第81話 仲良しマッサージのその後と道案内


「…………………………………やっちゃった」


 アリシアによる仲直り大作戦が発動してから3日後の昼。

 我に返った僕は部屋の惨状に言葉を失っていた。


「あ……ひ……❤(ビクンビクン)」

「エリオのアソコ……だいしゅきぃ……❤❤(ビクンビクン)」


 巨大なベッドの上にはリザさんとステイシーさんがぐったりしており、時折身体を痙攣させながら完全に意識を失っていたのだ。


 気を失ってなお蕩けきったその表情はとても幸せそうだったけど、ダンジョン都市を支配する女傑の威厳は完全に消滅してしまっていた。


「み、3日連続で仲良ししまくるなんてどう考えてもどうかしてた……絶対にやりすぎだよ……! いろんな意味で!」


 い、いやまあ、なんかもう途中からリザさんもステイシーさんもドロドロに甘えまくってきたり、色々アレな宣言したりで、アリシアの仲直り作戦は大成功だったんだけどさ!


 そしてこの惨状を生み出した首謀者であるアリシアはといえば――


「すー、すー」


 もの凄く満たされた表情で穏やかに眠っていた。

 仲良し大会の途中、何度も気絶したステイシーさんたちに代わって全体の半分くらい僕と仲良ししてたとは思えない穏やかさだ。


「ダンジョン攻略でレベルアップしてから、アリシアの夜の体力がさらにアップしてるような……」


 伝説級の〈ギフト〉を持つアリシアはどこまでパワーアップするのだろう。

 そんなことを考えてふと背筋が寒くなるけれど……いまはそれより。


「宿の予約は今日の午後までだったし、早く色々と片付けちゃわないと!」


 僕は大慌てで諸々の後始末に奔走するのだった。




 客室の片付けを終えたあと。

 リザさんとステイシーさんは3日間ぶっ続けの反動か、なにをしてもまったく起きる気配がなかった。

 そのため僕は1人で女帝旅団の本拠地を訪れたあと、〈現地妻〉を発動。


 主従契約を結んでいるリザさんとステイシーさんをそれぞれ2人の自室に瞬間移動させ、服を着せてからベッドに寝かせておいた。ついでに体力回復作用のあるポーションも飲ませておいたので、高レベルの冒険者である二人ならこれで多分大丈夫だろう。


 アリシアは「元いた場所」が宿のベッドの上になっていたので、こっちも同じ要領で宿に戻しておいた。


 そして僕は諸々の後処理を終えたあと、女帝旅団の本拠地から歩いて宿へと戻っていた。


「本当は〈現地妻〉で帰ってもいいんだけど……3日間も引きこもって仲良ししまくってたせいか、なんか感覚がおかしいんだよね……」


 人の往来がある街中を歩いていると、なんというかこう、「まともな人間性」が戻ってくるような気がする。なのであえて徒歩を選んだのだった。


 それに、歩きながらちょっと考えを整理しておきたいこともあったしね。


「ステータスオープン」


 念じながら自分のステータスプレートを表示する。するとそこには、



 エリオ・スカーレット 14歳 ヒューマン 〈淫魔〉レベル265(前回から5up)

 所持スキル

 絶倫Lv10

 主従契約(Lvなし)

 男根形状変化Lv10

 男根形質変化Lv10

 男根分離Lv8

 異性特効(Lvなし)

 男根再生Lv8

 適正男根自動変化(Lvなし)

 現地妻(Lvなし)

 ヤリ部屋生成(Lv1)

 精神支配完全無効(Lvなし)

 自動変身(レベルなし)

 ????

 ????

 ????


「なんか、また????の未発スキルがたくさん出てるんだよね……」


 未発スキルは通常、急激なレベルアップなどの際に出現し、なんらかの条件を満たすことで完全発現するスキルだ。


 けど今回はどうも、急激なレベルアップの代わりに出現したという感じがあった。

 アリシアとリザさんとステイシーさん……〈ギフト〉の格が高くレベルも高い3人と同時に仲良ししたにしては、レベルの上がりが低い。恐らく今回はレベルアップではなく、スキル発現のほうに経験値が作用したのだろう。


