第58話 激闘! 新井さん(3)

「あれ……アイちゃんよね……」

 優子はその少女の姿を、プアールに確認した。

 プアールは小さくうなずく。


 その間にも、アイちゃんは両手に持った肉塊を荒々しく口に運び噛み千切る。

 それでも飽き足らないのか、ついに足元の山に顔を突っ込んだ。

 どうやらその山は、先ほどのデカいカエル、新井さんのようだ。


 一体、何がおこったのであろうか?

 新井さんは、プアールを食べようと思って舌を伸ばした。

 しかし、その舌はプアールに避けられた。

 だが、頭についていたアイちゃんを絡めとることはできていた。

 ココまでは、プアールの証言から、確認済みだ。

 ようはその先だ。

 喜び勇んだ新井さんは、大きな口を開けアイちゃんを飲み込んだ。

 そう、パクっとである。

 他の参加者の末路同様、アイちゃんを召し上がった。

 ココまでは新井さんの想定通り。ごちそうさまである。

 新井さんは満足そうに思ったことだろう。

 本当に今日は大量にごちそうにありつけるわ。こんなに食べたら精力つきまくっちゃう。家に帰ったら早速、子作りね! この子達も、弟が欲しいって言ってたし。お父さん! 頑張って! あっ、腰、大丈夫かしら? お父さん、痛いって言っていたし。そうだ、今晩は、私が上に……って、お父さん小さいから潰れちゃうか!

 などと、考えていたかどうかは分からない。


 しかし、ここからが普通の人間を食ったときと違っていた。

 そう、腹の中に入ったアイちゃんが、新井さんの内臓を食べだしたのだ。

 胃にかじりついたアイちゃんは瞬く間に食べつくす。

 そして、そのままかじり続け、ついに腹からヒョコリと顔を出したのである。

 もう、そのあとはアイちゃんのターン! ディナータイムである。

 固有スキル突然変異が発動したアイちゃんは、新井さんに食らいつく。

 かじりついては引きちぎり。

 かぶりついては、飲み込んだ。

 辺り一面、新井さんの肉塊が飛び散っていた。

 それを見ていた、小さきカエルたちは恐れおののき逃げ出した。

 しかし、その時、アイちゃんに異変が!

 そう、大きく開けたアイちゃんの口から舌が飛び出したのだ。

 まるでカエルのように。

 まさに、先ほどの新井さんの能力。

 これは、アイちゃんの突然変異中に獲得される固有スキル、暴食のなせる業だ。

 暴食は、食したものの能力を得ることができるのだ。なんとご都合主義!

 しかし、アイちゃん、マジで強いゾンビだったのか。ヤレバできる子とは思っていたが。まさか、ここまで強いとは。もう、優子いらないんじゃない。


 アイちゃんは伸びる舌で、次々とにげる小さきカエルを捕まえる。

 そして、おいしそうに食べていく。

 もう、それは至福の笑顔。

 ゾンビとは思えない、恍惚とした表情であった。


 優子はつぶやいた。

「もしかして、アイちゃんってカエル好きなのかな……」

 いや……感心するところはそこじゃないだろ。

 感心すべきはアイちゃんの能力! その強さや、スキルではないのでしょうか?

 優子は、何か思いついたように腰が砕けたプアールを見下ろした。

 そして、おもむろにプアールの頭をクンクンとかいだ。

「プアール……あんたの頭ってカエルの様なにおいがするわね」

 プアールの顔面が崩壊していくと、大きな声で泣き出した。

「優子さん……そんなひどいこと言わないで下さいよぉぉ」


「イベント終了!」

 エムシーのアナウンスが町中に響き渡る。

 やはり、先ほどの大きなカエルが新井さんだったのだろう。

 その新井さんがいたと思われる路地の上で、アイちゃんがあおむけに倒れている。

 そのお腹の大きなこと。

 息と共に、げっぷが何度も吐き出されていた。もう、食べられないようである。満足と言わんばかりに、手で腹を擦る。

「ついに新井さんも倒されました。これで終了です。みなさん広場にあつまってください」

 アナウンスが何度も鳴り響いていた。


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【危険! 危険! アイちゃん! 突然変異中!】


氏名 アイちゃん

年齢 6歳

職業 ゾンビ(突然変異中!)

レベル 5 


体力 100→99,999

力 10→839

魔力 0

知力 0

素早 3→931

耐久 100→877

器用 1

運  1

固有スキル 突然変異→暴食発動!

死亡回数 1


右手装備 ビニール袋

左手装備 なし

頭装備  ツインテール

上半身装備 赤い服

下半身装備 赤いスカート

靴装備 赤い靴


攻撃力 15→854

守備力 10→887


所持金 100

パーティ なし

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