第4話 とりあえず、最強の仲間がいました
一体、どんな人がやってくるのか?
でも、声は男性だったから、プレイヤーというわけではなさそうだし、まして、主人公でもない。そこは安心したけれど、攻略対象だとしたら?
「この世界って、お前がやってる乙女ゲームの世界であってるのか?」
そう言って、垣根の向こうから現れたのはロバートだった。
「え?」
驚く私に、ロバートはさらに追い打ちをかけた。
「お前、美和だろ?」
首を傾げるロバート。
その仕草と、喋り方、なにより、私の名前を知っている。
「え、まさか? 貴志?」
思いつく名前を口にする。
だって、あの事故で巻き込まれたとしたら、私の名前を知っているのは貴志しかいないだろう。あの横断歩道を歩いていたのは、ほとんど学校の関係者だった。同じ制服の女子生徒をみた。貴志と同じ制服の男子生徒もいた。
だからといって、あの場にいた生徒が私の名前をみんな知っている訳では無いし、ましてこの乙女ゲームを私がプレイしているのを知っている。となるとかなり稀な存在になるだろう。
そうなると、やはり、該当者は一人しかいない。
「そうだけど?」
何言ってんの?っ顔をしている。
「なんで?どーして?」
私は慌てた。だって、昨日は何もいわなかったじゃない。なのに、どうして今日いきなり?
「昨日、お前が馬車の中で倒れただろう?」
「うん」
「あの時、俺の中にも記憶が流れてきた」
「なんで、貴志は平気だったの?私は気絶したのに」
「多分、お前がブレーカーみたいになって、俺はそこまで衝撃を受けなかった。と思う」
貴志だって、よくは分かっていないらしい。そりゃそうだ、本当に事故で死んだらラノベの展開になるだなんて。
「お前、悪役令嬢だよな?」
貴志が心配そうな顔をしている。
「うん、このままだと破滅エンド一直線」
「まじか?」
貴志が思わず大声を出してしまい、慌てて口を抑える。
私も慌てて周りを見渡す。一応、垣根の中にいるので、すぐに誰かの目線がある訳では無い。それに、私が公爵令嬢であることが幸いしたようだ。周りに、誰もいない。
「やばいぐらい馬鹿なのよ、私」
「え?」
「未来の王妃のくせして、勉強しないの。ダンスとマナーはできるけど、その他は全く」
私は絶望的だった。なにしろ、主人公は1年で攻略対象の王子をダンスパートナーに指名できるほどの成績優秀者なのだ。今現在、確実にそうなっている。
「今から心を入れ直して、って入れ変わってるんだから頑張るしかないんじゃ」
「現状、主人公は確実に王子を攻略対象にしているとしか思えないの」
「なんで、わかる?」
「ダンスパーティーのパートナー、成績優秀者は指名できるの」
私はため息をつきながら言った。
「それって?」
「王子は3年生、狙うのは今年しかないの。だから、2年3年を蹴散らして1年生のしかも、平民なのに乗馬もマナーもダンスも完璧ってこと」
貴族の令嬢だから私がダンスとマナーができるのは当たり前なのよ。なのに、乗馬が出来ないのはなぜなのか?お金あるんだから、一人娘に馬ぐらいプレゼントしなさいよ、まったく。
「解決策は?」
「自分磨き」
「へ?」
「成績優秀者になれなくても、努力してますアピールは必要よ!よく考えてよ、悪役令嬢なのに、私に取り巻きが一人もいない」
「言われてみれば」
貴志は、こりゃまずい。といまさら気がついたようだ。そう、私には取り巻きが一人もいない。それだけ人徳がないのだろう。
だけど、これが幸いしてこうやって貴志と話が出来る。ってわけだ。
「とりあえず、お父様に泣きついて家庭教師つけてもらうわ」
私は決意も新たに立ち上がり拳を上げた。
「おう、頑張れよ」
貴志がその拳を上から握ってくれた。
「多分、立場的にお前が破滅すると俺もやばそうだから、とにかく頑張ってくれ」
貴志、私に運命託したな。どうなっても知らないからね!
