第110話 作戦会議その2(前編)


「あ、あわわ……あわわ……」


 快楽遊女を隷属させたあと。

 僕たちは依頼完了の報告も兼ねて再び女帝旅団に帰ってきていたのだけど……そこでシスタークレアが顔を真っ赤にして縮こまっていた。


 それというのも――


「じょ、女性は殿方と交わるとあんなドロドロになるんですの!? お、思っていたよりずっと過激な……い、いえ英雄色を好むといいますし下手クソよりはずっと良いのですが……いやでもあのようなガチ子作りはわたくしにはまだちょっと早い……?」

「クレア様、だから見てはダメだと……」


 せっかくシルビアさんが目隠ししてくれていたのに、「見たいですわー!」と大暴れしたクレアさんは事後の快楽遊女を見てしまったのだ。

 その結果クレアさんは大赤面。

 僕は気まずさが天元突破して胃に穴が空きそうになっているのだった。


 この微妙な空気を一体どうすれば……と諸悪の根源である僕が途方に暮れていたところ、


「ま、まあそれはそれとして! エリオ様が勇気を振り絞って自らの生き恥能力を開示してくださいましたし、これで打倒教会の方針が大体決まりましたわね!」

 

 気まずい空気を払拭するように、クレアさんが手を叩いて立ちあがった。

 あ、これ、対教会の作戦会議を強引にはじめてしまうことで空気を変えてくれるつもりだ! と僕は全力でその流れに乗る。


「対教会の方針ですか! 大事ですよね! どんな作戦なんですか!?」

「ええ! 教会の最高戦力である十三聖剣を、エリオ様の性剣で全員ドログチョにブチ犯してしまうのですわ!」

「クレアさん!?」


 あまりにもあんまりなことを言い出したクレアさんに僕は思わず叫ぶ。

 けどクレアさんは羞恥心で頭がおかしくなってしまったかのように止まらない。


「エリオ様の〈主従契約〉スキルは強力な味方を増やせる規格外の代物! さいわい、今代の十三聖剣はなぜか女性が多いですし、これはもう神の思し召しですわ! というわけでこのわたくしが神の名の下に許可します! 産めよ増やせよ種付けよ、ヤったもん勝ちの性戦ですわ! みなぎってきましたわね!」

「あなた本当に〈宣託の巫女〉様なんですか!?」


 ベクトルは違うけど、発言の酷さがコッコロ並ですよ!?


 さてはこの人、事後遊女の衝撃が強すぎてまだテンパったままだな!?


 いやまあ、教会の最高戦力を支配下におくのが手っ取り早いのは確かだけど!

 そのやり方にはそれなりにリスクが……と僕が説明しようとしたところ、


「とはいえ……」


 ぼすんっ。

 好き勝手叫びまくったことで落ち着きを取り戻したように、シスタークレアが椅子に座り直しながら息を吐く。

 

「十三聖剣が教会の最高戦力と言われているのは伊達ではありませんわ。簡単に犯せるものではありません。いかにエリオ様の力が強力無比とはいえ、そこにあぐらを掻いてのゴリ押しは愚者のやり口でしょう」

「……ですね」


 僕と同じ考えだったらしいクレアさんにひとまず胸をなで下ろす。


 序列6位のコッコロ一人と仲良しするのさえ、ペペがいてギリギリだったのだ。

 十三聖剣にはコッコロ以上の戦力がゴロゴロいるうえに、教会は信心深い兵士を多く抱えている。数の力に真正面からのゴリ押しで勝つのは難しいし、下手に〈主従契約〉を乱発してどこかで仲良し隷属のことがバレればそれこそ僕らは世界の敵。


 せっかく〈宣託の巫女〉様が僕たちの正当性を保証してくれているのに「それも隷属スキルで言わせてるだけなのでは?」と思われたら終わりだ。


 つまるところ〈主従契約〉スキルは僕たちの切り札であると同時に破滅の種でもある。

 アリシアの命もかかっているこの局面では慎重すぎるくらいでちょうどよかった。


「というわけで、エリオ様の隷属スキルは対教会の下地が整ったあとのダメ押しか、コッコロのときのように運良く聖騎士を倒せる状況になったときなど、ここぞというときに使うのですわ。それまではわたくしが前々から考えていた方針でいこうと思ってますの」

「以前から考えていた方針?」

「ええ。いまなお教会の権威を拒絶する国々……亜人国家を味方につけるのです」


 クレアさんが珍しく真面目な顔で言う。


「亜人国家はロマリア教を拒絶し続ける異教徒として侵略の第一目標になっていますの。ゆえにダンジョン崩壊のような教会主導の破壊工作も増えているようで、わたくしの危険予知もビンビン。これを見過ごせば多くの犠牲が出るうえに、領土を広げた教会の力は強まる一方ですの。早めに教会の脅威を伝え団結を促し、先にわたくしたちの味方にしてしまうほかありませんわ」


 規格外の武力を持つエリオ様が味方についたいまなら、教会の暗躍を食い止めて亜人国家から信頼を得られる可能性も高くなりますし、とクレアさんは語る。


「そうして単純な兵数や国力でも教会に対抗できる土台を整えてから、満を辞して腐敗した十三聖剣や教会幹部をエリオ様の武力でチン堕ちさせていく。これがわたくしの考える安心確実教会打倒のジャスティスですわ」


「なるほど……」


 言葉選びはともかく、クレアさんの作戦は驚くほどまともだった。

 

 亜人国家には教会がないから、神聖法国の広い情報網も機能しない。

 そこに潜伏しつつ力を蓄え国を丸ごと味方につけるというのは、かなりの良策に思える。

 いちおうは大宗教国家の指導者であるクレアさんならではのスケールの大きい発想だ。


「ただ、この策には大きな賭けが伴いますの」


 と、感心する僕に少しばかり申し訳なさそうな様子でクレアさんが言う。


「亜人国家群は神聖法国と国境を接していて、どこを目指すにしろ必ず教会の勢力圏を数十日単位で横断することになりますわ。〈宣託の巫女〉の予知があればある程度の危機回避は可能ですが、法国領土内ではさすがにかわせる脅威にも限りがありますの。どうしたものか……」


 それはかつて、僕が商人のルージュさんから「教会に追われている」と警告された際に直面した問題でもあった。亜人国家は教会の耳目が届かないけど、その道中でどうしても神聖法国の勢力圏内を通らなければならないというジレンマだ。


 だけど、


「あ、それなら多分大丈夫ですよ」

「「え?」」


 僕の言葉に、シスタークレアと護衛のシルビアさんが声を漏らした。


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 すみません、文字数以前にちょっと情報量が多いので二分割です。

 後編は既に更新済みですので、このままお進みください。

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