第21話 初めての壁ドン(3)

「あんた、異世界人だろ。しかも、どう見ても未成年じゃないか! こんなところで油売っていていいのか」

「はい?」


「あんたにはやるべき使命があるんじゃないのか?」

「はい?」


「あんたは、魔王を倒すという自分が進むべき道を進むべきだ」

「あれぇ?」


「それは、俺の幸せでもある……」

 えっ? これって告白?


 優子の顔がみるみると赤くなっていく。

 まるで発情したサルのお尻のように。


「店の方には、俺が言っておいてやる、だから、あんたは自分がするべきことをしろ」

「ハイ……分かりました」

 優子はチョットだけイケメンの瞳を見つめる。


 すでに恋の魔法にでもかかったかのように上の空である。


「いいか、お代は8千万だけでいいからな。あとは何とかしておいてやる」

 言い終わった瞬間、チョットだけイケメンの顔が少々曇った。


 吹っ掛けすぎたか……まぁいい。

 払えないなら払えないと言うだろう。

 持ち金全部巻き上げるだけだ。

 それでも足りなかったら、風俗に沈めるか。

 まぁ、異世界人の若い女なら需要もあるだろう。

 数年もあれば全額回収できるか。


「ハイ、どうぞ……」

 トロリと溶けたうつろの眼差しの優子は、そっと手を伸ばす。


 あぁ、運命の方とついに結ばれる。

 優子はチョットだけイケメンの手に触れた。


『チャリン! お支払い完了しました』


 チョットだけイケメンの顔が引きつった。


 えっ!?

 8千万もの大金……持ってるのかこの娘!


 チョットだけイケメンは、とっさに優子の前に膝まづく。

 そして胸ポケットから一枚の紙を取り出した。

 人差し指と中指に挟まれた小さな紙。

 それは、自分の名刺であった。


南葉寺なんようじ きょう

 それが彼の名前らしい。


 京は優子を抱きしめた。


「俺には君が必要だ。だから、いつでも、俺のところに帰って来い。他の男のところに行くんじゃないぞ!」

「はい……」

 優子は京の背中へと腕を回した。


 そして、目を閉じ顔をあげる。

 重なり合う唇と唇。


 路地奥に映る街の明かりに浮かぶ男と女の影は、別れを惜しむかのようにそっと離れた。



「これ以上、君といると別れがつらくなる……」

 京は優子の肩をそっと押し、広い表通りへと押し出した。


 優子はうつむきながら表通りに踏み出した。


「これ忘れものだぞ」

 振り向く優子に、スクールバックを投げて渡した。


「明日もまた来いよ! 絶対だぞ! 絶対に絶対だぞ!」

 京は嬉しそうに手を振った。


 優子は、笑顔で手を振り、自分の行く道を見つめ直した。



 その後、京は、その界隈で数店舗を持つやり手のホストに上り詰めたというのは伝説である。

 しかし、売れないホストであった京がそんなに大金を持っていることが、不思議であった。

 親を失った悲しげな女子高生を、海に沈めたなどとあらぬ噂も結構流れたほどだ。



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【旅立ちの優子のステータス】


 氏名 木間暮優子

 年齢 17歳

 職業 女子高生

 レベル 1


 体力 50

 力 10

 魔力 1

 知力 2

 素早 5

 耐久 5

 器用 5

 運  7

 固有スキル 貧乏性:いらないものなら何でも引き受けます♡

 死亡回数 5


 右手装備 スマホ(ネット接続付き)

 左手装備 スクールバック

 頭装備  セーラー服リボン(赤色)

 上半身装備 セーラー服(半袖)

 下半身装備 紺のミニスカート(校則違反)

 靴装備 スニーカー(通学用)


 攻撃力 5

 守備力 5


 所持金 999,918,899,999

 パーティ なし


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