第23話 魔力という名の希望

 俺たちが王国へ戻って各々顔合わせや挨拶をした後やり始めた事は皆んなの住む場所の確保だった。俺たちがハーニルに行っている間ゴードンさんとサクリさんで王国内に何が残っているか、どういう状況なのかを調べてくれていたので片付ければなんとか寝泊まり出来そうな場所などはわかっていたものの、物自体は動かせないため手付かずの状態だった。俺達が住むことも含め、本来はここの国王であるガラトスさんに許可を取るべきではあるものの、現状会話すら出来ない状態なので、ゴードンさんの判断で皆ここに住んでも良いということになった。


「一から住むところを作るってのはかなり大変だが、結界で守られてるってのが安心だね」


「この結界は魔王様と互角かそれ以上だった初代様が作り上げたもの。いくらとんでもない力を持っているアーカスといえど、突破することやこの王国の存在に気づくことさえもできないだろう。そういえばハーニルの町で霧の魔法を使って皆を助けたというハーフエルフの女性は、今どこにいるんだ? 彼女と話をしたいと思っていたんだが」


「キャロルならさっき向こうに歩いていくのを見たよ」


「じゃあ俺ゴードンさんが呼んでいることを伝えてくるよ」


「ありがとう」


 俺はコトが指さした方へと向かった。そこはこの王国の中でも特に瓦礫が多いところで、奥へ進むほどより暗くなる場所だった。奥へ進んでいくとキャロルが地面に座り膝を抱えているのが見えた。


「ねぇキャロル。具合悪そうだけど、大丈夫?」


「別に。私のことは気にしないで」


「そんなこと言われても顔色が悪いと気になるよ。何よりこれから一緒にやっていく仲間だしね」


「仲間? とんでもないことが連続で起きてかなり無理やりなった仲間だけどね」


「もしかして俺のこと嫌い?」


「そんなことはないけど……。で私に何の用事?」


「ああそうだった。ゴードンさんがキャロルに話したいことがあるんだって。一緒に来てもらってもいい?」


「あの気難しそうな感じのゴースト? ええ、良いわよ」


 機嫌が悪い様子のキャロルを連れてゴードンさんのところへ戻った。コトは既に瓦礫を片付ける作業に行ってしまったので、その場にはゴードンさんだけが残っていた。


「ゴードンさん。キャロルを連れてきたよ」


「ラルフありがとう。君が霧の魔法で皆を助けてくれたんだよな? 私からも礼を言わせてくれ」


「ここにいる兵士たちには効いたけど、あの化物みたいな兵士たちには効かなかったし礼を言われるほどじゃ」


「キャロル。君はもっと自信を持っても良いんじゃないか?」


「自信なんて持てないですよ。私ハーフエルフで純血のエルフじゃないから魔力が足りなくて化物には魔法が効かなかったし、顔の傷跡だって残るし。純血の人間だったら今頃年齢相応に老けていて、そもそもコウイチに言い寄られるなんてこと無かったわけだし」


「なるほど……。君の言っていること自体は確かに正しい。だが、それと同時に他の側面にも目を向ける必要があるはずだ。君は純血のエルフじゃないから身体を占める魔力の割合が低くて、ペンダントが無くても理性は失わなかったし。純血の人間じゃないから魔法が使えてここにいる兵士たちを救うことが出来た……。違うかい?」


「それは違わないけど……」


「であればもっと自分の良いところにも目を向けてもいいんじゃないか? 完璧なやつなんて人間やエルフ、魔族にも存在しない。光ある所に影があるようにどれだけ完璧に見えてもその裏には必ず弱点があるはずだ。それは我々だけじゃない、コウイチ達やアーカスにもあるだろう」


 キャロルとそれに俺は目を丸くしてゴードンさんの話を聞いていた。コウイチ達やアーカスの弱点を探すのは難しそうだけど、今の話を聞いて少し希望が湧いてきた。


「そこでキャロルには冒険者ギルドの転職の儀式等を行う窓口を担当してもらいたいんだ。私には魔力があるものの、見ての通りゴーストで直接物に触れたりすることが出来ない。故に魔力を込めるということが苦手でね。以前ラルフ達に転職の儀式をしたものの不完全だったようで、最低限のことしかできず得意な事や武器がわからないという状況なんだ」


