悪役キャラがフラグを折りまくって何が悪い?

八八さん

プロローグ

 この物語はフィクションであり、現実の人物や団体とは一切関係がありません。

 また未成年による飲酒・喫煙は法律で固く禁止されています。

 また薬物などは絶対に手を出さないようにしましょう。



 プロローグ


『貴様のような卑劣な奴にこの国は負けない!』

『ふ、たわけよ。すでにこの国は私の手にある。今更貴様に何ができるというのだ、勇者 サーベナントよ』

『何度負けても立ち上がる! お前見たな奴には負けない!』

『ふっ、なら証明してみせプツン・・・』


 テレビに流れていたアニメを消してそっと自分の思索に耽るふける

 この世界で悪役こそが本当のヒーローではないのか。

 正義の味方はいつも残酷で、救える命とそうでない命があるように皆等しく殺し回る悪役がいるとすればきっと平等な悪役こそが正義ではないのか。そんなことを考えるようになった。

 この地球で正義の味方は誰なのか、それはきっと一人一人考えは違う。

 警察官や自衛隊、はたまた消防士なんかもこの枠組みに入るだろう。しかし、人間は所詮人間でしかないのだ。全知全能で強靭きょうじんな鋼の肉体を持ちどんな困難からも人々を守り抜く絶対的な正義の味方であり信頼と愛に溢れた素晴らしきヒーローなんてこの世には存在しない。だから皆、アニメや漫画なんかで自分の理想のヒーローに想いを寄せるのだと思う。

 じゃないと心の拠り所を失い、希望さえも見失って途方もなく一人になってしまうから。

 ―――そんな曖昧なヒーローが僕は大っ嫌いだった。


 冬の奈良は所により積雪を観測し雪化粧を施した山々が綺麗に映える。

 高校二年にもなるとどいつもこいつもやれ受験やバイトなどと鬱つを抜かし気だるげにSNSなどで呟く。俺にとって全く関係ない話でなんの興味もそそらないが強いて言えばスマホなんて可愛い女の子を見たりAVアダルトビデオを見たりするのに使用するだけだ。SNSなんて時間の無駄だ。


 高校二年の十二月の第三週金曜日。

 この日は終業式があり明日から待ちに待った冬休みに入るとあってどいつも皆浮き足立っていた。うちの高校は男子しかいないからみんな他所で彼女を拾ってくるのだろう。

 ―――かという俺も明日は女子大生とデートなんだけどな。ぐふふ・・・。

 そんなことを考えていたからだろうか、廊下からの呼びかけに反応が遅れてしまったのは。

「・・・おい、おいてめぇ。聞いてんのかこのやろう」

「おん?」

 遅れて顔を上げると如何にもヤンキーというフレーズが似合う顔中傷だらけの男が立っていた。右耳には大きなピアスがぶら下がっていて全身にも切り傷や刺し傷が無数にあった。

「俺になんかよーか?」

「テメェか、うちの後輩ちゃん可愛がってくれたのは、ああん?」

 今すぐにも胸ぐらを掴んできそうなその男は唾を飛ばしながら唇と唇がくっつきそうなくらいに顔を近づけてきた。

 こいつヤニ臭い・・・ この前ちょっと叩いた一年のことか?

「お前だろ剛鉄ごうてつ。顔は割れてんだよ」

「人違いだろ。お前の目が腐ってるのが原因じゃないのか」

「あんだどでめぇ!」

 男は激昂げっこうし、いきなり机を蹴っ飛ばしてしまった。蹴られた机は窓ガラスを綺麗に破壊して三階の窓から飛び出していった。廊下を見ればこの男の手下と思しき三年生や二年生やらが三十人ほど集まっていた。

「おい。この窓ガラスは俺が弁償じゃないぞ。お前払えよ」

 実はこの窓ガラスは結構高いのだ。この高校に入学してから数にして四枚割っている俺から言わせればざっと二万はくだらないだろう。クリスマス前に可哀想に。およよよ。

「借りた借りはきっちり返さないとな!」

 男が大きく右腕を振りかぶり俺の顔めがけて拳を突き出してくる。それはあまりにも無駄な動作が多すぎて小学生でも避けられそうなパンチだった。

 俺は座ったまま右足で男の軸足を払いバランスを崩し空を切った拳を踏みつけながら答えた。

「貸したも借りたもそんなやつ知らねーぞ」

 男は転んだ際に鼻を強打したのかうずくまりながら「ぅぅう・・・」ともだえている。

 そして、足を離したすきにズボンの右ポケットに入っていたサバイバルナイフを勢いよく開き俺に向けてきた。

「て、てめぇ、タダで済むを思うなよ。もう殺す。絶対殺す!」

 男は勢いよく俺に飛びかかり首の頸動脈けいどうみゃく目掛けてサバイバルナイフを突き出してくる。

 俺は手刀でナイフをあっさりと叩き落とすと右耳に向けてハイキックを食らわし、地面に倒れた男に近づいた。

「いいか、よく聞け。俺はナイフなんて道具を使う奴が大嫌いだ。次俺にナイフを向けたらお前の股間を切り取る。これはもらっておく」

 そうして俺はそいつの右耳にぶら下がっているピアスを引きちぎるとズボンのポケットに入れた。

 男は「ピギャアアア!」と雄叫びをあげて地面を転げ回る。ピアスを引きちぎられた右耳からはその穴が見えなくなるくらいに血を吹き出している。

「返して欲しかったらまた強くなって挑んでこい。ただ、次負けたらお前の股間を頂く。お前を二度と男として歩けないようにしてやる。わかったか!」

 男の返事はなかったが多分もう一度かかってくるはずだ。三年の奴が二年に負けたなんて面目めんぼく丸潰れだろうからな。

 立ち上がった俺は机に投げ出されたスクールバッグを拾って廊下を一瞥いちべつする。廊下には青ざめた顔の奴や怒気に満ちた顔の奴、今にも泣き出しそうな顔の奴と反応は様々だったが全体に向けて声を放つ。

「いいかお前らもだ。リンチなんて卑怯な真似をしてみろ。お前らの脳天に鉛の弾ぶち込んでやるからな?ぶっ殺すぞ!わかったか!」

 それだけ言い残し落書きだらけの廊下を大股で歩く。

そう何を言おうこの俺は暴走族『月崋山げっかざん』第二十一代目副総長 天音剛鉄あまねごうてつなのだから。

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