「アンネローゼ様」
帰りの馬車の中で、リリスが静かに切り出した。
「うん?なぁに」
私は、家庭教師の件をどうやってお父様に切り出す考えていたため、1人でブツブツと呟いていたのだが、それを注意されるのかと思っていたら、
「侍従と垣根の中で2人きりになるのは宜しくありません。アンネローゼ様には婚約者がいるのですよ」
誰も見ていなかったはずなのに、何でリリスが知ってるの?私は思わずギョッとして、リリスを見た。
「口さがないものたちが噂をしておりました。アンネローゼ様は何もしていなくても目立つのです。その辺は自覚してください」
「分かったわ」
なるほど、貴族の令嬢が異性と2人っきりはまずいのか、そりゃそうだよね。うーん、貴志と作戦会議するの、場所を考えなくちゃか。家でもいいのかな?いや、家の方がまずいか?
とりあえず、貴志との作戦会議は邸の中の方が無難そうだ。
さて、その日の晩餐。
「お父様、お願いがあります」
私は、意を決して口を開いた。一人娘とはいえ、公爵家のしきたりに従えば、一番格下の娘が当主におねだり。あまりよろしいことではないだろう。だが、私は悪役令嬢から回避したいのだ。
「どうしたんだい?アンネローゼ」
お父様は、おだやかな口調で聞いてきた。お母様は私をチラリとみたが、ただそれだけだった。
「お父様、私、上手に乗れるようになりたいんです」
こう切り出して、お父様の顔を見る。うん、眉間にシワがよった。やっぱり、私が馬に乗るのよく思ってないな。
「乗馬など、出来なくてもいいだろうアンネローゼ。お前は王子の婚約者なのだよ。万が一落馬などしてみてご覧、申し訳が立たないよ」
お父様の言うことは至極もっともなのだけども、私は何もしない、何も出来ない高慢ちきな悪役令嬢になりたくないのよ。心を入れ替えちゃってるの。それを、どうやって伝えればいいのか?
「お父様、ご存じですか?学校では年末にダンスパーティーがありますの」
「無論、知っているよ。お前のパートナーはもちろん、王子だ、エスコートだってしてもらえる」
「違うんです!お父様」
私ははしたないとは思いつつ、フォークとナイフを握った両手をテーブルに叩きつけた。
バンッといういい音がした。
私の予想外の反応に、お父様も、お母様も目を丸くしている。よし、いい感じ。
「校内の成績優秀者は、ダンスパーティーのパートナーを、指名できるんです」
「それで?」
お父様は、それがどうしたんだ?という反応をした。そりゃそうだ、娘は王子の婚約者、指名なんてしなくても王子のエスコートでダンスパーティーに、参加するに決まっている。当然、それをわかっている貴族の子息令嬢が横槍を、入れるはずがない。そう、タカをくくっているのだ。が、
「成績優秀者の中に、平民の女子生徒がいるのです!」
私は、もう一度テーブルを叩いた。
そう、私は怒っているんですよ。と言うパフォーマンスだ。
「国民はみな知っている事だ。お前が王子の婚約者だと言うことは。それを知りつつ、そんな無謀な事は……」
お父様は至極当然のことと話をするが、
「1年生ですのよ!その女子生徒は!!王子狙いに決まっています」
私はさらに声を張り上げた。
さすがに、お母様の顔が青ざめてきた。
「生涯の思い出に。と、そういうことなら、平民の子女も努力するでしょうね」
お母様も、女だ。年頃の娘が、絶対に無理だと思っていた憧れの王子と、ダンスが踊れる千載一遇のチャンスをみすみす逃すはずがない。と理解してくれた。
「平民の娘なら、しがらみとかお構い無しに行動するでしょうね」
お母様は、ようやく私の主長にに理解を示しナプキンで口を拭くとお父様に向き直った。
「私からも進言しますわ。アンネローゼに乗馬の家庭教師をつけてください」
マナーやダンスは私が見ますから。と付け加えるのを忘れない。
「お父様、歴史の先生もお願いします」
私は必死だった。だって、悪役令嬢なのに、馬鹿とか信じられない!取り巻きもいないとか、人徳無さすぎでしょ?
「お父様、私が恥を書いても構わないとおっしゃるのですかぁ!」
私は最後の手段で泣き落としを実行した。
貴族の令嬢が、晩餐の席でギャン泣きとか予想外過ぎて対処できないでしょ?これでもかっ、て勢で泣いてやった。こちとら交通事故で16の若さで死んでるんだから!来世の今、幸せに生きていきたいじゃない!悪役令嬢とかまっぴらなんだからね。
「わかった、わかったよアンネローゼ。乗馬と歴史の家庭教師を、手配しよう」
お父様が折れてくれて、私のわがままが通った。私は心の中でガッツポーズを、しつつ涙を拭いながら、
「ありがとうございます。お父様。私、一生懸命励みますわ」
ニッコリと微笑むのだった。
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