幾星霜の悲願

第1話 過去と日常

天壌無窮の果ての狭間

 白い壁白い床、材質は──不明。

 視界全体が真白で何もない空間、その真ん中に少年と人でわないと思わせる程の神々しさが有る女性が立っていた。

「貴方様が、我を呼び出したのですか?」

 俺は、ただあの場から逃げたかったのだ、神以って諳誦したつもりも神掛けてない。

 しかし叶わないと思っていたただの願いが現実の願いへとなったのだ。

 

 生とし生ける全ての人間は皆平等ではない、生まれながらに持つ能力、家庭の質、人種で優劣が決まり格差が生まれる。正義は平等を意味するが、それは平等な人にとっての平等、全ての人の平等ではない、故に平等は最も手に入れ難く、星のように目に見えていても今は決して手にすることは出来ない。

 其処で私は思った一つだけ皆平等のモノがあると。

 それは不幸である、詳しく言えば不幸の数だ、生まれる前子宮に居る時に死んでも百歳で死のうと、不幸の数は同じである、それは果てしなく小さな不幸もあれば大きな不幸もありそれでも一つ、元を辿っていくと数は無限となるからだ。

 それを思い付いたのが十五歳の時だ。

 

 人は不平等だ、この世界は不平等でなければこの世界は決して回らない、社会は不平等なしには、成立しない、それ故に人は争い経験し進歩する。立法者でも、革命家でも、平等を約束するのは、世界を見ていない愚か者か詐欺師だけだ。人は行動を約束できても、感情までは約束できないから。

 

 この世界はどこまで行っても理不尽でどうしようもない、この世の中を知り失望し、嫌悪し、拒んだ。

 

 

 

 彼女の家は山の中腹にあった。

 周りには鬱蒼と樹木が生い茂るばかりでなにも無い。

 お隣に住む幼馴染などと言う憧れや冀望などはとうになく、学校へ行くにしても、出掛けるにしても、最初は独りであり、不便極まりない。

 されど、家から見える海の綺麗なことは、ほんの少しの不服と充分な長閑な想い出がある家だった。しかし、それも夏の間だけの儚い話。

 山中の冬はとても寒くは朝日が多く差し込むが、コレっぽっちも暖かくはなく、そのおかげで朝は体が重い。

お父さんは学校途中まで車で送ってくれるけど、車の窓は霜で隠し、何もしなくともガラスに絵が書けるほどであった。

「ガレージを開けてきてくれるかい?」

 父親が朝食付きの紅茶飲んでいる間に外に出てガレージの門扉を開けるのがこの頃の彼女の日課だった。

 ガレージに繋がっている、扉を開け、真新しいセダンを横目に門扉を開閉するタッチパネルのボタンを押す。いつもの様にタップし、ウィーーーン、と門扉を開ける。

 そんな幾度となく繰り返してきた。彼女の小さいながらも誇らしい仕事が終わった時。

 門扉が開きながら、部屋に光と冷気が差し真相を明るく照らしはするが、寒さは増す。

 自分は目を疑った。

 語らずしてもわかる空気は彼女にも読み取れた。

 部屋の奥にある隅を見た。

 棚に車を整備する鉄の工具とか、壁に掛けられたピカピカのサイクリングバイクがキチンと置かれた密閉空間の箱の中

 一匹の姿は場にそぐわなかった。

 一匹の子猫はガレージの片隅で何かに縋る様に丸まっていた。

 子猫は痩せていた、この中が荒らされていないのを見ると、迷い込んだその時から栄養不足であっただろう。

「かわいそうに」

 哀悼の意を捧げる様な父の声

一昨昨日は一段と雨が激しかった。

 父が帰った後、直ぐに雨風をしのぐためにこのガレージに忍び込んだのだ。この子はガレージで夜を明かし、翌朝、餌にありつくことも出来ず、目の覚めない永遠の眠りについたのだ。

 そう最後に閉めたのは彼だ。

「気にしなくていい──は悪くない」

 遠くなる父の声。

父は言った、この子の運命はこれで変えようが無かった、と結果がどうであれこれが過ちであった。

 白色の子猫の毛並み。白い毛は泥で汚れていた。

 そこにはこと尽きた、命の残像があった。

「・・・?待ちなさい───!」

後悔で心が煽動していたのか、悲哀で混濁していたのか、高校生になった今でも分からない。

 彼女は、こみ上げる涙を一生懸命我慢しながら、幼馴染みの家へと向かった。

 幼馴染は何でもできる魔法使いだった。

 彼女自身『魔法、 、』なんてモノを見たこともなかったし、信じてはいなかった、けれど、そんな普通、 、とは違う基準で幼馴染はそういう存在だと知っていた。私のお父さんも、彼に会って頭を地面につけていた。

