第40話 燃えよ男根剣!

 大量の魔力を送り込んだ僕の男根が赤熱する。

 凄まじい熱に周囲の空気が揺らぎ、温度差で風さえ巻き起こる。 

〈男根形質変化〉Lv10によって顕現した、燃える男根剣だ。


「なんだその魔剣は……!?」


 アーマーアント・クイーンの魔族、レジーナの表情が驚愕に歪む。

 だがその驚きはすぐに鳴りを潜め、嘲るような笑みが浮かんだ。


「なるほどな、魔力を送り込むことで姿形だけでなく属性まで変える魔剣か。アーマーアントの弱点が火魔法だからと最後の魔力を振り絞り、切り札を切ったわけだ。キシキシキシ。だが甘い。たとえアーマーアントの弱点である火属性であろうと、生半可な魔力で妾の外皮を抜けるものか!」


 言って、レジーナが突っ込んでくる。

 彼女の言う通り、たとえ弱点属性であろうと魔法で強化された甲殻を貫ける保証はない。

 こちらの魔力が弱ければ、結局は押し負けて終わりだ。


 この燃える男根剣が防がれてしまえばもう本当に打つ手がない。

 男根は砕かれ、ここのいる人たちは皆殺しにされ、雲隠れしたレジーナの脅威は凄まじいものになるだろう。


 様々な恐怖が心を塗りつぶそうとする。けど、


「男根剣――煌」


 心を燃やし、アソコを燃やし、僕は〈淫魔〉の身体能力でレジーナに斬りかかる!


「アアアアアアアアッ!」


 アダマンタイトを容易く引き裂くだろうレジーナの爪と、僕の燃える男根剣が激突した。

 次の瞬間、


「な――!? グアアアアアアアアッ!?」


 悲鳴を上げていたのは、レジーナのほうだった。


 金属質の爪が半ば溶けるようにひび割れ、じゅうじゅうと煙が上がる。

 凄まじい温度のこもったアダマンタイト製の男根が、敵の魔法防御と甲殻を貫いたのだ。


「一刀両断とはいかないけど、これならいける……!」


 燃える男根が見せた光明。

 僕は男根を握る手に力を込める。

 

「こ、の……調子の乗るなよ人間風情ガアアアアアアア!」


 瞬間、レジーナが咆哮をあげた。

 

「武装スキル――〈硬鋼閻羅爪こうこうえんらそう〉」


 レジーナの両手から生える爪が急激に伸びる。

 そしてそれは指先から剥がれ落ちると一本にまとまり、一振りの巨大な剣と化した。

 股間から分離して剣と化す男根剣の爪バージョンだ。羨ましい。


「妾の外皮を貫いたくらいで勝てると思うな!」


 叫び、レジーナが切り込んでくる。

 

 ガギイイイイイン!

 

 燃える男根剣とレジーナの大剣がぶつかり合う。

 男根剣と接触した部位が少し溶けるが、レジーナの大剣はそれでも問題なく僕の男根を受け止めていた。

 レジーナが勝ち誇ったような笑みを浮かべる。だが、


「形状変化」


 男根剣に決まった形など存在しない。

 超高温を保ったまま、僕の男根が敵の大剣を包み込むように変化した。

 瞬間――ジュワッ!


 ついさっきまで僕の男根とつばぜり合いをしていた大剣が完全に溶け落ち、地面にマグマの水たまりを作って消滅した。


「は……?」


 レジーナが呆気にとられたように固まる。

 そしてその瞬間を逃す手はなかった。


「隙だらけですよ」


 再び剣の形となった燃える男根剣を、レジーナの身体に叩き込む。


「ガ、アアアアアアアアアア!?」


 今度はレジーナが大きく吹き飛ぶ。

 両腕の甲殻で防がれたせいで致命傷とはいかなかったが、それでもかなりのダメージだったのだろう。

 立ち上がったレジーナは両腕をだらりと下げたまま、信じがたいものを見るような目で僕を見る。


「馬鹿な……馬鹿な馬鹿な馬鹿な! 聖騎士でもない人間風情に、この妾が……!?」


 近接戦は不利と悟ったのだろう。

 レジーナの意思に従うかのように、周囲のアリたちが僕に殺到。

 それと同時に、レジーナが大きく口を広げた。


「スキル――〈溶解蟻酸〉!」


 それはただの溶解液ではなかった。

 僕に群がるアリの群れごと容易く貫く威力、速度の水刃が連射される。

 けど燃える男根剣の前では無意味だ。


 ジュアアアアアッ!


