第6話 ついに攻略対象登場ですよね?
そんなことがあったからかは知らないが、午後の授業の教師たちはチラチラと私の顔を伺っている様子だった。
泣き真似だから、目が赤くなってるわけじゃないし、つか公爵令嬢だし、みっともない姿で公衆の面前に出るわけないじゃん。リリスのチェックが厳しいし。
リリスは、昼休みの出来事を聞きつけたらしく、私にひたすら謝り倒してきた。自分が離れてしまったばかりに私に不愉快な思いをさせた。って
「リリス、謝らないで。私が悪いの。私が王子に相応しくないから」
そう、反省しよう。反省だ。こんなことになっても、取り巻きの一人もいない悪役令嬢とは?いる価値あるのか?悪役令嬢だったら、取り巻きのひとりや2人どころか、10人ぐらいは引き連れてなくちゃダメでしょ?ゲームでさえも価値がないではないか!これじゃあ、もはやモブだよ。
駄菓子菓子、そう、だがしかし、主人公のあの態度は腑に落ちない。つか気に食わない。私を指さしアーンド呼び捨てするなんて!なんだろう?私がこんなんだから、主人公もレベルだだ下がりしたのかしら?
なんだかとても疲れたので、とにかく早く馬車に乗りたかった。
「アンネローゼ」
背後から声をかけられた。ロバートではない。ロバートは馬車乗り場で待っている。しかし、男性の声だ。はて、誰だろう?と思いつつ、優雅にゆっくりと振り返る。決して首だけではなく、体全体で声の主に向き合う様に。
ハーフアップの髪が、私の動きに少し遅れてふわりと揺れた。うん、いかにも貴族の令嬢って感じで出来たわ。と、
「王子」
私は固まった。
王子だ。王子なのだ!夢にまで見た第1攻略対象が目の前にいる。ああああ、アンネローゼではなくて、美和と呼ばれたかった。はぁ、王子の声ったらまんまあの声優さんでははないですかぁ!やばいよ、頭がクラクラするよ。
「アンネローゼ、辛いめにあったと聞いたよ」
王子の指が、そっと私の頬に触れた。ああっ、顔が近い。いや、もうっ!王子、このままキスして慰めて!!頭の中では、妄想大爆発なのだけど、まっっったく体は動かない。
「いえ、王子。私がいけないのです。なんの取り柄もないのに王子の婚約者になって、勉強も出来ない出来損ないなのです。私は、自分で自分が恥ずかしいのです」
私がそう言うと、王子は悲しげな瞳をして私の頬を撫でた。
「なぜそんなに自分を卑下するのです?」
ああ、王子。だって、私物凄い馬鹿なんですよ。運動音痴なんですよ。取り巻きが一人もいない悪役令嬢なんですよ!って言いたいー!
「本当のことです。努力を重ねた方からしたら、私の存在は疎ましいでしょう」
「だからといって、辱めを受けていいわけがない」
まぁ、そーなんですけど!顔めがけて指さされるとか、物凄い屈辱でしたけど。
「私が、もっと王子に相応しい女性になれていれば、こんなことも起きなかったはずです」
だから彼女を罰しないで下さい。ここは学校。身分の差は無いのですから。と俯きながら訴えれば、王子もくるでしょう!どーよ、私悪役令嬢ってより悲劇のヒロインじゃない?
「アンネローゼ、僕に相応しい女性になろうと?」
王子はハッとしたような表情をして私を見た。
「王子の隣に立つのに相応しい女性になりたいのです。いけませんか?」
王子は私の顔をまじまじと見つめてきた。もう、それだけで鼻血が出そうなんだけど、私は王子の婚約者。王子に見つめられたぐらいで目を逸らしちゃダメ、見つめあうのよ。
「今でも十分だと思うけれど」
お約束だわ、ソレ。
「ダンスパーティーで、成績優秀者はパートナーを指名できると聞きました」
王子が怪訝な顔をする。
「そうなれば、たとえ王子と言えどもその指名は断れません」
王子の眉がぴくりと動いた。
「私は、それを眺めるのは嫌なんです」
「アンネローゼ…」
王子の顔が少し緩んだ少しは喜んだかな?王子は私がお飾り推進派だった?