 だから。

 そんな彼だからこそ、助けてくれると信じたのだ。

 丘の下にある森の中に彼の家はあった。

 『そのコを運命を変えてと願う』

 彼は彼女に尋ねる。

 助けたいと、彼女は願う。

 彼はお安い御用とういう様な様子で、子猫に手を当て、それが世界の断りを外れた行いでありながら。

 まるで、人が息を吸うかの様にアッと言う間に、彼女の身勝手な願いを叶えてやった。

 

 どうであれ、懐かしく思い出。それは今から十年も前の遠い遠い昔の御伽話。



「ピピピッピピピッ」

 朝の5:00に設定していた、時計のアラーム音で起こされ、仕方なく朝の支度を始めたる。

 こんなにも寝たのはいつ振りだろうか。 時計のアラームには、2019年5月14日と表示されている。

 ベッドの横に設置された液晶版を触りカーテンを自動で開け窓の外を眺めながら背伸びをする。

 カーテンが開き切った窓からは、朝の陽ざしに相応しい暖かさが全身に降り注ぎ完全に目が覚める。

 グレゴリオ暦では五月和暦では皐月、細かくは分からないが二十四節気では小満頃だろうか。

 自分はベッドから降りクローゼットの前で、自動で開く扉をほんの少し待ち開いた所で制服に着替える。

 その後自室を後にし、階段を下りていく。

 顔を洗い、歯を磨いた後、キッチンに立ち朝ごはんを作り始める。未だに起きて来ない妹を呼びに部屋まで行きドアを三回ノックし声をかけた。

「おーい凪」

 返事がないので仕方なく部屋に入る。

 部屋は俺の部屋と同じく大きい作りになっている、最新鋭の家具や機器が置いてある、女の子っぽい物は服以外なく、大体が機能重視と言ったところ、女子にしてみれば珍しい。女子は大抵流行物を選ぶ傾向にあるらしい俺から言わせればあまり得ばかりするものでは無い傾向だ。

 これらは何故か開いているカーテンから入る陽光で自らの存在を知らしていた。

 そこに寝ていたのは妹だ。

 妹は布団をベッドの上から落とし、凄まじい恰好で寝ている、髪はぼさぼさでパジャマも少しめくれ素肌が顔をのぞかせている。学校の時での態度の反動なのだろう。

「おーい、凪朝だぞー」

 と少し大きめに声をかける、すると凪がまだ眠そうに。

「あとちょっとだけ」

 といって落ちかけていた布団に包まった、布団に包まるので布団をはがす。

「いいから早く、起きろ」

「は~~い」

 やっと観念した様で布団を除けベッドの上から降り身形を整え部屋から立ち去る。

 妹の後を追いリビングへ移り、朝食の匂いがキッチンから伝わる。

 先程作り終えていた、その朝食を食卓に並べ一緒に食べ始める。

 妹はそのままの装いで食事を取るつもりらしい。

「「いただきます」」

 今日の朝食はホットミルク、仔羊のロースト、メルバトースト、黒トリュフのスクランブルエッグ、デザートはダークチェリーのガトーバスク、マンゴーヨーグルト。今日もうまく作ることが出来た。

 食べ始める前にすでに付いていたテレビでやっているニュースで話題が変わる。

 『13日愛媛県新居浜市の住宅街で35歳のイギリス人男性が死亡しているのが見つかり警察は最近相次いで起きている連続殺人事件断定して調査を始めました。

 死亡していたのは五日前から日本に旅行中のジーン・オーウェンさんで午後11時頃道端で仰向けになって倒れていたのを近くを通りかかった住人によって発見されました。

 警察によりますとオーウェンさんは手足が引き千切られたた様な跡があり、近くには凶器となる物はなく。所持していたスーツケースも荒らされた形跡はありませんでした。

 警察はオーウェンさんが何者かによって殺害されたと断定して捜査を始めました。

 死因は手足を引き千切られ時の出血性ショック死であり警察は犯人と詳しい殺害方法を調べています』

 殺人事件が起きたらしい、物騒なものだ、それにこの類の事件は三件目だ、ニュースに出ている専門家はこの三件の事件の関連性は非常に高く複数人による殺害の可能性もあるなどと言っている。


