02.旧友との再会

 その後、梶原とは何度かやり取りをし、僕が調査に参加しに行く日取りは、大学が夏休みに入る頃と決まった。


 そんなわけで当日の早朝。

 僕は荷物をまとめて家を出て電車に乗った。


 駅を降りると、まだ朝だというのに、恐ろしい熱気と日差しだった。

 一応、夏場の発掘調査で愛用している、つばの広い麦わら帽子を被ってきたが、これだけ日差しが強いなら、サングラスも持ってきたほうが良かったかもしれない。屋内の調査ということだったので、そこまで考えていなかった。


 異様な暑さと眩しさにはうんざりさせられたが、それはそれとして、大学までの通りを歩くと、なかなか懐かしい気分になる。この通りにある食堂やらコンビニやらカラオケ屋やらビリヤード屋には、たいがい一度は入ったことがある。

 中には潰れてシャッターが閉まっていたり、全然違う店になっていたりするところもあったが、おおむね記憶にある通りだった。


 そして、僕が学生の頃、ここを通る度にいつも気になっていたけど、高くて手が出なかったサンドイッチ屋もまだあった。学食の定食の2倍近くするサンドイッチなんて、当時の僕には超贅沢品だったのである。


 しかし、社会人となった今の僕なら、このくらいは気軽に出せる。ここは行っておくべきだろう。

 ……ただ、この暑い中、どうしてもカツサンドとかの重いやつには手が出なかった。それで、フルーツサンドにしておいた。当時の僕なら卒倒モノである。学食の2倍近くの金を出して、デザートを買うなんて! すごい贅沢である。


 とにかく、できるだけ日陰を見つけながら、フルーツサンドを食べながら、通りを歩くことしばらく。

 大学の正門前にやって来た。


 腕時計を見ると、ちょうど朝9時だった。

 夏休みの時期ということもあって、門をくぐる学生の数はかなり少なかった。


 梶原はすでに、正門前で待っていた。こちらに気付くと、手を挙げて合図をした。


 大学を卒業してから5年ほどになるが、梶原の風体は学生時代とは大きく変わっている部分があった。

 スキンヘッドになっていたのである。

 それは別に構わないが、この日差しで坊主頭むき出しはどうなのかね、と思わなくもない。さすがに日陰に立っていたが。


 服装はサファリジャケットを着込み、ひと昔前の冒険家のようだった。格好いいが、夏場にしては暑苦しいか。

 そのジャケット越しからでも、彼がフィールドワークとジムで鍛えた筋肉はわかるほどだった。そして肌は日焼けしている。彼の仕事を知らなければ、ラグビーでもやっていそうに見えるだろう。


 史学科の学生というと、根暗なひょろ長を想像する人が多いかもしれない。

 しかし、研究対象によっては、山やジャングルや砂漠を歩き回ることになるので、意外とフィジカルの強い人が多かったりする。

 梶原も、暇があればジムで身体を鍛えて、フィールドワークに備えている。


 なお、僕は期待通りのひょろ長眼鏡野郎である。そして、典型的な探検隊姿である。そして麦わら帽子。なかなかダサい。



 僕と梶原は正門前の日陰でひとしきり旧好を暖めたが、そのうち暑くて居ても立ってもいられなくなってきた。朝からすでにこの暑さとは、酷いもんである。

 というわけで、さっそくクーラーの効いた快適な車に乗り込み、現地に向かうことにした。

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