「僕のために努力をしてくれるのだね。嬉しいよ」
そう言って、王子は私の手の甲に唇を寄せてきた。やっぱりそこかぁ。頬にはしてくれないのねぇ。でも、こんな間近でそのご尊顔を拝見したうえに、お声が聞けて私はもう、いつ死んでもいい(1回死んでるけど)です。
「僕は生徒会役員だから、指名権がないんだ。でも、アンネローゼ、あなたに指名して貰えれば堂々とおどれるね、楽しみにしているよ」
そういって、王子は去っていった。素敵すぎる。さすがは攻略対象だわ。しかも、第1番目。黒髪に翡翠の瞳が……そうだった、翡翠の瞳は主人公と一緒。それを確か口説き文句で言うんだ。「同じ色の瞳、こうして見つめあっていたらお互いに溶けてひとつになりそうだ」だったかな?たぶん、このセリフはダンスパーティーでパートナーになった時に言われるんだとおもう。私、まだ聞いてないもん。でも、煽り文句には必ず書かれているから、このセリフを聞けば確定ルートって事よね。
そのセリフ、決して主人公に言わせてなるものか。
「馬車を待たせてしまったかしら?」
私は、ふと真顔になってリリスに言った。
「いえ、そんなことはありません」
リリスは、首を横に振る。アンネローゼ様をお待ちするのが私たちの仕事です。と付け加えた。
なるほど、貴族の令嬢とはそうあるべきなのか。このまま行ったら破滅エンドですな。取り巻き無しでの破滅エンドはキツイわァ
週末、何処ぞの侯爵家のパーティにお呼ばれをしていたそうで、学校から帰るなり、風呂に入り身支度をさせられた。とは言っても、私はひたすらされるがままになるだけで、髪はセットされ、化粧をほどこされ、ドレスがどーの、アクセサリーがどーのっ言うのは全部メイドさん達がやってくれた。仕上げにリリスが頭から香水をぶっかけてけれたので、目を閉じて息を止めるのが大変だった。
でも、鏡の中の私は、それは大変に美しい美少女に仕上がっていた。月の女神と称されるだけあって、銀色の髪がツヤツヤと輝き、瞳の色に合わせた宝石が首元を飾り、淡い色のドレスはレースや刺繍がふんだんに使われている手の込んだデザインだ。おそらくシルクでできているのだろう、重たい。私が前世で着ていたワンピースとは違う。本物ですっていう重み。ついでにパニエが、パニエで、涼しいんだか、暑苦しいんだか。
なぜだか、お父様とお母様は先に行ってしまっていた。娘の私は別行動らしい。不思議に思って、リリスに聞いてみた。
リリスは、深ーいため息をついてから、
「アンネローゼ様には、王子の婚約者としての招待状が届いております」
ん?私だけ、別口とな?
「アンネローゼ様は、リヒテンシュタイン公爵令嬢としてでは無く、招待されているのです」
リリスがここ、重要です。と念を押してきた。
つまり、つまり、だ。
「婚約者である王子が参加するからアンネローゼ様も参加するのです。王子が参加しないパーティには出られません」
なに、それ。初耳なんですけど。
「なに、それ」
私は予想外の話に我が耳を疑った。
「そう言うしきたりなのです。王族に嫁ぐことが決まっている令嬢は、その身分でしか公の場にでられないのです」
えーっと、それって、王子の許可がないと、私は社交界に出席できないと?それじゃあ、取り巻き無つくれないじゃん!なんか、ゲームと違くない?ちょっ待ってよ!ゲームのアンネローゼはどうやって取り巻き作ったのよ?
馬車の中で、私はさらに驚愕の事実をリリスに知らされた。
「公の場、特に王宮なのですが」
リリスは、私の手を取り、顔を見つめて、絶対に忘れないで下さい。と前置きをして
「身分の低いものから高いものに声を掛けることはできません」
つまり、それって……
誰も私に声をかけてくれない。ってことだよね?
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