「ゴードンさんが上手く出来なかったものを、私に出来るかしら?」


「実際にやってみないとわからない部分もあるのだが、今このラクスベルクにおいて最も高い魔力を持ち、物に直接触れるのはキャロル、君だけなんだ。昔からこの儀式は純血の魔族のみしかやってはいけないという決まりがあり、当然のようにそれに従ってきた。だが、その古い決まりや考え方を変えようとしなければ、アーカスの様な強大な敵に立ち向かうことが出来ないと思っている。現にファイスの事を弱いゾンビだと見下し、戦力として数えていなければ、今ここにいる皆は無事でなかったはずだ」


「わかったわ。やってみる」


「ありがとう。ではまずラルフ達にもう一度転職の儀式をやってあげて欲しい。私が1回やっているから最初からやるよりは大変ではないはずだし、得意な事や武器の情報が姿見の書に映し出されれば儲けものという気持ちでやってもらえれば十分だよ」


 俺たちは早速転職の儀式を受けることになったので、前回儀式を受けた場所に皆で集まった。ゴードンさんが見つけた転職の儀式に関して色んな情報が書いてある書物には、色んな情報が書かれていたようでキャロルと共に真剣に本を読んでいて、その様子が微笑ましかった。


「じゃあやってみるわ。ゴードンさん、ここに書いてある言葉を詠唱すればいいのよね?」


「ああ、私がやったときには唱えなかったから、この言葉を詠唱するか否かで結果が変わるのかも知れない。ではやってみてくれ」


 キャロルは俺の姿見の書の上に手を乗せ、目を閉じ大きく深呼吸をした。


「世界を見守る我らが神よ、彼の者が進むべき道と秘められし力を、姿見の書へ書き記し給え!」


 詠唱が終わったと同時に、俺の姿見の書が光り輝き、やがてその光がゆっくりと消えていった。


「おお、これは凄い魔力だ! さっそくその姿見の書を見せてくれないか?」


 姿見の書を開いてみると、以前開いたときよりページが増えていて、今まで無かった内容がいくつか書き加えられていた。


「どれ、まずは私が確認してみよう……。能力は特に記載の変化なし、職業も以前と変わらず村人のまま、得意なことは特になし。これだと全く変化が……。いや、適正武器はちゃんと記載があるぞ。えっ、のこぎり!? 鋸がそもそも武器の扱いになるなんて聞いたことがない! ラルフ、何か心当たりはあるか?」


「鋸……。あっ! 昔村で木材を切る手伝いをした時に初めて使って、上手く切ることが出来て皆から褒めてもらえたことがあったからそれかな?」


「なるほどな。昔この儀式を受けた者たちは冒険者を目指していたこともあり、元々身体能力が高かったり武器の扱いに慣れているものが多かったから、適正武器も剣や斧といった戦闘に適しているものが多かった。しかし普通の村人だったラルフにとっては、それらの戦闘に特化した武器より日常で使っていた鋸の方が慣れているし向いていると。これは初めてのパターンだな。ん? なんだこれは!?」


「ゴードンさん、今度はどうしたの?」


「能力の所に魔力の項目がある……。特別高いとかの記述は無いが、人間のラルフに魔力の項目があるなんて信じられない」


「それってもしかして人間の俺でも魔力を扱えるようになったってこと!?」


「ああ、どうやらそういうことみたいだ。エルフと人間のハーフであるキャロルが儀式をしたからこそなのかもしれないが、これは凄いことだぞ! 今はまだ魔力を扱うことは出来ないかもしれない、だが訓練を重ねていけばいつか扱えるようになるはずだ。魔力に関して0だったのが1になった。凄いぞキャロル!」


「あ、ありがとう」


 思わぬところで魔力が使えるようになり、大きな希望が持てるようになった。

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勇者に改心の一撃を!~僕の世界は異世界の勇者達に壊された~ 若葉さくと @wakaba_sakuto

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