第50話 ウェスタール村
ウェスタール鉱山。
それは地下を走ると言われる魔竜脈の影響で、鉄鉱石や魔石を中心に様々な金属が産出する特殊な山だった。
なにが特殊かといえば、それらの金属が地表近くに生えてくるのである。
普通、鉱山といえば鉱物を探して地中深くを掘り進んでいくのが普通だ。
けどこの鉱山周辺では地下の魔力に押し出された金属が野草のように地表へと顔を出すため、危険を冒して地中を掘り進む必要がなかった。
鉱脈を掘り当てるのと違って一気に鉱石を採取することはできないものの、その代わりとして比較的安全に鉱物資源を採取できる変わった鉱山なのだった。
そしてウェスタール村はその麓に築かれた開拓村。
鉱山から日々産出する金属の恩恵を受け、かなり発展している集落だった。
さすがに城塞都市とは比べるべくもないけど、ダンジョン爆発騒ぎで壊滅してしまったアルゴ村よりも遙かに大きい。
「わぁ。話には聞いてたけど、村っていうより町みたいだ」
村には採取した金属を加工するための工房なども多くあり、そこで働く人々を対象としたお店もそれなりの数があった。鉱山から産出する金属は通常の鉄鉱石や魔石がほとんどで産出量のそこそこだけど、安定して採取できるというメリットが人を惹きつけているのだろう。
「いやー、いいですわね! これだけ大きな村なら酒場にも期待できますし、どこかに賭場もあるはず! 宿を探す前にめぼしい遊び場を探しておきましょう!」
シスタークレアがお酒の匂いをまき散らしながら上機嫌に笑う。
村に入ったあたりで「表向きは巡礼なので!」とベールで顔を隠した彼女だったけど、なんのカモフラージュにもなってない気がする……。
ま、まあ、いまさらこの人に突っ込んでも仕方ないか。護衛のシルビアさんも呆れたように溜息をつくばかりで特になにも言ってないし……これがいつも通りなのだろう。
「ええと、それじゃあ僕たちは素材採取のための案内人探しからはじめよっか」
「……うん」
シスタークレアと連れだって歩きつつ、僕はアリシアとこの村にやってきた目的――鑑定水晶の素材入手について確認しあう。
鑑定水晶の素材になるのは、ロックタートルと呼ばれる強力なモンスターだ。
こいつは魔力を帯びた石や鉄鉱石を食べて自身の甲羅の素材にするという変わった性質を持つのだけど、数頭に1頭ほどの割合で水晶しか食べない偏食種と呼ばれる固体が現れる。
そうして甲羅になった水晶には、食べた鉱物の性質を取り込むというロックタートルの特性が染みこみ、鑑定スキルを定着させられる特殊な素材に変化するのだ。
ロックタートルの推定レベルは80とかなり高く、水晶偏食種の個体数が少ないことからも素材の入手難易度はなかなかのものだった。鑑定水晶が品切れするわけだ。
そしてこのロックタートルの主な生息地のひとつがウェスタール鉱山なのだけど……これまた一筋縄ではいかない事情があった。
実はウェスタール鉱山は2つのエリアに分かれていて、ひとつはウェスタール村の人たちが日々素材採取に励んでいる安全地帯。
そしてもうひとつは魔力が濃く、強力なモンスターが出現する危険地帯だ。
ロックタートルが生息しているのは当然後者で、村から離れた山の奥深くにある。
そのため案内をしてもらわないと辿り着くのにそこそこ苦労してしまうらしい。
とはいえ村の人はほとんど危険地帯には近寄らないため、案内できる人はごくわずか。
この村には冒険者ギルドが存在しないため、案内人に巡り会うためには酒場あたりで話を聞く必要があるのだった。
なので僕たちはシスタークレアたちと連れだって一緒に酒場を探すことにしたのだけど――
「なんだか村の雰囲気が少しおかしいですわね」
「確かに……なにかあったんでしょうか」
村に到着してすぐ。僕たちはその異変に気がついた。
