第52話 亀頭VS亀頭

「アリシア、大丈夫!?」

「……うん、エリオのアソコが守ってくれたから、平気……」


 地面が広範囲にわたって崩落した直後。

 僕は男根剣を柔らかい材質に変化させ、僕とアリシア、それからテレサを包み込んだ。

 金の球盾のクッションバージョンだ。


 そのおかげでかなりの高さを落ちたにも関わらず僕とアリシアは無傷で済んでいた。

 けど僕たちとは違って〈ギフト〉も授かっていないテレサはそうもいかない。

 男根クッションに加えて僕がしっかり守っていたとはいえ、衝撃でどこか見えない部分を痛めていないとも限らない。


 僕は咄嗟に懐から鑑定水晶を取り出し、気絶したままのテレサを覗き込んだ。


「……ふぅ。よかった。テレサにも怪我はないみたいだ」


 水晶に表示された名前と年齢、それから「健康」の二文字に一安心する。

 と、そこでようやく僕は周囲の状況に意識を向けた。


「鉱山の地下にこんな空洞が……」


 そこは地下の隠し洞窟とでも言うべき広い空間だった。

 それもただの空洞じゃない。


 その地下洞窟には、水晶を中心に様々な鉱物が生えていたのだ。

 さらにこの地下洞窟はどこかの水脈と繋がっているのか、広大な地底湖が広がっていた。

 魔力を帯びた鉱物の光を反射し、幻想的にきらめいている。


 と、その光景に思わず見惚れてしまっていたけど、いまはそんなことをしてる場合じゃない。テレサを早く家に送り届けてあげないといけないのだ。


「地表がかなり遠いけど……〈男根形状変化〉でギリギリ届くかな」


 僕はぽっかりと天井にあいた大穴を見上げて呟く。

 少し手間がかかるけど、地面が再度崩落する危険のない位置にある木々にまで男根を伸ばして引っかければ、僕たち三人を引き上げるのは難しくないだろう。


 と、僕が男根を伸ばそうとしたときだった。


「……っ。エリオ」


 アリシアが地底湖のほうを見て、鋭い声を発した。


「なにか、来る」

「え?」

 

 その視線を追って地底湖に目を向けたその瞬間。


「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオっ!」


「「っ!?」」


 地底湖の水面を破り、巨大な影が出現した。

 一体なんだと男根剣を構えていると、


「……!? ロックタートル!? いやでも、なんだこの大きさ!?」


 現れたのは体表を鋼鉄で覆った、鉄鉱石偏食型らしき亀型モンスターだった。

 だけど、その大きさが明らかにおかしい。


 普通のロックタートルの体高は馬と同じくらいのもの。 

 けど目の前に現れたロックタートルは見上げるような大きさで、もたげた頭の高さは貴族のお屋敷にも匹敵する高さにある。

 しかも甲羅だけでなくほぼ全身が硬そうな甲殻に覆われ、要塞のようになっていた。


 一体なんだこいつは!? とテレサの診察用に取り出していた鑑定水晶で目の前のモンスターを視れば、


 ロックタートル:推定レベル180

 長い時を経て巨大化したヌシ個体。



 端的な情報が水晶に表示された。

 

「推定レベル180……!? もしかしてこの隠し洞窟で何百年も人目を避けて成長し続けたってことなのか!?」


 地底湖には独自の生態系があるようだし、ここなら鉱石も食べ放題。

 あり得ない話じゃなかった。


「グオオオオオオオオオオッ!」


 と、驚愕する僕たち目がけてその巨体が突進してくる。

 縄張りを侵されて気が立っているのか、見た目に反して凄い速度だ。


「くっ!? こんなのに暴れられたらまたいつ地面が崩落するか……!」


 慌てて男根剣を地表へと伸ばし脱出しようとする。けど、


 ぶおんっ!


「なっ!?」


 僕の動きを攻撃かなにかと感じたのか、ロックタートルの首が凄まじい勢いで伸びて男根の動きを阻害した。いくら男根剣が一瞬で変形するとはいえ、見えない位置にある木々を探して引っかけるまでの動作を一瞬でできるわけじゃない。


 目の前の怪物を無視して洞窟を脱出するのはかなり難しそうだった。


「アリシア! テレサをお願い!」

「……うん、任された」


 なら洞窟が崩落する前に討伐するだけ。

 僕はテレサをアリシアに預け、男根剣を構えた。


「男根形質変化! 男根形状変化!」


 瞬間、アダマンタイト化した僕の男根が伸び、ロックタートルの首を一閃する。

 けれど、


「グオオオオオオオオッ!」

「っ!? この亀頭、硬い!?」


 切りつけられたロックタートルの首からは鮮血がほとばしる。

 けど物理最高硬度を誇るはずの僕の男根が亀の頭を一撃で切り落とせず、途中ではじかれてしまった。


「そうか……っ、魔力を帯びた鉱石を食べ続けて、身体が魔力防御を展開してるのか……!」


 なら男根剣では相性が悪い。

 とはいえ男根剣・煌は魔力消費が激しく、シスタークレアたちを助けるための移動も含めて〈現地妻〉を4回も使っている現状ではかなり厳しいものがあった。


 けど、アダマンタイト剣で傷が付く程度の魔法防御なら、僕にはまだ打ち砕く手段がある。

 

「グオオオオオオッ!」


 と、その巨大な亀頭を叩きつけて暴れ回るロックタートルの攻撃を避けながら男根剣を変化させようとした、そのときだった。


「がっ!?」

「エリオ!?」


 完全な死角から僕の身体を衝撃が襲った。

 洞窟の壁面に叩きつけられ水晶が舞う。

 一体なにが!? と痛む身体を押してロックタートルのほうを見れば、


「亀頭が、2本……!?」


 ロックタートルの巨大な身体から、2本目の頭が生えていた。

 ……いや、形はそっくりだが、アレは頭じゃない。

 後ろ足の間から生えていることといい、先端に発射口らしき穴があることいい、アレは――生殖器だ。


 しかもその生殖器は本物の頭よりも厚く攻撃的な甲殻に覆われ、明らかに硬度が増している。


「くっ!? 生殖器を武器にするなんてとんでもないモンスターだ!」


 僕は不意打ち亀頭パンチを食らった悔しさを発散するように叫び、再び駆けだした。

 ロックタートルが2本の亀頭を縦横無尽に操り頭突きを繰り返すが、さすがにもう当たらない。そして僕はその合間に、先ほど中断させられたその男根変化を完了させた。


「男棍棒!」


 表面を最高硬度のアダマンタイトに、内部を重い鋼鉄に変化させた打撃武器。

 だがその大きさは、以前とは比べものにならない。

 レベル200を超え各種スキルが成長したことで、超重量の変化が可能になったのだ。

 

 そして僕はそれをレベル200〈淫魔〉の膂力で軽々持ち上げると、


「どっちが硬いか、勝負だ!」

「グオオオオオオオッ!」


 なぜか男のプライドをかけるような気持ちを胸に、2本の亀頭を振り下ろすロックタートル目がけ全力で男棍棒を振りかぶった。瞬間、


 バギャアアアアアアアアアッ!


 ロックタートルから生えた巨大な2本の亀頭が、真正面から粉砕された。



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