第21話 忠誠

 ヒロトの執務室には先程、地理の確認から戻ったデロギスが見たものの報告を聞く所だった。

 ヒロトの隠し部屋の手前にあるこの部屋は高さ八メートルもある本棚で構成されていた。天まで至るその壁は妙な圧迫感があった。別に部屋が狭いとか、小さく感じるとかそう言う事ではなく、威圧感に近いものがあるような。例えるなら自分自身が小さくなった様な、周囲から抑圧される様な感覚に陥れられるのである。

 無論ここの主たる俺がそんなみっともない姿は晒せないのでちょっとだけ張り切ってみる。


 天井まで届く書棚が壁一面に置かれてある壁は大図書館程はないが相当な数の本が並べられている。

 今俺が座っている椅子はブラウン色に本革シートを使った高級な物で座るだけで沈み込み離れたくなくなる程気持ちいい。

 しかし、今はそんなことを言ってはいられない。


「で、デロギス問題とゆうのは何だ?」


 俺はメッセージで聞いた問題の件について聞く。


「はっ ここ地下基地の五十メートル上空に偵察系の術式が使われた見つかりました」


 ヒロトは驚愕の表情になるが直ぐに冷静になる。

 いつかは見つかると思っていたが、こんなにも早くも見つかるとは思っていなかった。

 予定を早めなくてはならないか


「デロギス、地下基地の警戒レベルを3に引き上げておけ」

「はっ!」

「そういば、ヒロト様、ここより北西に獣人と思われる者の村も発見いたしました」


 ヒロトはこちらに来る前の事を思い出す。

 セリアンスロゥプか普及知識的にはコボルトか。

 獣人は人型と他の動物の外見を合わせ持つ者のことを指す。

 元来ヨーロッパにはコボルトが居るがそれは伝承にある妖精だ。妖精の呪いは厄介極まり無い上、俺もコボルトの実物を拝んだことは無い、しかしここは未知、何が起こるか分からない、警戒は必要だ。


「で?デロギス、獣人共はこちらには気づいていたか?」

「はい こちらには気付いていた様子でした」

「そうか」

「ヒロト様獣人共はどう対処いたしますか?」


 ヒロトは顎に手を当て考える。獣人を配下においてもあまり利点は無いが、無いよりはましか。


「敵対している様であれば攻撃してもかまわん、しかし降伏する様であれば俺が行く」

「はい、そのように下の者にも伝えておきます」


 その時デロギスは真剣な顔に戻り、ヒロトに問う


「ヒロト様! 先程、お伝えしましたように、こちらの位置が何者かにばれています」

「それで?」

「で、ですのでハンターになり街へ行くのは如何なものかと。私が貴方様に意見すると言うのは大変おこがましいことと存じますが何卒御身のお体を思ってのことゆえどうかお考え直しいただけないでしょうか」


 終始からはまっすぐに伝えてきた。ほんの数ミリも体を動かさずに彼は言い切った。額には汗が見える。それほどの覚悟があったことは容易に想像することができた。


「デロギスその気持ちも分かる、しかし俺はあいつ等にまた会う約束もした、それに俺たちは今この世界に関しては、無知なのだ。だから情報収取も兼ねて街に行くのだ、その事は分かってくれ」


 確かにこの世界に関して言えば、赤子の様に無知である、そのためこの回答には頭が上がらない


「申し訳ございません、でしゃばった真似をしてしまい」

「いいさ お前の気持ちはよく分かる。君には期待しているぞ」

「Heil Kaiser」


 彼はあの敬礼をした。右手を斜め上にピンと張り靴の踵を鳴らし。


 心の中でデロギスは決めた。今よりももう一層このお方に一生忠義を尽くし続け、時には武器になり、また時には盾になると。


「デロギス俺は今から準備が終えた後ヴィルジナルと一緒に街に行く。もし何かあったら知らせる様にしておけ」

「はっ承知いたしました」


 ヒロトは席を立ち少し歩いた後振り返り、デロギスにもう一つ伝えておく。


「あ、あと人手が足りない様であれば、セバスティアンか隣に居るペンドラゴンに相談するといい」


 前者の名をセバスティアン・エンシュ・アヴィスだ。この地下基地の全使用人を束ねる執事長、ある種この辺りの区画の最高責任者と言ってもいいだろう ま、違うのだが。


 後者の名をヴィクトリア・ケイオス・ペンドラゴンだ、今はヒロトの左隣に座っている、この者は黄金のように輝く金髪とは反対に全身を黒いドレス?を着てその上に羽織るようにして、コートを着ている(着るならコートに腕を通せばいいのにと思う)。


「心遣いありがとうございます。問題が起きた場合にはそうさせて頂きます」

「では後の事は任せるぞ」

「Sieg Heil」


 また例の挨拶をした彼を最後にヒロトはこの部屋を後にした。

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