どこまでも続く真っ直ぐな道の途中、翼の折れた天使をなぜだか拾ってしまった、とあるバイク乗りの旅路のお話。
SFです。とても気持ちの良い終末系SF。本来ならまったく交わることのなかったであろう対照的なふたりの、冒険の旅路というか一種の逃亡劇というか、なんだったらある種のロードムービー的な物語。いやロードムービーという語の使い方があっているかどうか自信がないのですけれど、でもその言葉のイメージがぴったりくるというか。
見渡す限り一面の荒野、ただまっすぐ伸びる直線道路と、そこを突き進む改造ホバーバイク。映画的な画の強さがあって、しかもそれがストーリーをそのまま象徴しているので、物語に入っていきやすい。その上でこの〝道〟が本当にいい仕事しているというか、ただの設定に終わらずテーマ性の部分までしっかり担っていて、総じてものすごく綺麗に組み上げられた物語だと思いました。いろんな要素の使い方がすごい。
まず登場人物が素敵です。彼らのキャラクター性というか、その存在が非常に対照的であるところ。折れた翼を背に生やした少女と、ハードな世界に生きる走り屋の男性。全然違う世界の生き物、というのは実はまったく字義通りの意味だったりして、しかもそれぞれの暮らす世界を象徴するかのような役割を果たしているのがまたすごい。先ほど『終末系SF』と書きましたけれど、実はこのお話にはもうひとつの顔があって、同時にディストピアSFでもあるんです。
まるで天使のような姿の彼女、アインズの暮らしていた『上』の世界。対する主人公ツクモの生きる世界、すなわち彼女の落ちた先は『下』であり、それは『上』からの落下物によってかなり不便な立場に置かれた世界。ある種の格差によって分たれているのは間違いなくて(少なくとも下よりは上の方が安全)、では『上』の世界が幸せなのかといえば、決してそうとも言い切れない——というか、まさにディストピアそのものの管理社会であるという。
この対照的なふたつの世界を、対照的なふたりがそれぞれ象徴して、でもふたりはいずれもその世界の代表でおなければ平均でもなく、むしろイレギュラーにならんと欲する存在であること。そしてそれが故に始まる冒険の、そのきっかけでもありまた原動力でもあるのが、お互いにとってお互いの存在である——という、もうなんでしょう、この構図やら関係性やらのえも言われぬ気持ちよさ!
すんごいです。こういう細かな要素を相対化させることで物事を描き出す手法というか、練り上げられた設定のひとつひとつがもう全部好き。例えば、天上の鳥籠を逃れるために彼女がとった行動が、なんと「翼を折る」だったこととか(普通は翼って羽ばたいて逃げるためのものですよ?)。あるいは無力な少女を手助けするヒーローであるはずの主人公が、でも同時に彼女のおかげで〝道を外れるための力を得ている〟ことも(それも意識的なもののみならず、物理的にも力を与えているからすごい)。こういういろんな要素の逆転やら対比やら、それらがあちこち幾重にも張り巡らされている上に、しまいには相互に連携しあってより強みを増すかのような演出(構造)。
いやもう、本当に気持ちが良かったです。そして書くタイミングがなくて最後になっちゃいましたが、純粋にキャラクターが格好いいのも嬉しい。それもいわゆる『強キャラ』的な格好よさでなく、姿勢や生き様から滲み出る魅力。立ちはだかる世界に打ち勝てるほどの力や異能があるわけでもないのに、でも決して臆せず前を向くふたり。いやふたりでいるからこそ前を向けること。きっとどこまでも進めるだろうし、むしろ進む先がふたりの道になっていくのだろうなと、そんな確信を抱かせてくれる物語でした。本当に爽快! ふたりとも大好き!