第5話

 はい『無能者』のシレンです。

 十四歳になりました。

 廃嫡されたので性はありません。


 まあ、なんと申しますか......さすがに『無能者』に皇帝継承権を持たす訳にはいきませんよね。

 ちなみに、この時にアリスと父様も皇室から席を抜きました。

 

 元々、皇帝の継承については誰も望んでいた訳でもないでしたし、私が『無能者』を授かった事で、これ幸いと貴族達と私達の思惑が合致したのでスムーズに解決しました。

 .........少々、母様がキレかけましたが。


 廃席の理由として『無能者』なんて前代未聞のマイナスクラスを皇室の血に残す事は出来ない。

 皇帝である母様の血に問題がある筈がない。

 あるのは父親の方だ。

 なら、娘の方も席を抜くべきだろう。

 と、いう建前だったのですが......母様は......他人が父様を貶すと怒りますからね。

 

 しかし、現在この時の建前が問題になって貴族達は頭を抱えていますが、それは私達家族にはどうでもいいことですね。


 そして現在、私がどうしているかと申しますと。


「よし、次は四十四番。前に出ろ」


 冒険者学校の入学試験を受けに来ています。


 番号を呼ばれたので私は学校が用意した木剣を持って試験監の前に出ます。

 やはり、私の顔を知る受験生がいたのでしょう初めは小さな騒めきが大きくなっていきます。

 まあ、当然でしょう。なにせ私は『無能者』......冒険者なんて命を懸ける職業になんてなるべきではありませんからね。試験官も戸惑っていますね。

 

「......あー、こりゃ、どういう事なんすかね? なんで、ここに坊ちゃんが居るんですかね?」

「普段の口調でいいですよ。私自身は平民ですし母様は、そんな事を気にする人じゃありませんから」


 元冒険者なのでしょう。当然、母様を知っているので下手な敬語を使ってきました。


「......あー、なら、そうさせて貰うわ。――お前ここに何しに来たの? 何? 遊びに来たの? ここ冒険者学校よ? 冒険者を真面目に目指す場所よ? 坊主が来て何するの?」


 苛立ち紛れで言う試験官の言葉に受験生から、ヒソヒソと失笑、嘲笑、罵声が漏れています。。

 まあ、それは当然の事でしょう。

 真面目に受験を受けに来た彼らからすれば試験官の言葉通りにしか思えないでしょう.....残念ながら今の私にはそれを訂正させるだけの言葉も実力もありませんので聞かれた事に答えます。


「何をしに来たと答えれば試験を受けに来ました。真面目か遊び気分かと問われれば真面目と答えましょう。そもそも正規の手続きを通しているのですから、それは関係ないでは? そして、何をすると言うのなら冒険者の知識と技術を身に着けに来たと答えましょう。そういう訳で私には試験を受ける権利があり、貴方には試験をする義務があります」

 

 真っすぐに、眼を見据え言う私に試験官は鋭い眼で見据え返しつつ、頭をガシガシと掻きむしると――


「わぁーた、わぁーた。お前の言う通りだ。これも仕事だ。それに母ちゃんに告げ口されてもアレだしな......。試験......受けさしてやるよ」

 

 試験管は右手に持った木剣で肩を軽く叩きながらメンドクサそうに言いました。


「あー、なら始めるぞ。五分間、好きなように打ち込んでこい」


 私は「分かりました」と言葉と同時に、一足飛びに斬りかかりましたが、あっさりと躱されます。私は気にせず何度も斬りかかりますが片手しか使っていない相手に木剣を掠らせる事も出来ません。

 

 躱され、防がれ、弾かれ、何度も転ばされ、その度に生徒の失笑を誘います。


「はっ、生意気な口を叩いてこの程度かってぇの。わぁーたろ? ここは、お前みたいな奴が来る場所じゃねえって事がよ。とっととお家に帰りな。冒険者ごっこがしたいのなら母ちゃんに付き合って貰えや」


 周囲から――最早隠す気も無い嘲りの声があがり出しました。

 

「まったくよね」「あれで『剣神』の息子かよ」「無様だな」「『無能者』が」――


 ええ、そんな事は私が一番に理解している事ですよ。

 それでも、必要な事だから私はここに居るのです......私は――あのクソ女神のお遊びからといけないのですから。


 だから、私は何度でも立ち上がれます。雑音嘲り等好きなだけ奏でればいい――元から私はだったのですから......今更な事です。


 だから私は何度でも、試験官に斬りかかります......が、結果は先程の焼き増しです。――「ほらよ」と気の抜けた声と共に私の木剣は宙に舞い......「五分だ」と言う声で私の戦闘試験は終わりを告げました。


「ほら、終わりだ。とっとと次の試験にいきな。たく。お前じゃ一生掛かっても母ちゃんみたいにゃなれねえよ」


 私は木剣を拾い礼をした後、嘲笑の声を背に次の試験を受けにいくのでした。


「...」

「......」

「........待て。俺は今、何って言った?」


 そう、試験官が呟いた時には、私はすでにその場にいませんでした。

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