第82話 性剣かわかむり
「え、ちょっ、どういうこと!?」
凄まじい威力の攻撃に崩れ落ちる女帝旅団の本拠地。
そのとてつもない光景を前に、僕は混乱の極地にいた。
(あの気持ちの良い迷子おじさんが三大旅団の一角、獅子王旅団の頭領!?)
あまりに唐突な展開になにかの間違いじゃないかと疑う。
けど、
「ぬああああああっ! スキル〈豪欄戦斧〉!」
ドッゴオオオオオオオオオオン!
女帝旅団の敷地内で遠慮なく放たれるその攻撃の威力は破格。
旅団の堅牢な砦がいとも容易く破壊されていく。
さらには、
「なんだこのアホみたいな攻撃は!? ――げっ、獅子王!?」
「敵襲敵襲! 獅子王が攻めてきやがったぞおおおおおっ!?」
「この化け物オヤジが! なに好き勝手やってギャアアアアアアアッ!?」
慌てて出てきた旅団構成員の皆さんが迷子おじさんを見るや顔面蒼白。
口々に「獅子王が攻めてきた!」と叫び、その横暴を食い止めようとしては吹き飛ばされていった。
ちょ……!? 本当の本当に獅子王本人!?
いやけど、それはそれでおかしな話だ。
獅子王旅団はサンクリッドを統べる三大旅団の中でも比較的良心的な部類。
それはトップを務める獅子王の影響が大きいらしく、抗争相手の本拠地に単身突撃とか無茶苦茶をするような人じゃないと聞いていたのに。
……あ、でも、
(女帝旅団が腑抜けた云々って言い分からして、弱ってそうだから一気に潰しに来たとかはありうるのか……!?)
僕とアリシアの命令により、最近の女帝旅団は牙を抜かれ一気にクリーンな集団になった。それを急激な弱体化と捉えたとしたら……あり得ない話じゃない。
ならこの騒ぎは、女帝旅団から牙を抜いた僕の責任ってことに……!?
「オラアアアアア! 女帝と狂犬はここまでやって出てこねえのかあ!? 噂通りガチで腑抜けたというなら、ここで討ち取ってやろうかああ!」
言って、獅子王はずんずん敷地内に踏み込んでいく。
その進行方向は女帝旅団の中枢――ステイシーさんたちの居住区だ。
「ま、まずい!」
女帝旅団2トップであるステイシーさんとリザさんは現在、仲良し大運動会の影響で気絶中。足腰もまともに立たなくなっており、抗争なんてできる状態じゃない。
女帝旅団が弱体化しているという獅子王の勘違いは、この瞬間だけ大正解なのだ。
「ま、待ってください!! 女帝たちはいま出かけてるだけなんです!」
だから僕は慌てて獅子王を止めに入った。
短い間ながら笑顔を交わし合った相手。攻撃するのは躊躇われたため、まずは説得を試みる。だけど、
「ん? なんだ少年、まさか女帝旅団の関係者だったのか? それは悪い事をした。だがこれも巡り合わせ。この旅団が潰れたあとはうちに来るといい! スキル〈剛毅爆砕〉!」
まったく聞く耳を持ってくれない!
そしてそのままステイシーさんたちのいる居住区のほうへ強力な一撃を放とうとする獅子王に、僕も腹をくくった。
「男棍棒!」
ビキビキビキズアァ!
股間から飛び出すのは、〈淫魔〉スキルで急激に硬く大きく膨らんだ僕の男根。
超重量の鋼鉄をアダマンタイトで包んだ最硬の棍棒だ。
ガゴオオオオオオオオオオン!
強力な打撃武器と化した僕の男根で、獅子王の一撃を受け止める。
「う、ぐううっ!?」
凄まじい威力に僕は目を剥いた。
レベル265に達した〈淫魔〉の膂力でも全身が軋む。
その一方、獅子王は僕以上の衝撃に襲われているようだった。
「ぬっ!? その年でレベル260の〈豪魔戦士〉であるこの私を止めるだと!?」
獅子王が驚愕する。
しかしさすがはベテラン冒険者らしく動揺は一瞬。
「女帝旅団め、ずいぶんな隠し球を……だが私は止まらんぞ。腑抜けたという女帝どもの顔を拝むまではなぁ!」
「っ!」
すぐに体勢を立て直した獅子王は攻撃を続行。
強力なスキルを次々と叩き込んでくる。説得の余地は皆無だった。
(〈豪魔戦士〉……ステイシーさんの〈深淵魔導師〉と同じ、聖騎士に匹敵するともいわれる強力な近接特化〈ギフト〉だ。止めるには完全に気絶させる他にない!)
「やああああああああああっ!」
〈淫魔〉の膂力をフル活用。
男棍棒の大きさと形状を瞬時に変化させ、全力の一撃を獅子王に叩き込む!
