思われる者に、声をかけられる。


 服にしては相当ゴツい物を着込み、頭から何か被っている。それで目を隠しているような、感じではあるが、筒状のものが一つ飛び出している、あそこから見ているのかもしれない。

 手には、何かこっちへ向けているようであるが何かは分からないが武器と思われる。


「CP こちらデルタ・1 報告を受けていた、獣人の集団に遭遇した オーバー」

「こちらCP了解 各員は周囲を警戒し、その場で待機しろ 以上アウト


 どうやって会話したのか分からないが、全員、武器を下ろした。

 俺たちが周囲を見回していると、ゾロゾロと、人間が集まってきた。中腰の姿勢を維持し、こちらに武器を向けている。

 四方八方を囲まれて、上空には大きな音を鳴らしながら飛び回って、こちらを照らしている。


「だから、朝方に行こうって言ったんですよ、完全に警戒されてますよ」


 そう、今はもう太陽は完全に沈みきっている、こんな暗闇で動くのは、警戒されても無理はない。逆に攻撃を受けなくて幸運な方だ。


 俺たちを囲っているのは、多少の服装や武器の違いはあるが、統一性が取れた、集団。

 兵士の間を通って一人の青年と男性が出てきた。


「はじめまして」

「はじめまして、夜分に申し訳ありません」

「ドイツ語通じるんですね」


 何を言っているか分からず、首を傾げる。


「申し訳ない、こちらの事です。それより、何用で参られたのでしょうか?」

「少しお話しできたらと思いまして。こちらの村の者も少々警戒しておりましてな」

「………そうでしたかそれではこちらへ」


 男性は後ろを向き歩き始めた。

 後ろで見ていた青年はどこかへ消えている。

 男性には尻尾が生えている、間違いなく人間ではない。少なくとも俺が見た人間は尻尾は生えていなかった。周囲を囲んでいた兵士たちも、俺たちの後ろに立ち歩き始める。


「貴方達が住む村はどの辺りに?」


 尻尾男に聞かれ答える。


「私達が来た方向かに少し歩くと着きます」

「ああ、あれですか?あの、丸太で囲った」

「それです」


 何故知っているのか分からないが、動揺せずに、平常心を保つ。


「如何してこんな時間に参られたのですか?」

「我々、セリアンスロゥプは人間で言うところの夜行性でありまして、恥ずかしながら日中は眠たく、そんな格好を見せるわけにもいかず、失礼ながら、夜分にきた次第です」


 嘘である、セリアンスロゥプは夜行性ではない、森の夜は凶暴な生き物が動き出すため俺たちでは、太刀打ちできない、ただの言い訳である。


「……そうでしたか」


 会話をしていると、建物が見えて来た、石造りの建造物、神殿。その前には椅子と長机が置かれている。


「こちらにおかけください」と言った後「総称お待ちください」と言い残し去っていった。

 しかし、周りの兵は健在、半数は居なくなったが、警戒態勢は万全だ。


「俺たちどうなるんですか?村長」

「それは俺にも分からん、しかし待っていれば、偉い人が来るさ」


 獣人、五匹は溜息をつく。

 みっともないので辞めてもらいたい。


「お待たせしました」


 そう言って現れたのは、先程、男性の後ろにいた、青年だ。


「はじめまして、私がここの、リーダーのソロモンです」

「私が村の長、ウィオスムルこちらが順にオゥグス、シュカリフ、ロォウルト、フィルキブです」

「うぃおすむるさんですか?」

「ウィオスムルです」

「ウィオスムルさんですか、発音難しいですね、すみません」

「いいですよそのくらい」

「では、ウィオスムさん、何をしにこられたのですか?」

「我々と友好的な関係を築けたらと思いました」

「そうですか、それは嬉しいですね」

「では!」


 しかし、ソロモンは待ったをかける。


「一つだけ質問を。貴方方は、我々と戦争はできますか?」


 戦い、獣人は好戦的なものが多い、しかし弱いのだ。中途半端な知能、中途半端な身体能力、これは俺が旅をして知った事だ、中には強い獣人の族も居るが、我々はその中に入ってはいない。


「出来ません」


 獣人は一度誇りを捨てなければならない、さもなくば、滅び、絶滅するだろう。

 公明な、獣人が言った言葉だ。彼はまるで人間のような知能を持っていた、時には、ジュウなる物を作ろうと、言っていたそうだ。これも旅で知った事だ。


「それは良かった、であれば私達は、貴方方の仲間になりましょう」

「本当ですか⁉︎良かった。お詫びの印と言っては何ですが、これを」


 ソロモンに箱を差し出す。中にはコバルトで作った、代々伝わる、腕輪がある。


「有難く頂戴しよう」 


 俺たちの仕事は無事終わった。


「では、我々は村へ帰りましょう」

「そうですか、では仲間が帰るなら、兵をつけましょう、ここいらは、大きな獣が出ますから」

「心配なく、我々はこの森に住む身、それしきのことで、貴方のお力を借りることはない」

「そうですか、では御気を付けて」


 一つ握手を交わし、その場を後にする、セリアンスロゥプ。


「これで俺たちの村も安泰ですね」

「そうだな、これからは貿易もできるかもしれんな、そうなれば、村ももっと大きくなるだろう」


 後ろのセリアンスロゥプは目を輝かせている。

 

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