「お兄ちゃん、最近物騒だから気負付けてよ」

「ああ、凪も気負付けろよ」


 この家には家族は、今は二人しかいない。なぜ二人だけかとゆうと、今は親同氏が離婚していて、俺と凪も母さんの方について行くこととになり三人で暮らしている、と言っても母さんは、ゲーム会社で働いていて滅多に帰らないから、実質二人暮らしみたいなものだ。母さんはそのゲーム会社の社長もやっている為、たまに手伝いに行くこともありそこでしか最近は顔を合わせていない。


「「ごちそうさま」」


 二人同時に食べ終わり俺ことヒロトは食器の片づけをし終え、学校に行く為のカバンも持ち綺麗に磨かれた革靴に履き替え凪を呼ぶ。


「凪―先行くぞー!」

「お兄ちゃん!ちょっとまってー」

「早くしろー」


 10秒ぐらい待っていたら、階段を急いで降りて来た凪がそのままの勢いで靴を履く。

 そして凪が靴を履き終わり玄関扉を開き、家を出た。


「いってきます」

「い、いってきます」


 凪も同時に準備出来たようで一緒に登校する。

 家の前には車が止めてありそこで学校まで行く。家から学校までは少し遠くいつも途中までは家の車で乗せてもらい、そこから徒歩で登校している。

 車からの景色を眺める、この町は愛媛県新居浜市、工業が盛んで港近くには大きな大手企業の工業区があり道路などはコンテナを運運ぶ大型トラックが行き交って居る。


「にしても、久しぶりだよなー」

「え、なにが?」


 凪に出した質問の意味が少し分からなかったらしく、首を傾ける。


「最近一緒に学校に行けて無かっただろ?」

「そうだよねー、最近お兄ちゃん私のこと置いて行くからねー」


 不満げに言う妹に言ってやりたいが本当の事なので言い返せず目をそらす。

 一緒に登校し守ってやりたいが最近は特に忙しい、仕事然り、あいつ等然り昨日の夜も大変だった、なので少しの間我慢してもらいたい。

 学校の近くまで来たので車を帰らせて、ここから歩いて向かう。


 突然、河川敷を凪と話しながら言っていると後ろから声が聞こえたので振り返る、後ろから追いかけてきたのは、ヒロトの数少ない友達の一人、常盤野ときわの大智だ。顔も良く、結構モテル。そんな奴だ、学校内で身順位が高いくらいに頭が良く授業もまじめに受けているし、何より大手パソコンメーカーの社長の息子だそうで親同士の繋がりも大きい。


「やあ ヒロト今日は妹さんと一緒に登校かい?」


 今日もさわやかに挨拶をしてくる大智は妹がいるに気付ようだ。


「まーな 今日はたまたま一緒になったからな」

「 お兄ちゃん、いつも私の事置いて行くくせに いつもは一緒に行けない、みたいな言い方して誤魔化すの!どうせ私のこと避けているでしょ!!」


 腕を組みプイッと、そっぽを向く。

 凪の機嫌を直す為、ヒロトの反対側を向いて怒っている凪の肩をつかみこちらを向かせる。


「違うぞ、凪! 俺はお前を避けたりしてない! お前の事は大切に思っているし、愛している、それだけは分かってくれ!」


 凪の目を見つめ訴える。今たことはほんとのことだ、嘘でもなければ、からかっている訳でもない、心からの思いだ。


「お兄ちゃん・・・」


 二人話見つめ合い二人だけの空間を作り出す、こんな時に、だ・・・

 そこで掣肘される・・・。


「ゴホンッ えー 朝から盛大な告白はいいから時計を見てくれよー」


 急に冷静になり方に置いていた手を急いで除け赤くなった顔を反らし、スマホの時計に目を向けると。

 時計にはもう7時22分と針が示していた。

 30分迄には教室に入らなければならない事があるため、遅刻しそうなのに気付き三人ともども一斉に走り出す。地面に落ちる葉が視界の邪魔をしながら。

 そんな落ち葉も綺麗で緑色の草が風に揺れながら雨雲が来るのを知らせていた。

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