「成長するのはアリシアを守ることに繋がるから大歓迎なんだけど……なんだかまたろくでもないスキルな気がするし、自動変身や主従契約のときと同じで気をつけとかないと」


 と、そんな風に考えを整理しながら宿へと続く路地裏を歩いていたときだ。


「あー、んー、ぬううううっ?」



 盛大な唸り声が聞こえてきて立ち止まる。

 声のするほうへ目を向けてみれば――そこにはかなりガタイの良いヒューマンの男性が立っていた。

 街に来たばかりなのか全身を旅用のローブで覆っているけど、その上からでもわかるほど逞しい身体だ。


「今度こそ一人でいけると思ったんだが、地図というのはどうしてこうわかりにくいんだ……ぐぬぬ、しかしこのことはまだ部下にも秘密だし――むっ!」

「え」


 なにやらブツブツと呟いていた男性が僕の存在に気づいた。

 かと思えば急に近づいてきて、


「少年!」

「うわっ!?」


 ガッ、と肩を掴まれてびっくりする。

 しかもローブから覗くその顔はかなりの強面。

 年齢は40代ほどで、急に近づいてきたそのいかめしい顔に少し圧倒される。

 するとそのおじさんは弱り切った顔で口を開いた。


「少年、君は地図が読めるか?」

「え……? ま、まあ人並みには」


 瞬間、おじさんのいかめしい顔がぱっと華やぐ。


「そうか! いや実は道に迷っててな。人に聞こうにもあまり目立ちたくなく……というかいつの間にかこの人気のない路地裏から抜け出せなくなって困ってたんだ。この×印の場所に行きたいんだが案内を頼めないか?」


 言いながらおじさんが地図を差し出してくる。

 教会や商会などの主要公共施設が目印として書き込まれたこの街の簡易地図だ。

 ×印の位置は……多分ここからそう遠くない。

 

「ええと、このくらいの道案内なら大丈夫ですよ」

「! そうか! 助かる!」


 そうして僕はその変なおじさんの道案内をすることになったのだけど――


「……むっ。なんだか甘い香りが……」

「あれ!? ちょっ、おじさんが消えた!?」


 道案内早々、おじさんが消失した。

 慌てて辺りを探すと、おじさんは大通りの屋台にふらふらと引き寄せられていて、両手に大量のクレープを買い込んでいた。


「なにしてるんですか!?」

「え? あ、いや、甘い香りがしたからつい……あれ? ここはどこだ?」

「そんなことだから道に迷うんですよ!」

「ぐぬ……ま、まあそうカッカするな少年。ほら、駄賃代わりだ。私がおごるから君もこのクレープを食え。美味いぞ!」

「もう……次から気をつけてくださいね」


 おじさんにバシバシと乱雑に肩を叩かれて呆れながら、僕は道案内を再開した。

 そして――


「――おお! ここだここだ! 私が目指していたのはこの建物だ!」


 目的地に辿り着いたおじさんが目を輝かせて歓声をあげる。

 それから僕の手を握ってぶんぶん上下に揺すりながら、


「本当に助かった! クレープとは別にこのお礼は必ずさせてもらうから、時間があるときにでもこの紙に書かれた場所を訊ねてきてくれ! 話は通しておく」

「どういたしまして」


 強面に似合わない笑顔で真っ直ぐに謝意を伝えられ、つい照れてしまう。

 甘味の匂いに惹かれたおじさんが3回ほど消えて大変だったけど……こうも素直に喜んでもらえると案内して良かったと思えてくる。


(ちょっと豪快で適当だけど、なんだか気持ちの良いおじさんだな……それにしても)


 僕はそこで、道案内の途中から気になっていたことを訊ねた。


「あまり詮索するのもアレですけど……こんなところに一体なんの用なんですか?」


 である大きな建物と高い塀を見上げながら僕は首をひねる。

 するとおじさんは「ああ、大したことじゃないんだが」と言いながらローブを脱いだ。


「え!?」


 その下から現れたおじさんの装備に僕はぎょっとする。

 それは見るからに超一線級の鎧。そして巨大な戦斧だったのだ。

 

「ああ、少年は危ないから早く帰っておくといいぞ」


 そしておじさんは驚く僕を手で追い払うような仕草としつつ――その巨大戦斧を思い切り振り下ろした。


 瞬間、


 ドッッッゴオオオオオオオオオオオオオオン!


 破壊の嵐が巻き起こった。

 鼓膜が破れそうなほどの轟音。吹き飛ぶ塀に割れる地面。

 その攻撃は塀から距離のある女帝旅団本拠地本邸にまで届き、一部が崩落。

 その衝撃に「なんだ!?」と女帝旅団構成員が慌てて飛び出してくるなか……迷子おじさんが大音声で叫んだ。


「最近腐抜けてるらしいじゃねえか女帝どもおおおお! 獅子王旅団9代目頭領、シルビス・ガーディナイトが気合いを入れに――もとい攻め滅ぼしに来てやったぞおおおおっ!」


「えええええええええええっ!?」


 大気を揺るがす迷子おじさんの咆哮に、僕は負けず劣らずの悲鳴を漏らした。


 ――――――――――――――――――――

 誰得おじショタだと思ってたんですが、なんかこのおじさん大抵の女性キャラより可愛げがあるような……。


※2021/10/14 描写を一部削りました

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