第5話 女の子の涙。

 キーンコーンカーンコーン。


 二時間目の休み時間。


 俺は親友とやいのやいの話している。


 木夏は下を見て、銅像のように机に座っていた。


 淡々と時間は流れ、二時間目の休み時間も終わる。




 三時間目の休み時間。


 ・・・息苦しい。


 ・・・窒息しそうだ。


 俺は親友との会話にろくに集中できず、眉をひそめていた。


 意識しないようにしているが、不穏な空気ダークオーラが隣の席から流れてくる。


 俺はチラッと隣をうかがった。


「・・・ッ!!!」


 木夏生きた屍が俺と親友が話しているのを羨ましそうに見ている。


 下唇を吊り上げ、泣きそうな目で俺を見ていた。


 周りのヒソヒソ話が耳に入る。


「木夏さん、可愛すぎて声かけにくい」

「なんて話しかければいいか分からない」

「かわいいけど、転校初日から遅刻するような人だもんね」

「なんか怖い感じの人だったら嫌だなあ」


 ああッ! 木夏の目から涙がッ!



 ダンッ!



 気づけば、俺は立ち上がっていた。


「シュウ、どうした?」


 ああもうッ!


 事なかれ主義とかどうでもいい!


 プライドとかどうでもいい!


 恥とかどうでもいい!


 どうでもいい! どうでもいい! どうでもいい! どうでもいい! どうでもいい! どうでもいい! どうでもいい! どうでもいい! どうでもいい! どうでもいい! どうでもいい! どうでもいい! どうでもいい! どうでもいい! どうでもいい! どうでもいい! どうでもいい! どうでもいい! どうでもいい! どうでもいい! どうでもいい! どうでもいい! どうでもいい! どうでもいい! どうでもいい! どうでもいい! どうでもいい! どうでもいい! どうでもいい! どうでもいい! どうでもいい! どうでもいい!


 嫌な汗が流れる。


 冷汗でれて、シャツが体に張り付いた。


 だが、


「汗にれても、女の涙にれるのはごめんだ」


「はあ?」


 俺はこれから、とても恥ずかしい事をするだろう。


 話し下手べたの俺のキャラじゃないんだ!


 だが、


 それでも、


 俺は、




「・・・泣いてる女をほっとくような男にだけは、成りたくない」




 グッと拳を握りしめる。


 俺は木夏の隣に立った。


 木夏も涙のにじんだ目で俺を見る。


 そして、俺は意を決して、木夏に声をかけた。






「ウェーイッ!!! ヤッホーッ!!! チミィ、元気してるッ!!?」






 しーん。





 空気がこおった。


「・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・」


 誰も彼もが目を点にして俺を見る。


 心が折れそうだ。


 でも、


 だから、


 なんだッ!


 木夏はポカーンとした顔で俺を見る。


「・・・え、えっと」





「ソイヤッサ! チミィ、どこから来たんッ!? えっ!? イギリスなんッ!? ってなんでやねッ!!! ダハハハハッ!!!」





 しーん。





「あとさッ! チミィ・・・」


「・・・」


「おい、シュウ!」


 親友が俺の腕を掴む。


「あ?」


「ジュース買いに行こうぜ」


「でも・・・」


「いいからッ!!!」


「・・・あ、ああ」


 俺は親友に引きずられて、教室を出ようとした。


 その時、





「出身はイギリスじゃなくて、隣の県から引っ越してきたから!」





 木夏は座ったまま、顔を真っ赤にして、大きな声を出した。


 固唾かたずを飲んで、教室中が俺たちのやり取りを見守る。



「・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・」



 俺は親指を立ててウインクした。




「アメリカンジョークだ」




 俺は親友に腕を引っ張られて、教室を出た。

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