なんだか村全体が妙に騒がしいというか、随分と浮き足立っているのだ。
一体なにがあったのかと人だかりのほうへ行ってみれば――その広場ではたくさんの怪我人が治療を受けている真っ最中だった。
中には家族との再会を喜ぶかのように抱き合う人たちもいて、かなりの騒ぎになっている。
「あの、一体なにがあったんですか?」
「ああ、地滑りだよ」
近くの村人に訊ねたところ、そんな答えが返ってきた。
「つい今朝方変な地鳴りがしたかと思ったら鉱山の一部が崩落してな。採掘に出てた村の男連中がそれに巻き込まれたんじゃないかって大騒ぎになってたんだ。けど運良く全員が自力で戻って来てな。大怪我してる連中も多いけど、まあとにかく大事にならなくてよかったよ」
「そうだったんですか」
ほっとしたように語る村人の話に僕も胸をなで下ろす。
なんだか随分とざわついてたからまたなにか大変なことになってるんじゃないかと思ってたけど、それならよかった。
「……エリオ、私のスキルで、治療してもいいかな……?」
「あ、うん。そうだね。ポーションも足りてないみたいだし、協力しよう」
と、治療にあたる人々に声をかけようとしたときだった。
「おいバカ! 無理すんな! お前も大怪我してんだぞ!? そうじゃなくても危険地帯に行くなんて無茶だ!」
「止めるな! 行かせてくれ! たった一人の娘なんだ!」
凄まじい怒号が聞こえてきた。
見れば体中に包帯を巻いた男性が周囲の制止も聞かずどこかへ行こうとしている。
その様子は鬼気迫るもので、止めに入る人たちを剣で切り倒して進まんばかりだった。
「ど、どうされたんですか!?」
あまりにも一触即発の雰囲気に思わず止めに入る。
すると包帯の男性が僕を睨み付け、
「邪魔しないでくれ! 俺の娘が……テレサが俺を探して山に入っちまったんだよ! ……うっ、がふっ」
「ちょっ、大丈夫ですか!?」
怪我が思いのほか深かったのか、男性はその場に倒れてしまう。
「……大変」
と、アリシアが慌てて治療しようとしたのだが、
「あんたもしかして治癒スキル持ちか!? なら待ってくれ、いまそいつを治療したら死ににいっちまう!」
「え、それは一体どういう……」
「こいつの娘がいま行方不明なんだよ。村の子供の話じゃ、どうやら父親が行方不明だって聞いて心配のあまり勝手に探しに行っちまったらしくてな……。けど捜索隊がいくら山を探しても見つからなくて、もしかしたら迷って危険地帯のほうまで行っちまったんじゃないかって……それでこいつはレベル40しかねえのに危険地帯に行こうとしてんだ。治療なんてしたらそれこそ死にに行かせちまうよ」
村人が鎮痛な面持ちで告げる。
それから包帯の男性を宥めるように、
「奥さんの忘れ形見が心配なのはわかる。けどまだ危険地帯に行っちまったって決まったわけじゃねえんだ。テレサちゃんはまだ〈ギフト〉も授かってねえんだからそう遠くに行けるわけがねえ。安全地帯と村の周辺をまた探すから、お前は怪我を癒やせ。もしテレサちゃんが戻ってきたときにお前までいなくなってたらどうすんだよ」
「うぅ、テレサ……っ」
けどそんな村人の言葉も男性を安心させるにはまったく足りないようだった。
このままだと身体の限界を無視して死地へ赴くか、精神的にまいって致命的なまでに怪我を悪化させてしまうかのどちらかだろう。
放っておくことなんてできるわけがなかった。
「わかりました。僕が危険痴態まで娘さんを探しに行きます」
「え!?」
僕の言葉に、周囲の村人たちがぎょっと目を見開いた。
――――――――――――――――――――
次回、久々に主人公のおち〇ちんが活躍します!
次々回は多分おち〇ちん戦争回
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます