第8話 スキル検証その2 男根形質変化 男根分離……そして

「男根形質変化」


 ビキビキビキィ!


 僕がスキル名を口にした途端、アソコが岩のように硬くなった。

 うん、率直に言って死にたいですね。


「……わぁ、凄い。岩みたい、というより、岩そのもの、だね」


「ちょっ、アリシア、屋外で触っちゃダメだって……!」


 つんつん。こんこん。

 アリシアが僕のアソコを指先で弄ぶ。

 彼女の言う通り僕のアソコは「岩のように硬い」ではなく「岩そのもの」になっているみたいで、硬質な振動が下半身に伝ってくる。


 けれどどうも触覚は健在のようで、アリシアの柔らかい指の感触に僕は腰が引けてしまった。


 ……ちなみに。

 絶倫スキルのLvが5にあがってから、僕はいま自分の性欲を完全に制御することができている。鎮めようと思えば人並みに、いざ夜戦へとなれば文字通り底なしの精力を発揮することができるのだ。


 そうでなければいまごろ増大した性欲に飲まれて一日中アリシアと仲良し(意味深)していただろうし、いまもアソコをつんつんされたことで色々と爆発していたかもしれない。


 ……とまあ、絶倫スキルの思いがけない効果はともかく、スキル検証の続きだ。

 どうもこの「男根形質変化」はアソコの材質を変えることができるらしい。

 先ほど色々と試したように、僕は様々なイメージとともに「男根形質変化」と唱えてみる。


 すると僕のイメージ通り、アソコが木や鉄といったものに変化した。

 変化速度は「男根形状変化」と同様、ほぼ一瞬だ。

 そこでふと、僕は嫌な予感に駆られる。


「……これ、危ないものに変化したりしないよね」


 今回の検証はスキルの主従契約のような暴発や思いがけない危険性を探ることが主な理由。ゆえに僕の思考は自然とスキルの活用ではなくリスクのほうへと傾いていた。


「男根形質変化」


 と、僕はアソコからアリシアを引き離しつつ、毒や炎、瘴気といった人に害をなすものをイメージしながらスキルを発動させる。


 けれど幸いなことに、僕のアソコはそういった危険物には変化しなかった。

 色々と試したけど、どうも変化できるのは固体に限られるようだ。一安心である。


「けどまあ、Lvがあがったらどうなるかわからないし、これに関してはその都度検証したほうがよさそうだけど……ひとまず次いってみようかな」


 男根形質変化の安全性が確認されたところで、僕は次のスキルに目を移す。

 ある意味で今日一番の問題スキルだ。

 

 男根分離Lv2


 ……うん、まあ、字面から効果の予想はつくんだけどさ。

 僕はアソコに手を添え、おそるおそるスキルを発動してみる。


「男根分離」


 ぽろっ。


「うわあああああああっ!? とれたああああああああ!?」


 僕はその胃がきゅっとするような光景に思わず悲鳴をあげていた。

 予想通り……というか予想以上にあっさりと、僕の男根が根元からもげたのだ。

 生えていた部分は最初からなにも生えていなかったようにつるつる。

 僕の手に落ちてきたアソコは体から離れたにも関わらずドクンビクンと脈打っていた。


 なんなのこれ!? こんなスキルが発現するなんて〈淫魔〉って〈ギフト〉は本当にどうなってるの!? 

 と、僕がその恐ろしいスキルに卒倒しそうになっていたときだった。


「きゃあああああああああああああああああああっ!?」


 アリシアのものではない、女の子の絶叫が森の中に響いた。


「うわああああっ!? 違うんです違うんです! 僕は変態じゃないんです!」


 下半身を露出しながらアソコを分離しているところを見られた!? と僕は肩を跳ね上げる。

 ほとんど反射的にズボンを引き上げ――そこで僕は分離した自分のアソコを握りしめたままであることに気づく。


「うわああああっ!? 元に戻すの忘れてた! というかこれちゃんと元に戻るの!?」


 もう一度ズボンを下げて接合できるか試したいけど、ここでまたズボンを下げたらそれこそ言い訳のしようのない変態だ。

 僕はたたみかける事態にパニックを加速させながら、自分の男根を懐にしまった。


 と、そのときだ。


「……違う。エリオ。この悲鳴は私たちを見つけたからじゃ、ない」


 アリシアが真剣な表情で周囲を見渡した。

 そういえば……アリシアは探知スキルが使えるから周囲に人が近づけばわかるはずだ。

 アリシアの反応が遅れたのは悲鳴をあげた女の子がそれなりに遠くにいるから。

 よく思い返せば、確かにさっきの悲鳴は近くから聞こえたものじゃなかった。


 つまり悲鳴の原因は僕ではなく……


「行こうアリシア!」


「……うん」

 

 悲鳴が聞こえてきた方向へアリシアとともに駆ける。

 いくつかの茂みを突き破ったところで、その光景が目に飛び込んでくる。


「来ないで! 来ないでよ!」


 恐らく僕たちと同世代だろう赤毛の少女がモンスターに襲われていた。

 護衛らしき人たちが地面に倒れていて、少女はその人たちを見捨てられないとばかりに剣を握っている。けれどその両手はぶるぶると震えていて、完全に腰が引けてしまっていた。


 だがそれは少女が戦闘慣れしてなさそうだから……というだけの理由ではないだろう。


「アーマーアント……!?」


 少女に迫っていたのは、レベル40と言われる巨大な昆虫型モンスターの群れだったのだ。深い森の奥に生息するはずのモンスターがなぜこんな街の近くに……という疑問は後回し。

 僕とアリシアは剣を抜き、少女とモンスターの間に割り込んだ。


「アリシア! こいつらは確か皮膚が金属みたいに硬い! 斬撃は剣がダメになるから、柄で打撃攻撃を!」


「……わかった」


「「「ギイイイイイイイイイイイイイッ!」」」


 少女に迫るアリたちの頭に攻撃を叩き込む。

 レベル65に達した僕の攻撃でアリたちは一撃で撃沈。

 アリシアもまだレベルはかなり低いはずなのに、レベル40のアリたちを相手に有効打を叩き込みまくっていた。さすがは伝説級の〈ギフト〉である〈神聖騎士〉だ。


「……え?」

 

 突然の助けに赤毛の少女が呆けた声を漏らす。

 けれどすぐに状況を察した彼女は戦いの邪魔にならないよう護衛の人たちに駆け寄り、安全な場所まで移動させていた。


 よし。

 この調子でいけばモンスターを一掃して負傷者を街まで運ぶだけの余裕ができる。そう思った矢先だった。


「「「ギチギチギチギチッ!」」」


 傷を負ったアリたちが一斉に牙を鳴らす。

 瞬間、僕の心臓がドクンと跳ねた。


 そうだ確か、この群れるモンスターは……と帝都で習った情報が頭をよぎった瞬間。


「グギイイイイイイイイッ!」


 恐らく赤毛の少女を襲っていたアリたちは斥候に近い存在だったのだろう。

 アリたちの緊急警報めいた鳴き声に呼び寄せられるようにして茂みの向こうから現われたのは、さらに十体近いアーマーアントを引き連れた巨大な影だった。


 アーマーアント・プラトーン。


 人喰いボアのボスが、同一種の強個体から選出されるのとはわけが違う。

 そいつはアーマーアントの小隊を束ねる完全なる上位種。

 個体差もあるが……そのレベルはおよそ80だ。


「……っ! アリシア! その子と倒れてる人たちを頼む!」


「……うん、任された」


 守るべき人たちをアリシアに任せ、僕はその巨大な敵影に相対した。

 何本もの大木をまとめてかみ切ってしまいそうなバカでかいアリに、僕は全力で剣の柄を叩き込む。 


 ドゴオオオオオオオッ!


「グギイイイイイイッ!?」

 

 全身全霊をかけた一撃を受け、アーマーアント・プラトーンの巨体が大きく吹き飛んだ。

 木々をなぎ倒し、ズズンと地響きが周囲を揺らす。


「す、すごい……私と同世代に見えるのに……一体何者なの……?」


「……さすがはエリオ。私が押し倒そうとしても押し倒せなかっただけのことはある」


 赤毛の少女が唖然と声を漏らし、アリシアがアリの群れを食い止めながらぽつりと呟く。

 僕もこのレベルになってから初めての全力に、〈淫魔〉ってなんだっけ、と目を丸くしていた。


 だが。


「グギイイイイイイイイイイイイイッ!」


 アリのリーダーは平気な顔をして起き上がる。

 僕の打撃を食らった部分が凹んではいたが、致命傷にはほど遠かったらしい。

 アーマーアントの上位種というだけあり、金属の外殻強度も桁違いのようだ。

 その反面、 


「剣が……!?」


 僕の全力とアリの硬さに耐えきれなかったのだろう。

 かなり丈夫なはずの剣の柄がたったの一撃でイカれはじめていて、あと何度か叩きこめば完全に壊れてしまいそうだった。


「くっ……装備の質が圧倒的に足りない……!」


 僕の剣だって低品質な安物というわけでは決してない。

 けれど明らかに場違いな強さを持つアリたちのリーダーを相手取るにはどうしても強度が足りなかった。


 アリシアが〈聖騎士〉の代名詞である聖剣でも持っていれば話は違ったかもしれないけど、〈ギフト〉を授かってすぐ家出した彼女もそこまで上等な武器は持っていない。


 普通なら逃げ一択だけど……負傷した護衛を抱えて素早いアリの群れから逃げ切れるかどうかは疑問だった。


 こうなればひたすら素手で攻撃を叩き込むか、折れた大木を利用するか……。

 そんな策が頭をよぎるが、いずれも苦肉の策だ。有効とはとても思えない。


「くっ、素の身体能力では負けてないんだから、せめてあの外殻に通用する硬い武器さえあれば……!」


 と、僕が歯がみしたときだった。


 ズアアアアアアアアアアッ!


「え?」


 僕の強い願いに応えるようにして。

 僕の懐――分離男根をしまっておいた辺りから、一振りの剣が飛び出してきた。


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