「ぬっ!? ぐおおおおおおおっ!?」
確かな手応えとともに獅子王が吹き飛んだ。
これで倒せるかはわからないけど、かなりのダメージが入ったはず。
そう思い、追撃を仕掛けようとした直前。
「ぬうううっ! 変幻自在の魔剣に凄まじい膂力! 太刀筋も素晴らしい! 少年、君は本当に人族か!?」
「なっ!?」
平気な顔をして立ち上がった獅子王に僕は絶句した。
どういうことだと思っていれば、獅子王はそれを察したように「不思議か?」と不敵に笑う。
「スキル〈衝撃緩和【特大】〉。そして〈魔力防御【強】〉だ。この2つがある私に生半可な近接戦で勝てると思うな!」
「ぐっ!?」
再び突っ込んできた獅子王に迎撃を加える。けど獅子王が言ったように何度強力な打撃を加えてもろくに効いていなかった。このままだとジリ貧だ。
(くっ、〈魔力防御〉もあるってことは、レジーナと同じでアダマンタイトの斬撃も効きが悪いか!? 有効打になるとしたら魔力防御を貫通できる男根剣・煌だけど……人に使ったら火力の調節ができなくて焼き殺しちゃうよ!)
相手がモンスターなら火力全開でねじ伏せられる。
けど相手は人間で、しかも悪人とは言えない人だ。
かといって手をこまねいていたらステイシーさんたちが危険……と獅子王の攻撃をギリギリでいなしながら懊悩していたとき――カチャン。
腰に下げていた聖剣が防具にぶつかり音を鳴らした。
その瞬間、
(っ! そういえば)
極限状態の頭が天啓を閃く。
(不壊武器である聖剣は耐熱性もピカイチだったはず。加えて持ち主の魔力を伝達する能力も飛び抜けてて……)
一度も試したことのないアイデアだ。
加えてこれは、憧れの聖剣を穢す行為に他ならない。
けど、これしか女帝旅団を守る手がないというのなら――
「そらどうした少年! もう終わりならとっとと道をあけてもらおう!」
動きの止まった僕に獅子王が突っ込んでくる。
そんな彼に、僕は腰から抜いた聖剣を振るった。
次の瞬間、
「ぬっ!? ぐああああああああっ!?」
獅子王が悲鳴をあげ、大きく後退した。
鎧に包まれたその身体に、熱で溶けたような大きな傷が走る。
「……っ!? 私の〈魔力防御〉が強引に引き裂かれた!? なんだその剣は!?」
獅子王が驚愕とともに僕がふるった聖剣を凝視する。
土壇場での思いつきだったけど……どうやら実験は成功したようだ。
なにをしたのかといえば、僕はウェイプスさんに打ってもらった聖剣の一部を、自分の男根で包み込んだのだ。そしてその状態で男根剣・煌を発動させた。
すると聖剣は炎熱の威力を抑えた状態で、熱に含まれた魔力はそのまま伝達。
〈魔力防御〉を貫通する威力を備えたまま、殺傷力を抑えた形態を実現したのだ。
「男根剣・煌――応用形態〈
それがこの新しい聖剣の名前だ。
聖剣を最悪のかたちで汚してしまったのはなんかもう言葉にならないんだけど……とにかくこれなら獅子王を殺さず止められる!
「これで終わりだあああああっ!」
「ぬうううううっ! こしゃくなあああああっ!」
男根剣・煌の魔力消費は、豪魔結晶の恩恵があってなお激しい。
僕は一気に勝負を決めるべく、まだ余力を残した獅子王へ全力で斬りかかった。
――その瞬間。
――ボンッ!
「ふぇ!?」
僕の視線の高さが、急に変わった。
え!? これまさか変身スキルが発動してる!?
勝負に集中しすぎて余裕がなくなったから!?
いやでも、だったら誰がこんなときに強烈な思念を!? と困惑していたところ、
「……なっ!? 少年の姿が、変わった……!? …………え?」
僕の目の前にいた獅子王が、愕然とした表情で動きを止めた。
その瞳に映るのは――この世のものとは思えないほど筋骨隆々のイケメンになった僕で。
え? と僕の頭の中が真っ白になったその直後。
「まさか……苦節二十年……こんなところで運命の相手に出会えるとは……!?」
トゥンク……
獅子王が意味不明なことを言いながら僕の手を取り跪く。そして、
「一目惚れだ。この身を一生捧げる。どうかこの想いに応えてほしい」
「ちょっ、えええええええええっ!?」
獅子王の熱烈なプロポーズに、僕は絶叫して逃げだそうとした。
が、その直前。
――ボンッ!
「え?」
獅子王の姿が謎の光に包まれた。
かと思えばその体がみるみる小さくなり――
「おおっ、一部を除いてもとの姿に戻れた! 道に迷っているところを助けられたことといい、やはり君との出会いは運命だ! さあ交尾しよう!」
獅子王が、角の生えた絶世の美少女に変身していた。
――――――――――――――――――――
カオス回。
そして次回は説明回です。
(「もどして」「もどさないで」どっちの声も受け付けております)
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