第六話 不始末 2
何故玲さんが、僕と古谷さんしか知らない筈の秘密事を知っているのだろう。
まさか偶然僕達を見つけ、これ幸いと聞き耳を
「ん、だって私その時、君らが話してた非常階段の扉の裏に居たもん」
その真相は思いもよらぬ方向からやってきた。 なるほど気が付かないはずだと納得しつつも、新たな疑問が浮かび上がってくるのも全く自然だった。
「玲さんは何でそんな所に居たんですか」
「何で、って。 私の
一つ問い
考を巡らすほど虚しくなる事は分かり切っていて、しかし敢えて玲さんのペースに巻き込まれた方が余計な詮索をしなくて済みそうであったから、
「玲さんがそう言うほど、いい場所なんですか?」と、僕は彼女の話頭に自ら乗りかかった。
「うん、さすがに冬の間は寒すぎて居られないけど、大の字で寝っ転がれるくらい踊り場が広いし、外枠も高いから風もこなくて今の時期のお昼時だとちょうど太陽が真上にいるからぽかぽかして気持ちいいんだよ。 その場所でお昼食べて、予鈴が鳴るまでお昼寝するのが私の日課なの」
なるほどそういう理由かと納得した矢先、彼女の顔色の雲行きが次第に怪しくなっていく様を、僕は見逃さなかった。
「でも今日は、思わぬ来客に邪魔されて全然寝られなかったんだよねー。
まったく、君たちは何であんなトコで青春ごっこしてたのさ」
どうやら玲さんが僕を呼び出した本来の目的は、日課の睡眠を邪魔された事に対するお小言を僕に食らわせる為のようだった。
しかし言うに事欠いて青春『ごっこ』とは、先輩という立場に
その言葉の意味する
「青春ごっこじゃなくて青春そのものだったんですけど」
その不機嫌極まりない
「へぇー言うじゃん。 だったら何であの子に
しかし玲さんはそうした僕の無礼な態度すらあっさり受け流したうえで僕を
「先輩、寝ようとしてた割には結構しっかり聞いてたんじゃ――」
「おだまりっ!」
「……はい」
重箱の隅をつつく
しかし、偶然あの告白を聞いていたとはいえ、今日出会ったばかりの玲さんにすら、竜之介や三郎太と同様の言葉を言われるとは思いもしておらず、次第に僕の心には
「大体さぁ、悩む必要なんて無いじゃん。 君らなんてまだ高一だし、とりあえず付き合ってみて、もし合わなそうだったらその時は素直にごめんなさいして、次の恋に花咲かすってのが青春ってもんじゃないの?
恋は一度きりなんてルールは無いのに、だから君らのは青春
人の気も知らないでずけずけと言う人だと、僕は下唇を噛んで不服の味を確かめた。
先の『ごっこ』発言といい『男ならば』発言といい、彼女は消沈気味の僕に
次第に、この
「――そこまで言う先輩はこれまでの人生の中で、さぞかし素敵な恋を実らせては腐らせてきたんでしょうね、羨ましい限りです」
「そりゃあまぁ、あれだけ言われて行動も起こせないような誰かさんみたいなつまらない男とは付き合った事はないかなぁ? あ、君ひょっとして、昔恋沙汰で何かやらかしたんじゃないの? だったらその
"何それありえないんだけど――"
どくん、と、僕の胸に不整脈のような強い動悸が流れる。
その動悸は徐々に早く、激しくなってゆき、ついには立っていられなくなるほどの
「ちょ、ちょっとどうしたの急に?! 呼吸荒いけど大丈夫なの?」
玲さんの心配する通り、僕の呼吸は唐突に訪れた激しい動悸の
胸が、苦しい。
次第に視界が狭くなる。
どうして急に、こんな事になってしまったのか。 いや、確かに僕は耳にしていて、そして思い出してしまったのだ。 『あの時』の出来事を。
「ほんとに大丈夫?! 先生呼んでこようか?!」
"ちょっとみんな聞いてよー! 綾瀬って実はさ~!"
「せん……ぱい、は、なれ、て……」
「え?! 何って?」
既に、限界だった。 何とか押し戻そうとしたものの、それは
"気持ち悪いから二度と近寄らないで――"
「――っ!!!」
僕は、玲さんの目の前で
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