第58話 穴比べ


「――というわけで、僕とアリシアはしばらくダンジョン都市サンクリッドに潜伏するから。どのくらいになるかわからないけど、最低でも数ヶ月……下手したら年単位になるかかも」


 ルージュさんのところでダンジョン都市へ向かうと決意したあと。

 僕とアリシアはレジーナのいる仮宿へと戻り、諸々の事情を説明していた。


「瞬間移動スキルがあるからちょくちょくレジーナ経由でこの街には戻ってくる予定だけど、基本的にはダンジョン都市のほうで過ごすことになると思う。主従契約の効果があるから大丈夫だとは思うけど……僕がいないからってギルドの人たちにあんまり迷惑かけちゃダメだよ?」


 長くこの街をあけることになるため、いちおう魔族であるレジーナにはそう念押ししておく。と、その直後だった。


「ずるい! ずるいずるいずるい!」

「っ!?」


 それまで大人しく説明を聞いていたレジーナが、突如ぶんぶんと腕を振り回しながら叫び始めた。何事かと思っていると、


「妾だって主様の側にずっといたいというのに! 首に鎖を巻かれて連れ回されたりしたいというのに! ダンジョン都市といいウェスタール村とやらへの遠征といい、なぜいつもその人間の小娘ばかり一緒に!」


 どうやら自分だけこの城塞都市にいつも置いてけぼりなことにご立腹らしかった。

 

「い、いやそれは仕方ないよレジーナ。今回の遠征は教会から身を隠すためだし……そもそもレジーナは各地の復興協力のためにこの城塞都市から離れられないんだから」


 というか仮に一緒に連れていっても首に鎖を巻いて連れ回したりしないよ!

 教会に追われてるとか関係なく憲兵さんに捕まっちゃうでしょそれ。

 と、ワガママな箱入り娘みたいにダダをこねるレジーナを僕は必死になだめる。


 けどレジーナの癇癪はすぐには納まらず、その矛先はアリシアに向いた。


「……おい、調子に乗るなよ人間の小娘が。思えば貴様は最初からずっと主様の隣を独占してばかりで気にくわなかったのだ。いいか? わかっておらぬようだからはっきり言うが、同じ奴隷でも妾のほうが立場は上なのだからな?」


 奴隷ってなに!?

 と僕はレジーナのその誤った認識を修正しようとするのだけど、


「……エリオの一番は私だよ」


 奴隷という部分にはなんの疑問も挟まず、アリシアが食い気味にレジーナの言葉を否定する。さらに、


「……仲良しの回数だって圧倒的だし。もう三桁は軽く超えてるし……私とレジーナじゃあ、確かに格が違うよね」

「ちょっ、アリシアなに言ってるの!?」


「な……っ、ぐっ、三桁……!? そんなにたくさん主様に嬲ってもらっているなど羨ましいっ」


 アリシアの赤裸々な告白にレジーナが怯む。

 けどレジーナはすぐに体勢を立て直すと、


「は、はんっ、三桁がどうしたというのだ。それはもうむしろ飽きられる寸前ではないのか? オスというのは常に新鮮なメスを求めるもの。まだ数回しか嬲られていない妾のほうがメスとして格上と言えるだろう。……ですよね主様❤ 主様の一番は妾でございましょう……❤」


「いや、僕の一番はアリシアだけど……」


 よくわからない言い争いだったけど、そこだけは譲れないので即座に答える。


「はうっ!? ❤ くっ、そんな厳しい主様の態度が妾を狂わせる……!」


 するとレジーナは僕の言葉に身をよじり、恍惚とした表情で息を荒げた。

 無敵かな?

 

「くぅ、主様の言葉は絶対……だが納得いかぬ! そうだ、こうなれば妾とその小娘を主様の手で同時に嬲っていただき、どちらが良いか確かめてもらおうではないか! そうすれば奴隷としての格付けはこれ以上なく白黒はっきりつくのだからなぁ!」


「なんでそうなるの!?」


 なにやら対抗心を燃やしすぎておかしくなっているらしいレジーナに僕は全力でツッコミを入れる。だけど、


「……望むところ」

「アリシア!?」


 レジーナと同様に謎の対抗心を燃やしているアリシアが扇情的に服を緩めながら即座に応じた。好戦的すぎる! 


「……ルールは、どっちがたくさんエリオに満足してもらえるか」

「よかろう。貴様のようなメスに妾が負けるはずがない」

「待って待って待って待って!」


 僕を放置してどんどんヒートアップしていく二人を必死に止めようとする。けど、


「……エリオ❤」

「主様❤」


 ――好きなほうを好きなタイミングで好き勝手に無茶苦茶にしていいよ❤


 そんな熱の籠もった瞳で押し倒されては振りほどくことなんてできなかった。さらに、


「……エリオは、強くなりたいんだよね? だったら私たちと仲良くするのが、一番手っ取り早いと思うよ?」

「……っ」


 耳元で囁かれたアリシアの言葉に僕は固まった。


 アリシアとずっと一緒にいたいと願うなら、戦闘力は必須だ。

 仮に僕が帝国一の聖騎士と名高い父さんくらい強くなれば、教会や帝都から逃げ切れる可能性はぐっと高くなる。


 いやそもそもそれだけ強くなれば、各勢力に『アリシアと平穏な生活を送りたいだけ』と主張し交渉する余地さえ生まれるだろう。武力は我を通すためにとても便利なものだから。


 そういう事情もあり、僕はアリシアだけでなく僕自身の成長も促したくてダンジョン都市行きを選んだ。

 諸々のリスクを差し置いてなお、いまよりさらに強くなることは急務だったから。


 けど――


「そのためにアリシア以外の女の子と仲良くするっていうのはちょっと本末転倒気味じゃない!?」

 

 とはいえ……レジーナとは既に不可抗力で仲良ししてしまっているし、僕が他の女の子と仲良くしているところを見ると興奮するというアリシアもご覧の通りノリノリだ。


 そうなればもう抵抗する口実もなくて……


「ちょっ、まっ、二人ともそんな同時に……ア――――――――ッ!?」


 僕はその日、はじめて二人の女の子と一緒に「仲良し」してしまうのだった。



 その結果――


 エリオ・スカーレット 14歳 ヒューマン 〈淫魔〉レベル220

 

 レベル200なんて超えたら、才能ある聖騎士職でも10レベルあげるのに年単位の時間がかかると言われているのに……。

 3人同時に仲良くするというのはまた経験値に特別なボーナスでも入るのか。

 僕はその一晩だけで18レベルも成長してしまうのだった。

 

 


 ……ちなみにアリシアとレジーナの勝負がどうなったかといえば、


「な、なじぇ……なじぇ人間の小娘風情があんな化け物じみた体力で主様の猛攻を受け止められるのりゃ……(ビクンビクン)」


 レジーナは勝負の途中で脱落。

 大興奮するアリシアの隣で打ちのめされたように朦朧と声を漏らし……ガクリと気を失っていた。


 ――――――――――――――――――――

 真・性騎士のポテンシャルは凄まじいですね。

(この子、ダンジョン都市でレベルアップしていい存在なんだろうか)


 ※次回はいつもどおり日曜日更新ですが、それとは別に2章序盤のあらすじまとめを投下するかもです。それではよいお年を!


※2021/10/14 表現を一部修正しました

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