 男根剣の盾を展開すれば、溶解液は刀身に触れる前に熱で蒸発。

 蟻酸攻撃を霧散させ、アリを蹴散らし、僕は再びレジーナへと肉薄した。


「やあああああああっ!」

「ガアアアアアッ!?」


 枝分かれした男根剣を叩き込む。

 全身の甲殻を砕かれたレジーナが地面を転がり、その場に突っ伏した。


「が……はっ……!? 妾が、負けるだと……!? なんなのだ、あの人間は……!?」


 敗北を悟ったのか、その整った相貌が屈辱と怨嗟に歪む。

 あとは僕の魔力が切れる前にトドメを……! と思ったときだ。


「ふざけおって……! 妾がこんなところで聖騎士でもない人間にやられるなど……! ふざけおって、ふざけおって……タダでは終わらぬぞ、こうなれば最後に目にもの見せてくれる……!」


 なにかするつもりか!? 

 まさか自爆系のスキル!?

 即座にトドメを刺すべく、男根剣を瞬時に変化させた――そのときだった。


 痛烈な違和感が僕を襲ったのは。


「なんだ……?」


 違和感の正体はすぐにわかった。

 いままで僕やアリシアに群がっていたアリたちが一斉にこの部屋から逃げ出したのだ。

 女王がやられかけているというのに。

 まるでその女王本人から、女王を守るよりも重要な命令を受けたかのように。


「どうした? トドメを刺さないのか?」


 瀕死状態にも関わらずレジーナが不敵に笑う。

 その態度に「まさか、もうなにかしたのか?」と不気味なものを感じてトドメを刺せないでいたときだ。


『こちら巣穴包囲班のゴ―ドだ! 内部はいまどうなっている!?』


《大空の向日葵》が持っていた連絡用の水晶からギルマスの怒声が響いた。

 そして次の瞬間、聞こえてきた言葉に僕は耳を疑う。


『巣穴から一斉にアリたちが飛び出してきて、人里のある方角へ向かっている! 各地の巣穴を見張っていた観測班からも同様の報告があがりだして……数が多すぎて止められない! こんなことは前代未聞だ! 命令を出しているのだろうクイーンを早急に討伐してくれ!』


「な……!?」


 ゴードさんの悲鳴めいた指示。

 けど僕は動けなかった。

 なぜなら、


「キシ……キシキシキシキシ!」


 異変の元凶たるアリの女王が――アリたちに指示を飛ばしたのだろうレジーナが、トドメを刺される寸前にも関わらず愉快げに笑っていたからだ。


「キシキシキシ……勘がいいな。そうよ、魔族と成った妾の命令スキルの強度は通常のアーマーアント・クイーンやジェネラルの比ではない。妾が死のうと、我が子らは最後の命令を遂行し続ける。『命の限り人里を蹂躙せよ』という命令をな」


「……!」


「所詮はレベル40の雑兵がほとんどの軍勢。聖騎士が動けば我が子らは一匹残らず殲滅されるであろう。だが……聖騎士がいくら強かろうと、各地に散らばったモンスターをすべて瞬時に殺せるわけではない。我が子らの数は全部で軽く万を超える。すべての子らが殲滅されるまでに、一体いくつの村が消え、街が崩壊し、人間どもが死ぬだろうなぁ」


 レジーナが悪辣に笑う。


「だがこれはあくまで魔族の戯れ言。妾を殺せば問題なく我が子らは止まるやもしれぬなぁ? ほれ、やってみるがいい。だが、もしそれで我が子らが止まらなかった場合、取り返しがつかぬなぁ? 貴様は妾と交渉してアリの暴走を止める機会さえ放棄し、人里を危険に晒した大罪人となるのだ。キシキシキシ、さあほらどうした、トドメは刺さぬのか? キシキシキシ!」


 地下空間にレジーナの哄笑が響きわたる。


「くそ……! なんてことをするんだ……!」


 レジーナにトドメを刺すか、刺さないか。

 どちらを選んでも詰んでいる。悪魔の選択だ。


 レジーナにトドメを刺さずに交渉。これはあり得ない。

 どんな無理難題を飲んだところで、レジーナが命令を取り消すことはないだろう。


 ではトドメを刺すべきかといえばこちらも厳しい。

 レジーナのあの勝ち誇った顔からして、殺して命令が解除されるとは思えない。

 仮に命令が解除されたとして……身を隠すのをやめたアリたちはどのみちエサを求めて人里を狙うだろう。


 確実にみんなを助けるためには、レジーナにアリたちを止めるよう命じさせるほかないのだ。どんな手を使ってでも。


 だから僕は――決断するしかなかった。


「……アリシア。頼みがある」


「え……?」


 レジーナの話を聞いて表情をこわばらせていたアリシアに、僕は声をかける。


「後続の冒険者やアーマーアントがこの部屋に入ってこないよう、各通路を見張っていてほしいんだ」


 言って、僕は強い決意とともにレジーナを見据えた。


「僕はいまから禁忌を……あの魔族を犯す!」


「………………………………は?」


 それまで勝ち誇っていたレジーナが、キチ〇イを見るかのような顔で間の抜けた声を漏らした。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る